パート3 友人と元カノ

#19 噂の友人彼女の正体



 月曜日は授業が午前だけなので、昼から時間が空く。


 今日はその時間を利用して、三島と山田、そして鈴木の3人に、俺の身の回りで起きていることを相談することにした。

 勿論、いきなりでは無く探りを入れて反応を見てからだけど、ストーカーに関してはミキやヒトミよりも男の友達のが頼りやすいっていうのもあり、今のうちに話しておこうと考えた。



 授業が終わりお昼時に学食でいつも座る隅っこのテーブルで、各々が買って来たメニューを食べ始めた。


 俺は、天ぷらソバ。

 三島は、カツカレー。

 山田は、ミートソースのスパゲティ。

 鈴木は、焼き魚定食。

 どれも、比較的安くて味も微妙なメニューだ。



 みんな食べながらも自然とお喋りが始まる。

 話題は、鈴木の新しい彼女について。この仲間内でいま最もホットな話題だからね。

 俺も一口ソバを食べて、伸び気味な麺にソバをチョイスしたことを若干後悔しつつ、鈴木に質問した。



「鈴木の彼女って、学生?ドコの学校?」


「D女子の1年!マジで可愛いぞ」


「年下かよ!クソムカつく!」


「そういや秋山の彼女もD女子やなかった?」


「うん。2年だけどね」


「2年じゃ接点は無いか。 そう言えば!彼女もB県から来てるって言ってたぞ。E市だから秋山の実家と近いんじゃね?」


「そうだね。俺の実家E市の隣だし、俺の出身校もE市だよ。高校はドコって言ってた?」


「そこまでは聞いてないや。今度聞いとく」


「それで、もうヤッタの?」


「おう。土日泊まりに来ててさ」


「この間付き合い始めたばかりだろ!?もうヤッテんのかよ!やっぱムカつく!」


「どんな子なん?写真無いん?」


「あるぞ! この間写真送れって言われてたから、泊まりに来た時に撮らせてもらった」



 鈴木はそう言って、彼女の画像を表示させたスマホを自慢げにテーブルに置いて、みんなに見せてくれた。


「ブフォッ!?」


 それ見て、口に入ってたソバを思いっきり吹き出した。


「ど、どしたん!?急に!」

「汚ったねーな!」

「水飲め!水!」


 ゴホゴホせながらコップの水を飲んで、何とか落ち着こうとしたが、鼻水まで出て来た。



 鈴木のスマホに写ってたの、山根ミドリだった。

 鈴木に肩を抱き寄せられるようにして、澄ました様な薄い笑みを浮かべて写っている。


「もしかして、知り合いか?」


 知り合いどころか、元カノなんだけど…

 しかもこの女には、別れる前の短い間とは言え二股されてたんだけど…

 鈴木のことを思えば、「やめておけ」と言うべきだが、幸せ絶頂の鈴木には、非常に言い辛い…


 動揺しつつも何とか答える。


「ちょっと時間くれ…、衝撃強すぎて、なんて説明すれば良いのか分からん」


「お、おう。分かったよ」


「ははーん、さては、アッキーの元カノとかじゃね?」


「三島、余計な詮索すな。あとで秋山がちゃんと説明してくれるやろ」


「そ、そうだな、すまん」


 みんな俺の只ならぬ様子に察してくれて、この場ではそれ以上詮索するのは止めてくれた。

 もうこうなったら誤魔化すのは難しいし、黙ってたって山根ミドリ本人の口からバレる可能性もある。

 だったら、正直に俺の口から話すのが一番安牌あんぱいだろう。


 しかし、今日は盗難事件&ストーカーのことを相談するつもりだったのに、思いも寄らない展開になってしまった。




 ◇




 食事を終えると、場所を変えようってことで、俺の部屋に移動した。

 因みに、俺が自分で「俺んちでいい?」と提案した。

 少し時間を空けたのと自分の部屋だということで、少しは冷静になれたので、落ち着いて話すことにした。


「で、秋山は彼女のこと、知ってたんだろ?」


「うん。高2の夏から高3の秋まで付き合ってた、元カノ」


「やっぱり…」


「うっわ、それは気不味いな!」


「三島、お前は黙ってろって」


「おう、すまんすまん」

 

「それで、鈴木には彼女のこと、全部話そうと思うんだけど、気を悪くさせると思う。 聞きたくないなら止めるけど、どうする?」


「うーん…、ヤバそうな話なんだよな? でも、ここまで来て聞かない訳にはいかんだろ。話してくれるか?」


「了解。 山根ミドリは俺と付き合ってた間に、俺に隠れて別の男とも付き合ってた」


 俺の話を聞いて、鈴木は更にテンションが落ちた。

 三島と山田は、あちゃーって顔してる。

 いつも冷静な山田には珍しい表情だ。


「元々は妹の友達だったんだけど、妹も同じ高校でさ、妹通じて俺の事知ったらしくて、相手から告白されて付き合い始めて、付き合ってた頃は俺の前では普通だったと思う。 それでずっと上手くやれてると思ってたんだけど、高3の秋に突然フラれてさ、別れたいって理由も、俺が県外の大学に進学すると寂しいからとかなんとか色々言われたんだけど、別れた後に周りの友達とか後輩とかが色々教えてくれて、俺と別れる前に既に他に男作ってたことが発覚して、俺の周りでは本性はそういう女だっていうのが周知されてる。 だから俺としては、関わりたくない女ナンバーワン」


「そっか…」


 鈴木は頭抱えて、固まったままだ。


「それで俺は卒業してコッチ来てからは山根ミドリのことはすっかり忘れて思い出すことも無かったんだけど、コッチの学校に進学してたことはつい最近妹が教えてくれた。 因みにウチの妹は二股の話聞いた当時、激怒して山根ミドリにビンタ喰らわして喧嘩別れしたらしい」


「アッキーの様子から、ただの知り合い程度じゃないとは思ったけど、結構シャレにならん話だな」


「まぁ、部外者が口挟むべきやないとは思うけど、その彼女とどうするかは良く考えた方がええやろな」


「おう…」


「鈴木、もし彼女と話し合うなら、俺の名前出しても良いよ。 会うのは勘弁だけど」


「分かった。 話してくれてありがとうな。よく考えてみるよ」


「うん」


「今日は帰るわ。ちょっと一人で考えたい」


「了解。あんま思いつめんなよ?」


「おう。大丈夫」


「明日、学校休むなよ?」


「大丈夫。学校にはちゃんと行くよ。 じゃあな」


「あいよ」

「気ーつけて帰れよー」

「またな」


 いつもテンション高めで陽キャの鈴木が、今にもゲロ吐きそうな顔色で肩を落として帰って行った。



「しっかし、驚いたな~!」


「ああ、流石にこれは驚いたわ」


「俺もめっちゃびっくりしたけど、まあB県からコッチに進学するヤツ多いからな。 世間は狭いと言うかなんというか」


「でも、鈴木があんなに凹むの、初めて見たわ」


「そりゃ凹むやろ。なんて言ったって、友達と兄弟なの発覚した挙句、その女がビッチやったって話やし」


「珍しいな、山田がそんな風に言うの。でも実際によくある話じゃね?友達の元カノと付き合うとか、他の男に乗り換えるのに交際期間が一時的に被るとか」


「だって、俺そういう女ほんま大嫌いやし。 鈴木には言えんかったけど、そんな女とは別れるべきやって思うぞ?」


「まぁ俺も同意だけど、二人の付き合いまでは流石に口出せないしな」


「そやな」


「ところで、俺からも二人に話というか、相談があるんだけど」


 鈴木と山根ミドリのことで、今日は話すのを止めようかと考えたが、幸い鈴木が先に帰ってしまい二人が残ってくれてたので、予定通り盗難事件&ストーカーの話をすることにした。

 

「なになに?アッキーも彼女と別れそうだとか?」


「違うっつーの!俺は別れないって! そーじゃなくて、俺自身の身の周りの話!」


「ん?何かあったん?」


「見て欲しいメモがあるんだけど、見てくれる?」



 そう言って、妹にも見せた盗難被害のメモを二人に見せた。



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