第4話 大人の女性

「お待たせ」


シックな建て付けの仕事部屋から出てきた龍造寺アリュール。

先ほどの白衣と乱れたスーツの組み合わせから一転して、セットアップの洗練された黒いパンツドレスでスマートな大人の女性に変身していた。


「どう?」


龍造寺アリュールは意味ありげに曖昧な質問の仕方をして、執行負広の感性を刺激する。


「そうですね」


執行負広は龍造寺アリュールの試すような態度に対し、じっくり上から下まで視線を動かす。


「黒髪ロングのウルフカットに黒いパンツドレス、落ち着いた雰囲気を感じます。」


執行負広は男にありがちな見た目を褒めるという愚行をしてしまう。


「却下」


龍造寺アリュールはたった一言、にべもなくそっぽを向き、階下に降りるエレベーターに向かって歩き出す。


「ついてきて」


黒いヒールでスタスタとその場を歩き去る龍造寺アリュール。


「却下って、何が却下なんですか?

答えてください、龍造寺アリュール!」


執行負広は龍造寺アリュールの女性特有のムーブにいつもこんな感じで翻弄される。

なので執行負広にとって龍造寺アリュールは扱いにくい存在であった。


やっとこさ龍造寺アリュールの歩調と歩幅に合わせられた時にはエレベーター前についていた。


「執行くん、腕借りるね」


執行が先だってした素直な心の叫びを冷たく無視したまま、龍造寺アリュールは好き勝手に執行負広の腕


「どうぞ、お好きに」


どうさ本人の許可なんて全く気にしていないのだろうと思いながら執行負広は、龍造寺アリュールの我儘に付き合う他なかった。


「執行くんのそういうとこ、好きよ」


どういうところがですかと、喉元から出かかるのを執行負広はぐっと抑え込む。


「そうそう、これはデートです。

私好みの男を演じてね、執行くん。」


なんで俺がこんなことをと言いかけて、はたと気づく。

見返り。


「執行くん。

あなた、私にお願いしたいことがあるんでしょ?」


龍造寺アリュールは執行負広の心の内を見透かしたかのような黒い瞳をこちらに向ける。


「はい、そうです。」


執行負広は自分が今、彼女、龍造寺アリュールの掌の上にいることに気づいた。

自分は要求を飲まされる側の状況にいることに。


「なら、わかるわよね?」


圧倒的な大人の交渉力に、執行負広はなすすべなくひれ伏すしかなかった。

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龍造寺アネロは負けヒロインなのか? @gimamagi

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