7月

 雨が降りしきる7月は、白ねぎが最も苦手とする季節です。


 そもそも、白ねぎというものは乾燥に強く、湿気に弱いという性質を持っています。そのため、高温多湿で、しかも雨とくれば、白ねぎにとっては悪い条件が重なっているということ。


 つまり、7月8月は白ねぎにとって一番嫌な季節であり、病気のオンパレードなのだ。


 なにより、白ねぎの手入れをしているこちらも厳しい環境なのだ。


 考えてみて欲しい。昨今の異常気象の中、最高気温が35℃を超えることも珍しくない。白ねぎもばてるし、人間もばてる。


 水筒を手放せないのは当然ながら、最近では水冷式の冷却ベストも使用している。ベストの中に管が走り、その中を冷却液が循環して、体を冷やしてくれるというものだ。炎天下の作業では必須である。てか、これがないとオーバーヒート確定です。


 そして、白ねぎも暑さでくたくたになり、腐って倒れてしまうこともしばしばだ。特に雨の後は要注意。病気の進行が加速して、腐るか痛むかして、出荷できなくなってしまう。


 しかし、白ねぎがこういう状態なので、値段が上がりやすい時期でもある。


 特に注意なのが台風だ。なにしろ、一切合切吹き飛ばし、白ねぎをへし折ってしまうからだ。


 幸い、自分が農家として自立した後に、台風で大損害を出したことは未だにないが、親方の下で修業中に大きなやつが直撃して、かなりの畑が台無しになったのを覚えている。


 あれを食らったらと思うと、7月から9月、台風が発生しやすいシーズンは、本当に恐ろしい。


 もちろん、そうしたことに備えて、保険には入っている。何らかの事情で収入が激減した際に保険金が下りるようになる仕組みだ。


 白ねぎの場合は畑が一つやられても、次の畑があるので、リカバリーはなんとかできる。年一発勝負の果樹などに比べれば、立て直しがしやすいと言えよう。


 台風なり大雨なりで壊滅した畑をニュースで見る度に、他人事とは思えなくなるのだ。


 しかし、逆に天災によって恩恵を被るときがある。それは『自分以外』の競合産地が潰れてしまうことだ。要するに、白ねぎを作っている他産地が、何らかの事情で出荷できなくなるパターンだ。


 自分の手元には白ねぎがある。だが、他の産地は出荷できない。こうなると、市場に白ねぎの絶対量が落ち、値段が上がる。値段が上がるのに、手元には白ねぎの山。


 待ちわびたボーナスタイムの開始だ。市場からは「ネギをどんどん出してくれ」と催促がかかり、こちらもできる限り奮闘して出荷する。


 実際、これを経験したことがある。白ねぎの産地が大雨で自分の所以外が壊滅してしまい、文字通り市場から白ねぎが消滅したのだ。


 当然そうなると、いい意味でのしわ寄せがやって来る。出せども出せども白ねぎの値段は高止まり。普段では考えられないほどの利益を叩き出した。


 壊滅した他産地の方々には申し訳ないが、本気でガッツポーズして喜んだものだ。


 なお、その翌年には今度は自分が大雨の被害を受け、かなりの損害を出してしまった。


 ここから思うのだ。『農業は博打』であると!


 人事を尽くして天命を待つ。その天の気まぐれが、時に大きな利益を生み、時に損害をもたらす。まさに博打なのだ。


 その博打要素がよく出てくるのが夏であり、天気図を見ながら一喜一憂をする。


 これぞ、白ねぎ農家の夏到来なのである。



             ~ 8月に続く ~

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