第4話 どこに泊まれば……

 病院を出て、早速シズさんに転生の可能性について話し合うことにした。


「あのシズさん!」

「なんだ?」


 未だどこか俺に対する嫌悪感というか、警戒心は健在で、まだ接し方に戸惑いが見られる。俺が今からする話を信じてもらえるだろうか?


 いや、信じてもらえなくても、とりあえず話しておくべきだろう。


「……シズさん、転生してきたんじゃないですかね?」


 シズさんはしばらく顔を暗くして、佇んでいた。気持ちは分かる。


 しかしシズさんの反応は意外にも冷静なもので……。


「実は私もそう思い始めてきていたのだ」

「ほ、本当ですか⁉ 割とバカげた話だと思っていたんですが……」

「……これが夢でないとしたならば、そう考えるしかない。何せ私はこんな景色もあんな文字も見たことは無いのだから……」

「そうですよね……」


 確かに、一番転生であるだろうと疑いにかかるのはシズさんの方か……。


「……とりあえず、今日のところはこの辺で」

「待て、貴様逃げるつもりじゃないだろうな?」

「え……、いやでも家の場所はばれてますし……、逃げようがないんですが……」

「いや、お前の財力ならば可能かもしれない」


 財力って……。


「あの、俺はその前シズさんが言っていたバルザックとかいう人ではないですよ? シズさんも自分が転生した可能性があると言ってましたよね?」

「あぁ、しかし私が死んだときバルザックも近くにいた。お前がバルザックで私から逃れようと策を練っている可能性もなくはない」


 この人、かなり慎重だ。この人が転生前に何をしていたか、それはぼろぼろの服装を見ればなんとなくわかる。騎士とかそこらへんだろう……。


 そのせいもあるのか、かなり慎重だ。まぁ、殺してきた相手とうり二つの人間がいれば、確かに俺でも疑わずにはいられないだろう。だが、どうすればいいんだ?


 俺がどうするべきか悩んでいると、シズさんはこちらを指さして堂々と言い放った。


「貴様の家に泊まろうと思う!」

「……なんでそうなるんですか⁉」

「だってそれしかないだろう⁉ 私にはお金もない、住む場所だってないし、それにお前を見張ることができる」

「……それはそうですけど」


 確かに合理的だ。合理的なのだろうが、それは俺に全く性欲がなかった場合だ。俺はまだまだ現役だし、こんな美人が家に居たら落ち着いて眠れない……。


 かといって、シズさんにはお金もないだろうし、俺を疑うのもごもっともだ……。


 ま、まぁ? 正直自分の家に美人がいるのはすごくうれしいことではあるんだけど……。


 ただ、確かにシズさんは車ではねられてもほぼ無傷な頑丈な人だし、俺が太刀打ちできそうもないし、安全ではあるのか……。


「……まぁ、お前の許可などなくとも、少しの間は面倒を見てもらうぞ。私を撥ねたのだからな」


 ぐうの音も出ない……。


「分かりました……。ですが、色々事故が起きる前に説明をさせてもらいますね」

「事故? 何の話だ?」

「主に、風呂とトイレについてです……」


 まぁ、トイレは流石に大丈夫かもしれないけど……。風呂はシャンプーとか色々言わないといけないことがあるからな……。


 俺たちは家に帰り、早速風呂とトイレの使い方を説明を始めた。


「まず、このシャンプーって言うのが……、文字分かんないんでしたっけ?」

「うん……」

「まぁ、じゃあ、音は同じなんで、さっき言った『シャンプー』って音の文字をこの文字の上に書いてください。ボディソープはこっちです」

「ボディーソープ……。あなたと同じのを使うってことですか?」


 鋭い目をこっちに向けてきて、何かやらかしたかと心配になったが、特に覚えがない。


「そ、そうですけど……」

「っく! ころ!」

「は?」

「シャンプーまでならともかく、ボディーソープまでっ!」


 何言ってんだこの人……。疲れてんのか?


「あの……、何を言ってるんですか?」

「……口伝で聞いたことがある。女性の使った石鹸を体中に塗り付けて興奮する男がいると……」

「いや、俺そんな珍しい性癖持ってないし、そもそもそこを警戒するならなんでここに済む決断をしたんですか? というか、石鹸じゃないし。これ、一回この頭の部分を押すだけだから、間接的に触れ合うとかないし……」

「…………そうか」


 この人ちょっとおかしいのか? 普通異性と二人きりで暮らすほうが怖いだろ……。


「まぁいいや……。トイレはまぁ、トイレットペーパーの使い方と流すことだけ覚えてくれればいいか」

「なめるな!」

「いや、別世界のものとかだと色々困るでしょう? トイレをしているときに困って俺を呼ばれても、どうしようもないですよ?」

「いや、私はトイレなどいかん!」

「昔のアイドルか何かなんですか……」


 ほんとこの人なんなんだ……。家に来てから急に馬鹿になってきたぞ……。いや、というよりも強がりが変な方向に行ったのか……?


 何がともあれ、念のためにトイレの使い方を説明しておいた。


「まぁ、重要なところはこんな感じですかね? 分からないことがあったら、都度聞いてください」

「……分かった」

「じゃあ、晩御飯食べますか。今日はシチューです」

「シチュー……? セクハラですか?」

「あぁ、もういいです……」


 てか、セクハラ知ってんだ。

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