第3話

姉が嫁ぎ先に帰る日がきた。


「ごろごろしとって、かんべねごめんね

「ゆっくりでぎだみたいで、よがったな」

「眞白、おめもわらわら早く結婚せい」

ねえぢゃ、方言が新潟と山形、混じっとるよ」

だからだよね


そう言って、二人で笑い合った。

「眞白、染め物、うまぐなったな」

「それほどでもねえさ」

「眞白、おめに白く染める方法、教えるっちゃ」


姉は、新潟でも染め物の仕事をしている。

嫁ぎ先で学んだことを、私に教えてくれたのだ。


「姉ぢゃ、おしょうしなありがとう

「ふるさともいいもんだな。ゆっくりさせてくれてごちそうさまありがとう


そう言って、姉は新潟へと帰っていった。


私は姉が言っていた、早く結婚しろ、という言葉を思い返していた。

私もいい歳だし、のんびりしていると美紅ちゃんに順平くんを取られてしまいそうだし……


私は、順平くんに好かれていると勝手に思いこんでいた。

けど、美紅ちゃんもいるし、やっぱり不安。


ある日のこと、母はこう言った。


「順平くんのとこ、お嫁さん探しているみたい。眞白、順平くんのこと、好きでしょ?」


「え? あ、いや、その……」


母とこういう話をするのは、とても照れる。

母は続けた。


「順平くんとこ、織物やっているから、染め物やっている嫁さん欲しい、なんて言ってくれているみたいよ。眞白、まっきれがんばれ


「え、いや、あの……美紅ちゃんとこも、染め物やっているから……」


「あぁ、美紅ちゃんとこね……あそこは、新庄に本家があって親戚も多いから、商売的には美紅ちゃんと結婚する方が何かといいのかもね」


そう言って、母はニヤリと笑う。

ちょっと、そこ、笑うところじゃないでしょ。私を不安にさせないで。


「順平くんのお父さんに、染め物で認められたら結婚できるかもね」


そう。その話は前々から聞いていた。

順平くんのところは、村で一番染め物が上手な家と結婚するのではないか、ともっぱらの噂だった。

私が都会に憧れないで、ここで染め物を続けているのは、いつかは順平くんに認めてもらいたいという思いがあるからだ。

それは、私の正直な気持ちだった。


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