#40 愚痴



 夜道を一人ペダルを漕いでいると、次から次へと負の感情が湧いてくる。



 俺の事、初恋で唯一無二の存在とか言ってたのにな。

 だいたいさぁ、男と話すの苦手だって言ってたじゃん。

 意識しないで話せるの俺だけだって言ってたクセに、全然そんなことねーじゃん。

 俺の事一人占めしたいとか言ってて、自分は好き勝手にするのかよ。

 そういえば展望台で語り合った時に、俺もミキが他の男と仲良くしてるの見たら嫉妬するってハッキリ言ったよな。

 やっぱり今日のミキは分かっててあんな振る舞いしてたのかよ。

 俺を嫉妬させるのが目的だったのか?


 そうやって煽って俺の方から折れる様に仕向けたかったのかな。

 謝ってちゃんと話し合おうとしてたのが、バカらしくなってくるな。


 でも

 結局は、目の前に居ても口では直接何も言えずに、逃げるしか出来なかった俺が一番バカでヘタレだ。


 惨めだ。

 情けない。


 鈴木には偉そうなことばかり言ってたのに、全然ダメダメだな、俺。


 明日もバイトかぁ…

 行きたくないなぁ…


 どうせ明日のバイトも、俺の存在無視して八神くんばかり構うんだろうな。

 イヤダなぁ…


 直接話しが出来ないなら、いっそのこと『俺の存在無視して新人くんと仲良く振舞うのは、当て付けですか?』ってメッセージ送ってやろうか。

 でも、それやったらもっと拗れるだろうなぁ…


 あーいま通話とか掛かってきたら言っちゃいそうだな。

 電源も切っとくか。


 悶々と考え事しながら自転車を走らせていると、コンビニが視界に入ったので「酒でも飲んで酔わないと、寝れそうにないよな」と思い、お酒を買う為にコンビニに立ち寄った。



 入口でカゴ持って奥のドリンクコーナーに直行して一番安い缶チューハイをカゴにボンボン放り込んでいると、声を掛けられた。


「秋山先輩?」

「お、ホントだ。秋山じゃん」


 あちゃあ

 今は誰とも会いたくなかったのになぁ。


 振り返ると、鈴木と山根ミドリが仲良さそうに立っていた。


 そう言えば、鈴木んちこの近所だった。


「おっす。 実家から戻ってたんだ」


「おう。ミドリも一緒に昨日こっちに戻ってた」


「そっか。俺も昨日こっちに戻った」


「今日はバイトの帰り?」


「うん」


 ヒト目で仲直りしたことが分かる二人の様子を見ても、気分が沈んでいるせいで気が利いたことが言えずに、何とも言えない気持ちで適当な会話をしていると、山根ミドリがグッと近づいて俺の顔を見つめて来た。


「え、なに?」


「先輩、凄く顔色悪いですよ?体調悪いんじゃないです?それなのにお酒飲むんですか?」


「言われてみれば顔色悪いな。バイトで疲れてんじゃない?」


 山根ミドリにまるで俺の精神状態を見透かされたみたいで、以前二人に偉そうなことを言ってた手前、弱みを見せたく無くて、口から出まかせで誤魔化そうとした。


「平気平気!旅行から帰ったばかりで疲れてたのにバイトのシフト入れちゃってたから、ちょっとね。 酒でも飲んで寝れば復活するし」


「そうは見えないですよ?何かあったんじゃないですか? そういえばリュウヘイくん、秋山先輩がストーカーの被害にあってるって言ってたよね?」


「そういやそうじゃん。 え?まだ続いてたのか?」


「まぁ、ボチボチ…」


「ボチボチって何だよ、ってマジでまだ被害あるのかよ!?」


「大丈夫なんですか?私たちで何か出来ることありませんか?」


「そうだよ!秋山には散々世話になったし困ってるなら相談してくれよ!」


 変な話になっちゃったなぁ

 早く帰りたい…


「いや、大丈夫だから…早く帰りたい…」


「そんなこと言うなよ。 そうだ、今からウチに来いよ。話聞くくらいしか出来ないかもだけど。どうせ家帰っても一人で酒飲むんだろ?俺も付き合うし、ミドリも心配でしょ?」


「うんうん、先輩そうしてください」


「心配してくれるのは有難いけど、今は一人にしてくれよ…」


「……ヨシ!ラチるぞミドリ!」


「うん!」


 そう言って二人で左右から俺の両脇に手を回してガッチリ捕まえられた。


「コンビニ店内で何言い出してんの?マジ勘弁して」


「ノリ悪いなぁ!ほら行くぞ!」


 会計済ませてないのに二人とも強引に入口に引っ張って行こうとしやがる。


「分かったから、鈴木んち行くから離してくれ、会計してくるから。 これだから幸せバカップルは」はぁ…



 ◇



 で、1時間後。

 時計はもうすぐ深夜の12時。



「だいたいさぁ、オレぁミキがケッコンケッコン言うからちゃんと考えないとダメだと思ってた訳でサぁ…って聞いてる?」


「聞いてるぞ!つまり秋山はミキちゃんとの結婚を軽くは考えてないんだろ?」


「そーゆーこと!オレぁまだハタチじゃん?そんな若造が結婚したいっつったって、ケツの青いガキが何いってんだって話じゃん!なのにサぁ」



 最初は缶チューハイでチビチビやってたのに、鈴木に勧められたビール飲み始めたらハイピッチで止まらなくなって、結局ベロベロになった俺は帰省してから今日までの話を洗いざらい愚痴りまくっていた。


「わかる!わかるぞ!ただでさえ就職きっついご時世だっつうのにな!飲め秋山!飲んでミキちゃんのことなんて忘れろ!」


「ちょっとリュウヘイくん!飲ませ過ぎだよ!その辺にしなよ!」


「ちょっと待て鈴木。なんでお前がミキのことミキちゃんって呼んでんだよ!馴れ馴れしいだろ! それにミドリ!お前ぇ、お前だってな!今更なんなんだよ!俺のこと捨てといてサ!」


「お前だってミドリのことミドリって呼んでんじゃねーか!」


「オレぁは良いんだよ、元カレだからな!ミドリもそう思うよな!」


「もうやだ…二人とも飲み過ぎだよ」



 で、更に2時間程愚痴りまくって吐いて寝たらしく、気が付いたら翌日金曜日の昼過ぎで二日酔いで死にそうだった。

 俺が汚した始末を山根ミドリがしてくれたらしく、服も汚れたからと鈴木の服に山根ミドリが着替えさせてくれて、汚れた服も洗濯してくれていた。


 その話を聞いて、頭ガンガンしてふらふらになりながら二人に土下座謝罪すると、二人とも笑って許してくれた。


 それとミキのことに関しても、山根ミドリから「私が言えた立場じゃないですけど」と前置きして、親身にアドバイスをしてくれた。


「多分ですが、ミキさんは色々と順調で上手くいってると思ってたところに、一番身近な秋山先輩に叱られたのがショックだったんだと思います。 それでムキになっちゃって引っ込みが付かなくなってるんじゃないですか?冷静になればきっと先輩が言ってることが正しいって分かるはずですよ。 それと、帰省中にもストーカーが忍び込んだ痕跡があったことは、ミキさんにも話した方が良いですよ。そのことで秋山先輩に余裕が無かったこと分かって貰えるでしょうし、相談して貰えなかったって分かるとショックだと思います」


「冷静にかぁ…それが難しいんだよなぁ」


「大丈夫ですよ、秋山先輩がいつもみたいに落ち着いて冷静にしてれば、ミキさんだって自分も冷静にならないとって思いますって」


「そうかなぁ…」


「とりあえず、今日は家まで送るからバイトは休んどけ」


「うん…ごめん、そうする」


「良いから良いから! あとストーカーの件は、今度三島たちも呼んで改めて相談しようぜ」


「うん…助かる」



 自転車は明日体調戻ったら取りに来ることにして、鈴木の運転する車で送って貰った。 山根ミドリも付いてきてくれて、車を降りて部屋に入るまで二人とも付き添ってくれて、重ね重ねお礼と謝罪を伝えてから帰って貰った。


 部屋に上がり直ぐにでもベッドに横になりたかったけど、寝ちゃう前にバイト先に体調不良で休むことを伝えねば、とスマホを取り出すと昨夜から電源切ったままで、電源を入れるとミキからメッセージと着信が数件着ていたが、まだ頭ズキズキしててメッセージを読む気力も無く、バイト先に体調悪くて休むことだけ連絡入れて、スマホを手に持ったまま倒れる様に寝落ちした。



 ____________


 いつもご贔屓にして頂きまして、ありがとうございます。


 本日より通常の1日1話更新に戻ります。

 引き続き、よろしくお願いいたします。




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