パート4 実家への帰省

#27 帰省




 夏休みに入ると、落ち着いた生活が戻ってきた。

 ここ最近は色々なことが続いて、こうやって落ち着けるのは久しぶりに感じる。



 6月頃から、盗難だの、彼女と妹の初対面だの、ストーカー捕獲作戦だの、前期試験だの、偶然元カノと大学の友達が付き合い始めただの、その元カノに恋愛相談されるだの、目まぐるしい時期だったと思う。


 そんな日々の中でも、ここ最近は防犯対策をしっかり気を付けている為か盗難はあれ以降起きてないし、俺やミキ、そしてヒトミの周りでも身の危険を感じる様な事件事故なども無く、今は本当に平和な日が続いている。



 それと、鈴木はあの日押しかけて話した後、直ぐに山根ミドリに謝罪して態度を改める約束をしたらしい。

 1週間ほど経った頃、鈴木から連絡があり本人が言うには、「会いに行くのも連絡取るのも控えてる。彼女にもそう伝えてなんとか自制してたら、今日はミドリの方から会いに来てくれたよ。 秋山のお陰で失敗せずに済みそうだわ。ありがとうな」と。



「そっか、そりゃよかった」


「ミドリも秋山に凄く感謝してた。本当だったら罵倒されてもおかしく無いのにって。 だからまた今度改めてお礼させてくれよ。ミドリも直接お礼言いたいってさ」


「それは勘弁してくれ。 山根ミドリに関しては、あくまで緊急特例処置として話し聞いてあげただけで、慣れ合うつもりはないぞ? 俺の彼女、嫉妬深いからな、余計な心配は増やしたくない。 そもそもなんで俺を捨てた女の今カレの相談なんぞに乗らなあかんのだ? 今俺に彼女居るから仏の心境で話し聞く事出来たけど、彼女居ない独り身だったら発狂してたからな?三島とかが俺の立場だったら、マジで鈴木殴られてたぞ? それに俺だって彼女に「お人好しなのも程々に」って嫌味言われたんだからな?ホントもうこういうのは勘弁してくれよ?彼女のこと不安にさせたりするなよ?」


「わかったわかった。兎に角、ありがとうな」



 電話での会話だったが、顔を見なくても声だけで鈴木が元気を取り戻しつつあるのが分かった。

 お陰で、山根ミドリから直接話を聞いて以降、腹の底でグツグツと溜まってたうっぷんを鈴木にぶつけることが出来て、俺もスッキリだ。 流石に凹んでたりストーカー紛いに暴走してるヤツに、グチグチ文句言えなかったしな。




 ◇




 そんな平和な夏休み前半を過ごしていたが、遂に実家へ帰省する日を迎えた。


 8月中旬の金曜日。

 朝起きてシャワーを浴びて、朝食に何か食べようと冷蔵庫を開けてから、今日から五日間留守にすると言うのに玉子が1パック丸々残っていることに今更気付いて、留守中に腐らせるのは勿体ないから全部食べてしまおうと、朝食は玉子焼きと目玉焼きをオカズに卵掛けご飯を食べた。


 食事を終えると待ち合わせの時間に余裕が無くなってて、食器は洗わずシンクに置いままにして、帰省用に準備しておいたリュック背負って慌てて部屋を飛び出した。


 朝から日差しが強い中、ヒトミのアパートまで必死に自転車漕いで約束の時間にはなんとか間に合い、自転車を置かせて貰ってソコから二人でバスに乗って駅へ向かった。

 ミキとは駅構内の喫茶店で待ち合わせて、三人で電車に乗って隣県の地元へ向かう予定だ。


 喫茶店に入り客席を見渡すと、既にミキは来ており「コッチコッチ~!」と手をブンブン振っていた。


 世間ではお盆なのもあり、店内は満席に近いほど混雑している中で人目を気にしないミキに、俺は既に慣れているから平気だが、ヒトミはなんだかテンションが落ちている様子だった。


 俺とヒトミは「すぐ出ますんで」と何も注文せず、ミキも直ぐに会計を済ませて三人で並んで一旦地下街へ向かう。

 ミキはよっぽど旅行が楽しいのかずっとハイテンションで、歩きながらも喋りっぱなしだ。

 そんなミキにヒトミは相槌を打ちつつも平常運転に見える。

 俺は、実家の家族にミキを会わせることに不安や緊張を感じて、いつもより口数が少ないことが自分でも分かる。


 地下街では実家へのお土産を買うのが目的で、俺とヒトミ、そしてミキも手土産を用意すると言うので、三人のお土産が被らない様に、今日電車に乗る前に一緒に買うことにしていた。


 他にも駅構内のコンビニに寄り、電車内で食べるお昼用のおにぎりやサンドイッチにお菓子やお茶も購入し、ようやく改札口へ向かうと、流石にお盆休みなだけはあって混雑していた。

 それを見越して事前に切符を用意していたので、券売機やみどりの窓口の行列をスルーして直ぐに改札口を通過。



 ホームに降りて快速電車が停まる位置にて待機することにして、三人とも一旦荷物を降ろす。


 ホームは日陰だが、真夏の蒸し暑い熱気でとにかく暑い。

 まだ電車が来る時刻まで20分以上あり、ちょっと早かったかと思いつつ、俺とヒトミは自前の扇子や団扇を持ってきていたので、自分で扇いで何とか暑さを凌いでいた。

 だが、ミキは持ってきておらず、「ちょっと貸して」と言って結局俺の扇子は強奪された。



 ホームに電車が来ると直ぐに乗り込み、幸い空いていた向かい合いの4人席をミキが我先にと陣取る。


 荷物を頭上のラックに収めてから、ミキとヒトミが窓際席に向かい合って座り、俺はミキの隣の通路側席に座った。



 実家の最寄りの駅までは、途中乗り換えを含めて軽く2時間以上はかかる。

 一人での帰省なら寝るかスマホでゲームしながら時間を潰すが、今日はミキもヒトミも居るし、特にヒトミには山根ミドリのことをこの移動中に話すつもりだった。



 買って来たお菓子を三人で摘まみつつ、山根ミドリに関するここ最近の一連の出来事を話すと、ヒトミは「流石に反省はしてるみたいだけど、兄ちゃんに相談しに来るとか、やっぱりドコかズレてるね」と若干呆れつつも、妙に納得してもいる様子だった。


 兎に角、妹が気にしていた山根ミドリの最近の動向はこれ以上無い程に把握出来たわけだし、妄想だと言いつつ疑っていた山根ミドリストーカー説もナシとの結論が出せた。


 これでミキによる山根ミドリの調査は終了することになったのだが、ミキが最後にD大での話を聞かせてくれた。


 山根ミドリがバイト先に来店して話を聞いた際にミキも同席していたが、ミキはその場では名乗ってはいなかったので、山根ミドリにはミキがドコの誰だか知らないままになっていた。

 それがその翌週にD大の学食で偶然顔を会わせたらしく、山根ミドリが直ぐに気付いて頭を下げて挨拶されたそうだ。

 その流れで初めてミキも自己紹介をして、自分が秋山ヒロキの今の彼女だとも暴露したそうで、それを聞いた山根ミドリは、ミキに対して滅茶苦茶恐縮して平謝りだったらしい。




 ◇




 電車がA駅を出発して1時間程で乗り換えの駅に到着し、降りたホームから移動して列車を乗り換えて、そこから各駅停車に乗った。 乗り換えた車内では乗客数は一気に減り、そして窓の外も海や山などの自然豊かな景色に変わって行った。



 俺の実家のあるF町は、人口1万と少しの田舎町で、山と海のある自然が豊かな地域だが、それ以外は何も無い。

 町内には小学校が3つ、中学と高校は1つづつあるが、その高校も学力的には低い為、大学への進学を考える人は隣のE市の高校へ進学するのがほとんどで、俺もヒトミもそのクチだ。


 俺は自然に囲まれた生活や田舎が嫌いな訳じゃないが、田舎特有の価値観というか閉鎖的な考えみたいなのが苦手だった。

 ウチの母親なんかもそうだが、みんな噂話ばかりに熱心で身内とか仲間内には遠慮とかしないくせに、他所者とかハミ出した人間には物凄く冷たく、そして攻撃的になる。


 そういった田舎特有の環境の中で自分自身が傷ついたとか被害を受けたというような経験は無いが、見ていて気分が良い物では無く、さっさとこんな田舎は出て行きたいと子供の頃から考えていた。


 何となくだが、ヒトミも同じ様なことを考えている様に思える。

 お互い、地元のことをそんな風に話したことはないが、地元への執着心が薄い様子に、なんとなくそう感じる。



 地元の駅に着き改札口を出ると、正月に帰省した時と何も変わらない寂れた駅前が広がる。


 バスとタクシーのロータリーがあるが、実家方面へのバスは1時間に1本で、タクシーは台数が少ないので1台も停まってないことも多い。


 バス停の時刻表を確認すると、10分ほど待てば来ることが分かり、そのままバスを待つことにした。



 本来なら長男長女揃って、しかも長男の恋人も連れての帰省となれば、駅まで親に車で迎えに来て欲しい所だが、生憎ウチの親は共働きで、お盆休み直前金曜日のこの日はまだ仕事だった。



 バスに乗って15分程走り、漸く実家近くのバス停で降りると、バス停には下の妹のマユミがお迎えに来ていた。

 どうやら駅でバスを待ってる間に、ヒトミが『駅着いた。バスで帰る』と連絡を入れていたらしい。


 3人がバスから降りてバスが走り去ると、マユミはミキに興味深々と言った感じで、「初めまして!噂の彼女さんですよね!マジやばい!モデルみたいでめっちゃ綺麗だし!」とグイグイ話しかけていた。

 ミキの方も俺とヒトミの妹であるマユミに興味あったのか、一緒になって「マユミちゃんだよね!流石中3!肌めっちゃキレイだし!羨ましい!」とグイグイお喋りしている。


 俺とヒトミは長時間の移動で疲れ切っていたので、そんな二人を放置して歩き出すと、二人もワイワイ騒ぎながら後ろを着いて来た。

 こうやって見ると、ミキとマユミはちょっと似ている。

 顔とか背格好では無く、キャラというかテンションと言うか。



 漸く実家に到着すると、玄関扉を開けて「ただいまぁ」と言うが、家には誰も居ないので返事は無かった。





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