3話 スタンプと言葉(7/7)

彼女の話を聞いてみれば、なるほどなと思う内容だった。

彼女は強くて優しくて、やはりまっすぐな人だった。


友達を守りたいと思う優しさ、それを一人で実行できる強さ。

その二つを持っているが故に、自分が今も友達との約束を破っているという事実に苦しんでいた。


他人からの誹謗中傷にいちいち凹んでいる僕とは次元が違う。

彼女にしてみれば、誹謗中傷を投げてくる人ですら元気を届けたい相手の一人なんだろう。


こんな鬱々とした僕とは天と地ほどに意識の差がある。そんな彼女が僕に励まされたなんて……本当だろうか?


僕が悩むうちに、彼女は自分の学校の生徒会長が立派な人で、声がすごく好きなんだと懸命に話してくれた。

僕は何て答えたらいいのか分からなくて『へえ』とか『コクコク』と頷くようなスタンプで流してしまったけれど、失礼ではなかっただろうか。

続々と続く賛美の言葉に顔が熱くなってしまってどうしようもないので、僕は大地に見られないよう壁の方を向く。


壁にかかった時計は、思ったよりもずいぶんと針を進めていた。

そろそろ彼女も夕飯の時間だろうか。

こんなに長く人とRINEで話をしたのは初めてだった。

ちらと大地を見れば、大地は相変わらず真剣な顔でペンを走らせている。

僕もそろそろ生徒会の書類を作らないといけないだろうな。

『今日はたくさんお話しありがとうございました! 私、空さんに会えてよかったですっ。空さんの作る音楽が大好きですっっ』

温かくて力強い言葉に応えたくて、僕は頬の熱に浮かされるように彼女に伝えた。

『僕もアキさんの声がとても好きだよ。今日は僕の方がアキさんの言葉に救われたよ』

僕の言葉に返ってきたのは、ボイスメッセージだった。

再生すれば『応援してますっ』とスマホから元気いっぱいなアキさんの声が流れる。

ああよかった。本当に元気になったみたいだ。

お節介だろうかと随分悩んだけれど、彼女の悩みを聞いてみてよかった。

だって、これは僕になんとかできる範囲の事だから。


「おわっ、急にびっくりするだろ!? なんか再生するなら再生するって言えよ」

大地に言われて「ごめん」と返しながら、大地の机の横まで行く。もう頬は赤く無いだろうか。いや、こんな事は彼女の心中に比べれば些細な問題だろう。

「つか空が応援されてどうすんだよ。アキちゃんのお悩みはなんとかなったのか?」

「原因はわかった。解決はこれから」

「ふーん……」

僕の言葉に、肝心の大地は気のない返事をする。

「結論から言うと、大地がそれを完成させれば問題は解決する」

「…………へ? 俺!?」

「大地は明日から朝の挨拶活動には来なくて良いから。とにかくそれを早急に仕上げてほしい」

「えっ、マジで!?」

「ああ、でもクオリティが下がるとミモザさんが悲しむだろうから、なるべく最高の状態で」

「はぁ!?」

「一秒でも早く」

「ちょっ、空さん!? 目が据わってますけど!?」

「僕にできることがあればなんでも手伝うから言って」

「はぁぁ!? マジかよぉぉぉ……」

大地を精一杯急かすと、僕はPCで検索をする。

ボイスメッセージは長押しでは保存できそうになかったが、調べてみたところ一度アプリ内の別の場所に保存した後なら端末に保存できるようだった。

僕はアキさんの声を『宝物』という名前のフォルダに入れる。


そういえば、彼女は誹謗中傷を『気にしてない』と言っていたのに、大地の性別は『気になる』と言っていた。

なぜかはわからないけれど、それが僕にはなんとなく嬉しかった。

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