2月

 この月も1月同様、収穫と出荷作業の繰り返しである。


 しかし、気分的には下がり調子と言ってもよい。というのも、1年の内で一番白ねぎの値段が下がるのが1月末から2月にかけてであるからだ。


 皆さんも冬場には鍋を突くなどして、白ねぎを食されていることでしょう。事実、白ねぎの消費量は冬場が多いのである。


 しかし、同時に供給が多いのも冬場である。


 商売の大原則として、物の値段は“需要”と“供給”のバランスの上に成り立っている。供給が追い付かずに需要が上がれば値段が上がり、逆に需要以上の供給がなされれば値段が下がる。これはどの商売にも当てはまるものだ。


 そして、問題の時期は需要以上に供給がなされる時期でもあり、なにかしらの災害でもない限りは、この頃が年間通しての最安値になりやすいのだ。


 一度、大寒波の影響で物流が止まり、値段が跳ね上がったこともこれまでには経験したが、それは同時にこちらも出荷できないことを意味している。現に白ねぎが大雪風によって埋まってしまい、掘り出すことが半月もできなかったこともあって、高値で売れても物がないのでトータルの売り上げではイマイチ、などということもあった。


 中には、畑にぶっ刺さったままの白ねぎが、そのまま凍結して氷の棒と化していたこともあった。10年に1度の極寒の冬であったとはいえ、さすがにあれは筆者も驚いた。


 野菜は種類によっては凍らないように体内の糖分を高め、甘さが増すのである。越冬キャベツなどがその代表例だ。


 それを飛び越して凍ってしまったのであるから、さすがに自身も他の農家も、笑うしかなかった。


 人間、本当にどうしようもないときは笑ってしまうものなのだと、その時初めて体験しました。


 そうした厳しい冬があるため、考案されたのが、俗に『トンネルねぎ』と呼ばれるやり方だ。


 何度も述べていますが、筆者の生産地は積雪が心配される地域であり、場合によっては畑のねぎが雪に潰される危険を孕んでいます。


 成長した白ねぎならいざ知らず、成長前の小さなねぎもありますから、それこそ10㎝程度の積雪ですら危うく、ペシャンコになりかねません。


 そこで考案されたのが『トンネルねぎ』です。


 言ってしまえば、これは畑に刺さった小さなねぎに小型のビニールハウスを取り付けて、雪がかからないように覆ってしまおうという物です。


 U字型の支柱を50㎝ごとに刺し、その上に透明なビニールシートを被せ、トンネルの完成です。


 これによって、積雪で小さなねぎが押しつぶされることもなくなり、逆に陽光が差す日には温室効果によってねぎの成長が促進される、というわけです。


 そして同時にこれは『春化キャンセル』を引き起こします。


 白ねぎもまた花を咲かせて種を付けるのですが、この春化のプロセスを遅らせるのも、トンネルねぎの重要な役目でもあります。


 春化については専門的な話になるので割愛いたしますが、要するに、寒さに当たり続けると花が咲いてしまうので、冬場でも暖かいトンネル内で育てることにより、それを遅らせる。こう考えていただければよいでしょう。


 以上が、2月の白ねぎ農家の動きです。


 2月は雌伏の時です。値段が下がり、天気も荒れる、身を屈めて耐えねばならない冬の一時。


 ですが、それは次の季節への着実な一歩でもあります。


 なぜなら、今は小さなトンネルねぎも、それが出荷される時期には、1年で最も値段が上がる時期でもあるからです。


 ならば耐えるのみ。それが2月と言う時期なのです。



             ~ 3月に続く ~

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