爆発だ!!


 昼の国と夜の国は表と裏の関係に似ている。片方が開いている間、片方は閉ざされてしまうからだ。


 二十時から八時までの昼の国は灰色をしている。仄暗くて、森の木々は不気味に静かで、鳥が羽ばたく音もなければ風がびゅうびゅう吹くこともない。

 外へ出ると迷子になってしまうから、みんな建物の中で時が経つのを待つしかない。


 閉ざされている間、世界はどこか不安定な感じがして怖いくらいだ。まるで、世界に大事な何かがぽっかり足りていないみたいに。


「何かが足りないって? 決まっているだろう、昼の国に足りないのは夜。夜の国に足りないのは昼だ。当たり前すぎて理由なんかないさ」


 昼の国も夜の国も、ずっとずっと昔から、互いに互いのことが知りたかった。けれど行き来することはできない。いつしか二つの国はを使って互いを探り合うようになった。


 使われたのは「賢い子ども達」だ。

 十二歳までの子どもなら、片方の国で得た情報をもう片方の国に持ち帰ることができる。

 まるでスパイ映画みたいだ。けど、確かにそれをしない手はない。あまり賢くない僕でもそう思う。


 実際、ビーとディテーの姉妹は、子ども時代にその役割を担っていたらしい。


「でもあたしは、子どもにそんなことをさせる国なんて、どっちも爆発しちまえ! と思ったのさ。ときにオリオン、腕時計はあるか? 時計には必ず政府公認のGマークが付いているだろう」

「僕はスマートフォンが時計代わり。お子様安心フィルターがかかってるやつ」

「セーフフィルターは関係ないさ。デジタル時計はより厳重に政府の管理下に置かれてるな。アナログ時計が勝手に直るのを見たことはあるかい」


 僕は頷いた。

 どんな時計でも、一分でもずれると必ず自動オート修正される仕組みだ。もしも駅前の時計が五分も遅れたら、きっと行方不明者が続出する大事件になるだろう。


 再び、ビーがにやりと笑った。


「オリオン、世界中の時計を全部壊したら面白いことになると思わないか。時間という概念がなくなり、昼と夜の境もなくなるかもしれない。ついには二つの国がバラバラになる可能性さえあるぞ」

「それはすごいけど……」


 僕はどうしてビーを真面目な学生だなんて思ったんだろう。期待以上のマッドサイエンティストだった。思っていたよりも重大な事態になりそうで、僕はぶるりと震えた。


「世界中の時計を壊すのって、危なくはない? 放射能みたいに歯が抜けたり……」

「もともと子どもを守るために立ち上げた計画だ。人体への無害と安全第一。そして我々が造ったのがこれだ! ほい!」


 ビーは背後の鞄から、何か柔らかそうなものを取り出した。


「白うさぎのぬいぐるみ?」

「中身は大量時計破壊兵器だけど、我々は見た目がフレンドリーなことも重要と考えた。なぜならこの任務は皮肉なことに、バースデーボーイ、まさにきみのような夜の国へ旅立つ子どもに頼らなければならないからだ。あたしもディテーももう昼の国から出られないからな。けど、法的な問題はクリアしているから安心して。きみが向かう夜の国はリベラルな色が強くてね」


 つまり、僕が時計破壊兵器を夜の国へ持ち込んでも、それは刑罰の対象にならないらしい。


「夜の国の政府は、ドクターの爆発計画が成功することを願っているかもね。ずっと夜だと、そういう気分になるみたいだから」


 ディテーの言葉を聞いて、ようやく僕は決心が付いた。


 うまくいくか、どうなってしまうかもわからない。けれど昼の国の住人、ミッカとの繋がりを切らずに済むとしたら、この計画に乗るしかない。


 爆発だ!


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