魔法図書館の跳梁

阿井上夫

第1話

魔法図書館の跳梁



「魔法図書館が帝都に侵攻致しました」


 帝国国防長官の任にあるリリエンが発した不穏な言葉に、会議場内の空気は一変した。


「それはいつのことだ!?」


「本日未明と思われます」


「現時点での被害は?」


「警備隊が三名、取り込まれました」


「退館者は?」


「現時点で確認されておりません。被害報告もございません。そして――」


 リリエンは


「――既に図書館予報士が包囲を完了しました」


 宰相のその言葉で、会議場内に今度は安堵の息が拡がる。


 *


『魔法図書館』――それは入館した者に深遠なる知識を授けて、「退館者」と呼ばれる魔人と成す存在である。


 遥か昔、古今東西の魔道書を収集した魔法遣いの自宅が、魔道書が帯びる微弱魔法の集合体となって顕現したものであると言われているが、定かではない。


 そして、それが存在する意味も分からない。


 ただ、それは実在しており、昨今は複数に分裂していた。


 それが現れた場所では、退館者による大規模広域災害が確実に発生する。


 迎え撃つのは『図書館予報士』と呼ばれる異能の集団。


 彼らは魔法図書館の顕在化を事前に察知して入館者が出る前に封印するか、あるいは退館者を魔法図書館もろとも葬り去ることを使命としている。

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