#18 対策



 漸く3人共起床すると、順番に顔を洗い、ミキが昨夜作ってくれた味噌汁の残りとご飯で朝食を済ませた。

 その後はヒトミが洗い物をしてくれると言うと、ミキもその間にお風呂とトイレの掃除をしてくれると言うので、二人に任せて俺はコンビニに買い出しに出かけた。


 近所のコンビニで、飲み物とヒトミ用の歯ブラシなんかを購入してマンションに戻ると、お隣さんが丁度部屋から出て来たところに出くわしたので、いつもの様に「おはようございます」と挨拶すると、相手もいつもと同じようにモジモジしながら「おはようございます」と返事をしてくれた。


 いつもならソコで終わりでそれ以上は何も言わずに立ち去るのだが、昨夜はミキが急に大声出したり二人が遅くまでお喋りしててお隣さんに騒音迷惑を掛けたのでは無いかと不安が頭を過り、「昨日の夜は五月蠅くしちゃってごめんなさい」と付け加えた。


 すると、普段顔を会わせても多く会話しない俺が挨拶以外のことを喋ったことにお隣さんはビックリした様子だったが、若干狼狽えながらも「いえ、大丈夫です」とボソボソと聞き取りにくい声で返事をしてくれたので、「では」と短く断ってから自分の部屋に入った。




 部屋に戻ると、ミキはお風呂掃除を終えてトイレ掃除の最中で、ヒトミも洗い物が終わった様で、床を掃除機掛けしていた。



 ヒトミに「歯ブラシ買って来たよ」と渡すと、「ありがと。先に掃除終わらせちゃうね」と言うので、そのまま掃除をお願いして、ミキにも「ただいま。他にすることある?」と声を掛けると、「う~ん、そうだ。私たちの昨日着てた服も洗っちゃおうか」と言うので、「了解。じゃぁヒトミも洗って欲しいのあったら、洗濯機に入れてくれる?」とヒトミにも声を掛け、その間に買って来た物をキッチンで片付けをした。


 脱衣所で洗濯物をしていると、ミキもヒトミも掃除が終わり二人が歯を磨きに脱衣所に入って来たので、俺も歯磨きをすることに。


 狭い脱衣所で3人すし詰め状態で歯を磨いていると、昨日まであれ程彼女と妹を会わせることがイヤだったのに、今日はこうして3人で一緒に歯を磨いていることが急に可笑しくなってきてニヤニヤしてしまい、鏡に写るヒトミと目が合うと、ヒトミは歯ブラシを口から出して「兄ちゃん、にやけ顔めっちゃキモイよ」と冷静に突っ込んできた。


「いや、なんか可笑しくて」と言い訳するように答えて、にやけ顔にならない様に目を細めて眉間に皺を寄せた顔で歯磨きを続けていると、今度はミキが噴き出して笑い出した。


「人の顔見て噴き出すとは、失礼だな、君!」と指摘すると、口をすすいだミキが「だってヒロくん、真面目な顔しようとしても全然緊張感無いんだもん!」とのたまった。


 ヒトミも「確かに、危機感とか緊迫感のない顔してますね」と冷静に同意していた。



 ◇



 歯磨きの後は、冷たいお茶を用意してローテーブルで3人座って昨晩の続きを相談することに。


 まずは、今後の防犯。

 部屋に誰も忍び込めない様にする為の対策。


「窓の鍵を忘れないようにすれば良いし、これは大丈夫でしょ」


「でもヒロくん、昨日の話だと、意識してちゃんと施錠してた訳じゃないみたいだし、実際に度々忘れてた訳でしょ? だったらこれからだって忘れちゃうことがあるんじゃないの?」


 中々手厳しい意見だが、自分でもそう思う。

 今まででも、学校とかバイトとかに出かけてから「あれ?玄関の鍵どうしたっけ?無意識にかけたのかな?それとも記憶にないってことは本当に掛けてないのか?」って不安になることよくあるし。

 因みに、冬場のコタツでも「あれ?コタツの電源切ったっけ?」となることが度々ある。



「注意喚起の張り紙を玄関に貼っておいて、それを見たら、鍵掛けた覚えがあっても一度部屋に戻って窓の鍵を必ず確認する。 鍵を確認する時は、指差し確認して「鍵よーし!」って口に出して復唱する。そういうルールを作る」


 ヒトミが具体的な施錠確認のルールを提案してくれて、実際に指差し確認の動作も見せてくれた。


「なんか見たことあるね」


「あれじゃない? 駅のホームとかで駅員さんがしてるの」


「そうそう、駅員さんだ。指差し確認してるね」


「元々は安全の確認する時に、形だけになるのを防止する目的とか、異常を見逃さない為に目線をちゃんと向ける確認方法だけど、忘れっぽい人とか横着な人にも効果あると思う」


「それじゃあ決まりだね。 玄関の張り紙は私が描くね!」


「了解。ミキに任せるね」


「後は、普段からカーテンも閉める様にして留守の時でも部屋の電気を点けたままで、窓の外から中の様子が見えないようにするのも効果あると思う」


「なるほど、留守中も在宅を装うのか。 テレビとか点けっぱなしも良さそうだけど、毎日だと電気代大変そうだから、当面は金曜日だけでもやってみるか」


「取り合えずで思いつくのはそれくらい」


「流石コナンくん、やっぱり俺よりもしっかりしてるな。 後は、ミキとヒトミのことだけど、ミキはバイトの帰りは毎回俺が送るようにするよ。 ヒトミはバイトは何時終わり?」


「私は毎回10時上がり。 でも自宅のすぐ傍のファミレスだから大丈夫」


「うーん、それでも気を付けた方が良さそうだけど、バイト先とかに送って貰えるような人は居ないの?」


「ヒロくん、それこそ危ないよ。 男の子だと気があるって勘違いされちゃうこともあるし、自宅まで送って貰ってたら自宅の場所も知らせちゃう訳だし」


「なるほど…、っていうか、ヒトミはそういうの頼めるようなボーイフレンドとか彼氏候補とか居ないの?」


「居ないよ。まだ大学入って3カ月経ってないからね。そんな余裕無いし」


「ヒロくんは、大学入って3カ月で彼女作ってたけどね!」


「君はナニを言ってるのかね? まぁ俺とミキのことは置いておいて、ヒトミに関しては、ひとまずはバイト後は寄り道せずに速やかに帰宅するってのと、不要な外出は控えるってことくらいか」


「うん、そうだね。気を付ける様にするよ」 


「それで、犯人というかストーカーはどうするの?」


「そうだなぁ…、今の所はコチラからは何もしないかな。 ストーカーって追い詰められると刃物とかで襲って来たりするイメージあるし」


「確かに兄ちゃんの言うのも一理あると思うし、無理はするべきじゃないですね」


「じゃぁ当面は、元カノさんの身辺調査と、ヒロくんの友達の事実確認くらい?」


「そうだね。 三島と山田には明日探り入れてみるよ」




 色々相談していると、気付けばお昼12時を回っていたので、今度は昼飯に俺が炒飯を作って3人で食べた。

 食後は、ミキが玄関に貼る施錠の注意喚起の張り紙を作成してくれて、ヒトミも施錠確認のルールを書いたものを作ってくれたので、それぞれ玄関と冷蔵庫に貼ると、指差し確認の実践練習を何度もやらされた。


 



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る