も〜うっ!えらいこっちゃ!

久石あまね

第1話 きっかけ

 激しい夕立が降る中、笹崎あまねはパンクしたチャリを漕いでいた。キイコキイコと音がなる。


 「雨降るわ、パンクさせられとるわ、今日は運が悪いで、ほんまに、も〜うっ!えらいこっちゃ!」


 夕立で夏服の制服はびしょびしょでブラジャーは透けて見えていた。あまねのたるんだお腹もはっきりと見えている。あまねは二重あごをくいと引きハンドルに力を入れたら、チャリの前輪が外れ転倒した。


 あまねは「も〜うっ!」と言った。すれ違うチャリに乗ったステテコと白シャツのおじいちゃんが、「おまえさんは牛か!」と言った。おじちゃんはそのままチャリを漕ぎ、通り過ぎて行った。


 「牛ちゃうわっ!」


 あまねはおじちゃんに向って叫んだ。


 あまねは仕方ないのでチャリを道端に捨て歩いて家に帰ることにした。


 家に帰る途中、本屋の前を通った。夕立はまだ激しく降り続いている。あまねは傘を持っていなく、ずぶ濡れになって歩いている。


 本屋から坊主頭の生徒が走って出てきた。なんやあいつは。あの顔は…。よくみたら同じクラスの野球部の田中裕二だった。田中は本屋の前で一旦止まり、決意したようになぜかうなずいた。


 「田中なにやっとるんや?」


 あまねの声は夕立にまぎれ田中には届かなかった。


 「田中、聴こえとるか?」


 あまねは田中と目があった。田中はこっちに向って走ってきた。野球雑誌を手で持って、そのままあまねとすれ違うようなかたちで走り過ぎていった。


 あまねとすれ違うとき、田中はニヤリと笑い、「絶対言うなよ」と言った。もちろん万引したことを、ということだ。


 これがあまねと田中の仲良くなるきっかけだった。後にこの事件が、あまねの運命を変えることになるとは、あまねは思いもしなかった。

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