パート2 彼女と妹

#09 呆気ない真相




 今後の方針としては、まずは誰が犯人なのかを知ること。

 そして、俺の部屋から私物を持ち出すことはもう止めて貰い、穏便に済ませること。

 こう何度も知らない間に部屋から物が消えるというのは、兎に角気味が悪い。

 誰が犯人だろうと、早々に止めて貰いたいものだ。


 その為には、誰が犯人なのかを調べ、証拠なりを押さえ、そして話し合う。

 関係が拗れることは避けたいので、決めつけて態度に出したり、証拠も無く追及したりはしない様に気を付けたい。




 ◇




 それで早速、今日は昼からミキとデートだ。

 最近の週末デートのパターンなら、待ち合わせてからドコかで昼ご飯食べて、ミキの買い物等に付き合って、俺の部屋に移動してミキはそのまま泊まって行く。


 特に注意して観察したいのが、俺の部屋に移動してからだろう。

 不審な動きが無いかよく見て、もし現場を押さえることが出来たのなら、その場で話し合うことも考慮しておくべきか。あくまで責めるのではなく、どうしてこんなことをするのか聞き出して、なんとか穏便に解決したい所だけど。


 しかし、ミキのことを疑わなければならないのは、やはり辛い物があるな。




 この日、待ち合わせ場所である彼女の自宅近くのコンビニへ自転車で向かい、彼女と合流するとそのまま自転車で繁華街の方へ移動した。


 適当な場所に二人の自転車を停めて、ミキのお泊りセットの入った大きめのトートバッグを預かると、「ドコでお昼食べようか?」と相談しながらブラブラすることに。


 歩き出すと直ぐに、ミキは俺の腕に自分の腕を絡ませてピッタリ身を寄せてきた。

 やはり、こうして一緒に居ると、ミキの態度には悪意など一切なく好意や愛情しか感じられない。


 やはり行き過ぎた好意による犯行なのだろうか?


 家を出る前に考えていたことを歩きながら再び思い返し、チラリとミキの表情を覗うと、俺と目が合った途端、まるで『幸せ一杯!』とでも言いたげな満面の笑顔でニンマリとした。


 ミキは長身なので目線の高さが俺と近くて、直ぐ目の前にあるミキの笑顔を見つめる。

 鼻筋が通った少し彫の深い顔で、まつ毛長くて顔は小さくて、やっぱり綺麗な顔をしてると思う。 笑顔が似合う健康的な美人だ。


 もう結構な付き合いなのに、見つめ合った途端ドキドキしてしまい、でもそんな内心を悟られたくなくて、誤魔化す様に話しかける。



「めっちゃ楽しそうだね。良いことでもあったの?」


「えー!解らないの?」


「うーん、なんだろ…。 今日はお通じ良くて1週間ぶりに大きいの出て久しぶりに便秘の苦しみから解放されたとか?」


「私便秘じゃないし!毎朝ちゃんと出てるよ!って、こんな場所で女の子になんてこと言わせるの!」


「だって、それくらいしか思いつかなかったもん」


「もう!」


 ミキはプリプリ怒りながらも、絡ませている腕は離さず、むしろギュっと力を込めて来た。


 うーむ。

 やはり、恋人としてのミキからは愛情しか感じられない。そしてそれは俺も同じだ。 多少、行き過ぎた行動があったとしても、お互いの愛情が陰ることはきっとないだろう。


 ミキが犯人だったのなら、許すことが出来る。

 ミキだったら、財布や通帳盗まれても許してしまうかもしれない。


 俺の腕に抱き着くミキの柔らかい胸の感触を感じながら、俺はミキへの想いを再確認した。



 お昼ご飯は、客入りが比較的空いていたお好み焼き屋さんに入った。


 カウンター席に座り、それぞれ大盛焼きそばと豚玉大を注文し、シェアすることにした。

 目の前で店員さんが焼いてくれて、出来上がると二人でイチャイチャしながら食べ始め、この後どうするかを相談すると、「今日はウロウロしないでヒロくんの部屋でゆっくり過ごしたい」と言う。


『ゆっくり過ごしたい』イコール『イチャイチャラブラブしたい』と脳内変換した俺は、「じゃあ、スーパーだけ寄ってウチに行くか!」と迷わず賛同して、お好み焼きの残りを掻き込むように口へ運んだ。


 お好み焼き屋さんを出ると自転車を回収して、直ぐに俺の部屋に向けて出発。

 途中で自宅近くのスーパーに寄り、今夜はミキがハンバーグを作ってくれると言うので、挽肉やら玉ねぎやらパン粉などを購入して、スーパーの隣にあるドラッグストアで避妊具のストック分も購入して、再び俺の部屋へ向かう。




 ◇




 部屋に戻るとミキがベランダの窓を開けて室内の換気を始めたので、俺は買い物した荷物を冷蔵庫などに仕舞う作業をしながら、ミキの様子に意識を向ける。


 ミキは窓を開けて網戸にした後キッチンに来ると、「のど乾いた~」と言いながら俺の横から手を伸ばして冷蔵庫のお茶のペットボトルを取り出した。


 気にしていないフリを装い作業を続けていると、ミキがグラスが1つ足りないことに言及した。


「あれ?グラスが1つしか無いよ?どこかに置きっぱなし?」


 作業の手を止めて振り返り、返事をせずにミキの表情を観察する。


「ねえ、グラス知らない?1つしか無いよ?2つペアだったでしょ?」


 ウソをついている様には見えない。

 純粋に、グラスが1つしか無くて困っている表情に見える。

 一瞬、盗んだことを誤魔化したくて、敢えて自分からグラスの話題を出したのか?と思ったが、グラスに関しては、ミキは本当に知らない様に見える。


「うーん、分かんないや。ドコ行ったんだろうね? とりあえず、俺の分はマグカップでいいや」


「ふーん、了解。 テーブルに置いとくね」


「さんきゅ」



 作業を終えて、テーブルに用意してくれたお茶を手に持って室内に移動すると、ミキはローテーブルでトートバッグの中身をゴソゴソとしていた。


 ベッドに腰掛けてミキの背後から様子を伺っていると、バッグから取り出した紙袋を手に持ってコチラに振り返り、「ヒロくん、ごめん。先週着たまま帰っちゃってた。 ちゃんと洗って来たから返すね」と言い出した。


「ん?なんのこと?」


「先週のお泊りで寝る時に肌着代わりに貸して貰ったTシャツね。上に羽織ってたパーカーはちゃんと返したのに、下に着てたTシャツはうっかり着たままだったの」


 ミキはそう言って、可愛らしくテヘペロって顔をした。


「え?マジで?」


 紙袋を受け取り中身を確認すると、例の盗まれたと思ってたお気に入りのTシャツが入っていた。

 言われてから先週のお泊りした時のことを思い返してみたが、確かエッチしたあと一緒にシャワー浴びて、ミキが「着る物貸してね」とか言って裸のままクローゼットでごそごそして、寝る時には俺の黒いパーカー着てたな。あの時その下にこのTシャツ着てたのか。全然気づかなかった。


 あれれ?

 ってことは、盗まれたと思い込んでたけど、タダのおっちょこちょいって話?


「ごめんね? バイトの時に返せば良かったとは思ったけど…」


「ん?そうじゃん。うっかりだったなら、バイトで毎日顔会わせてるんだし、返してくれれば良かったのに」


「だってぇ」


「だって?」


「もうちょっと着てたかったし…」


「なんで?そんなに気に入ったの?」


「そーじゃないんだけど…」


「じゃあナニさ」


「ヒロくんが良く着てたTシャツだったし? ソコは色々と―――」


「え、ナニ? 俺の代わりにTシャツ抱きしめて毎晩寝てたとか? まさか!Tシャツから俺の匂いがするとか言ってTシャツに顔埋めてクンカクンカしてたりしてないよね!」


 俺が冗談半分で指摘すると、ミキは顔を真っ赤にさせて俺を睨みながら無言でバンバン叩いて来た。


 どうやら図星だったようだ。

 怒った顔も可愛い。


 だが、コレで事件は解決したということか。

 帽子やシューズも持ち帰って、性癖を満たすのに使ってたってことだな。

 予想通りだった様で、呆気ない幕引きだった。


 しかし、ミキはそんなにも俺のことが好きなのか。知ってたけど。

 行き過ぎた行動は宜しくないが、この程度なら全然許容範囲内だ。

 むしろ、ちょっと嬉しいくらいだし。


 だが、無くて困ってる物もあるので、速やかに返却して欲しい。



「とりあえず、ミキがどんだけ俺のことが大好きかは痛いほど分ったけど、帽子とかジョギングシューズも返してね。 今朝とかジョギング行こうとしたらいつも使うシューズが無いんだもん。ジョギング行けなくて困ってたんだよ」


「んん?ジョギングシューズ? 私、Tシャツしか知らないよ?」



 なんだと?





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る