初めてのデート

 今日はデートの練習の日。練習とか言いながら、もうこれは立派なデートであることに変わりなかった。


 俺もシズさんも互いにこれが初デート。シズさんに至っては、文化とかの違いもある。そんな俺たちのデートは……。


「おい、ヒロシ! あれはなんだ⁉」

「あれは会社ですね」

「な、なに⁉ 城とかではないのか⁉」


 驚きに満ちていた。シズさんは見かけたものを片っ端から指さして俺に質問してくる。


 しばらくして、シズさんの質問の猛攻がいったん静まったかと思うと、今度は別のベクトルの質問をしてきた。


「今日はどこに行くんだ?」

「出かけるときに言いませんでしたっけ?」

「む……」


 どうやら忘れてしまったらしい。まぁでも、あれだけ新しいことを詰め込んだら仕方がないか……。


「……水族館です」


 本当は亜衣さんも言ってた映画に行こうと思ったんだが、今やってる映画がなんと恋愛系か、戦争系とかそういうもので、ちょっとシズさんとみていいものか、疑問に残った。


 戦争物は言わずもがな、恋愛系はまぁ、妙に脚色されたものでシズさんがそれに染められたときは、割とまずいと思ったので、やめることにした。まずは常識的な恋愛を知ってからのほうがいいというわけだ。


 なぜ水族館になったかというと、ちょうど海の話とかが話題に上がっていたからだ。だいぶ殺伐としたものだったけど……。


「スイゾクカン……? それはどういうところだ?」

「魚が泳いでるところですね」

「…………????」


 シズさんは鳩が豆鉄砲を食ったような、ほけ~っとした顔になった。


「まぁ、行ってみたらわかりますよ」

「そ、そうか」


 シズさんは頭上に疑問符を残しながらも、俺の案内に従った。


 そして水族館にやってくると、シズさんは面白いほどの間の抜けた顔になった。


「シズさん?」

「……うむ、わかったぞ。つまりこれから、対水龍戦の訓練に行くのだな!」

「あ、いやそうじゃなくて……」

「そうじゃないのなら何なのだ⁉ 魚が泳ぐのを見て楽しめということか⁉」

「そうです!」

「んな馬鹿な!」


 俺たちの会話を通りすがりに聞いていた人たちがひきつった笑みを浮かべてこちらを見ていた。


「ま、まぁ入ってみたらわかりますって! 結構わくわくするものですよ?」

「そ、そうか? まぁ、確かに入る前から文句を言っていたら、楽しめるものも楽しめんか……」

「そ、そうですよ!」


 シズさんは自分で自分を説得すると、困惑しながらも水族館へと入場を果たした。


 中に入って受付を済ませ、いよいよ魚たちがいる薄暗い場所にやってきた。


「……暗くないか? これでは、あの魚たちが襲ってきても対処できないぞ」

「襲ってきませんから……」


 警戒しっぱなしのシズさん。ちゃんと楽しめるだろうか……。


「わくわくしませんか?」

「う、う~む……。すまない。私は過去に、海底で様々な生物と戦ったことがあってな……、どうしてもそっちの思考に引っ張られてしまう」

「海底で戦ってきたんですか⁉ え、呼吸とかはどうしてるんですか?」

「ふふふ。向こうには魔法があったのでな」


 なるほど……。何らかの魔法で、海の中でも呼吸ができるようになっていたのか。


「私の仲間は、それで呼吸をしていたらしい」

「仲間〝は〟? ……シズさんは?」

「むろん、呼吸を止めていた」

「え⁉」

「私は呼吸をせずに三時間は持つからな」


 すごすぎんだろ……。もはやエラ呼吸を疑いたくなるほどだ。


「あ、見ろ! このガラスにへばりついているエイ!」

「あぁ、可愛いですね」

「この何十倍の大きさのエイを倒したんだ」

「そうなんですか⁉」

「あぁ、毒をもっているし、薄っぺらいから魔力もあたりずらい」


 めちゃくちゃ厄介なんだな……。


「みんながやたらめったらに魔法をうち、『えい!』と叫び続けるから、エイと名付けられたのだ」

「へぇ~。面白いですね!」


 あれ、なんか……。


「え、じゃあ、ここにはいないんですけど、タイとかもなんか由来があるんですか?」

「タイってあれか? あの赤いやつか?」

「そうです」

「あれは大昔の大英雄とタイが戦った時、いつまでも決着が着かず、両者引き分けとなったため、タイと名付けられた」

「へぇ~」


 異世界の話めちゃくちゃ面白くないか⁉


 俺たちの世界と名前が同じなのに、由来が全然違って面白い!


「他にはなんかいないんですか⁉」

「他か……、こっちにいるかわからないが、トビウオというのがいる」

「あ、居ます! 海の上を飛ぶあれですよね?」

「そうだ。しかし、飛ぶからトビ魚と呼ばれるのではなく、トビが食べまくるから、トビの魚ということで、トビウオになったな」

「あ、それはこっちでもちょっとありえそうですね……」


 こんな感じで、今度は俺が質問を繰り返していた。なんやかんやシズさんも話すのが楽しいようで、自慢げに魚の名前の由来を語っていた。

 

 と、そんなあるとき、館内にアナウンスが響き渡った。


「イルカショー、この後一階の劇場にて開幕いたします!」

「む? イルカショーとは?」

「イルカのショウです」

「……どういうことだ?」

「とにかく行ってみますか!」

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