④勝ち取った戦利品…そして



 倒したイノシシにとどめを刺した俺は、改めてステータスを見てみる為に水面に顔を近付けた。うわっ、泥だらけだ…って当たり前だな。カモフラージュの為に塗ったくった泥だらけの顔を洗い、ようやく元のヒゲ面に戻ると、



 【原始人】


 レベル・2


 たいりょく  2

 きんりょく  6

 はやさ    7

 あたまのよさ 5

 きようさ   8


 スキル


 いしわり   6

 ておの    8

 たたかう   3

 しなない   2

 やり     3



 …おおっ!? レベル上がった! …でも、2って微妙だなぁ。それに良く考えたら、こんな雑なステータスで何が判るってんだよ。イノシシのステータスでも判れば別だが、比較対象が居ない今は強いか弱いか全く判らん。正直言って参考にもならんな。


 さて、それよりも…イノシシだ。肉だ…肉? いや待て。


 俺は立ち上がり、さっき止めを刺したイノシシに近寄ると、イノシシはイノシシのまま。何か変化があったとしたら、死後硬直でピンと斜めに付き出していた脚が、くたりと地面に着いていただけ。つまり、只のイノシシの死体になったって訳だな。


 触ってみると、ほんのり柔らかくてまだ温かい。ついさっきまで生きていたのだから、当たり前なんだが…これ、まさか解体しないとダメって事か?


 ペタペタと触ってみても、名称が出て変化する様子は無い。【きのぼう】みたいに落ちていた物なら【きのぼう】なんだろうが、イノシシの死体は変わらずそのまま。つまり皮を剥いで精肉するまで死体のままか。


 …じゃあ、突き刺さったままの【こくようせきのほさき】を引き抜いて、先ずは皮を剥ぐか…


 と、手に持った【こくようせきのほさき】をイノシシの死体に押し付け、グッと力を入れた瞬間、



 『 ベータ版のプレイはここまでです! 製品版ではリアルな描写でサバイバル体験が出来ます!(年齢制限有り) 』


 と、唐突にテロップが現れ、俺はゲームの世界から離脱した…ここまでなのかよっ!?




 


 「ぶはははっ!! あのクソゲーやったのかよ!?」


 チャット機能で事の結末まで話すと、友人は笑いながら広域魔導を放ちザコ敵を一掃した。


 「でも、無料だったから暇潰しのつもりで…」

 「はぁ!? レビューで全っ然高評価出なかった屑ゲーだろ? そんなん時間の無駄だっての!!」

 「…まあ、そうなんだけどな」


 俺は辛辣な言葉に、返事が出来なかった。


 確かに【原始人・ザ・オンライン】のベータ版に付いた評価は低かった。付随するコメントも、


 「時間の浪費でしかない」

 「チュートリアルが不親切」

 「直ぐ死ぬ」

 「何を選んでも即死で萎える」


 と、辛辣なものばかりだった。そりゃ確かに普通にやっていて直ぐ死ぬし、最初に出会うイノシシ相手でも即死とかハードルは激高だった。


 …でも、悪い面ばかりじゃない。


 クラフト系のイベントは、プレイヤー自身の知識を用いれば決して難しいものではないし、水を求めてさ迷っていた時に水源を見つけた時の感動や…空腹感にさいなまれながら口にした果物の甘さは、感動すら覚えたのも確かだ。散々苦戦した末にイノシシを倒し、あと少しで肉にありつけたと思った時も、不快感より新たな展開を迎えられる期待感の方が強かった。


 「だからよ、そんなのよりコッチに集中しろって。新イベで幾ら参加人数が居ても足りないんだからな!」


 そう言うと友人のロリ魔導使いはクルッとスカートを翻し、新しい敵がポップした空間に向けて魔導を練り始める。


 …バシバシと敵を薙ぎ倒す爽快感と、クオリティの高いキャラ描写が売りのMMOゲーム【レジェンダリー・ベルサイヤ】にアクセス中だった俺は、虚しさに浸りながら書き上げていた【原始人・ザ・オンライン】のアンケートを開発元に向けて送信した。




 多くのプレイヤーが低評価を付けた【原始人・ザ・オンライン】だったが、予約開始と同時に予定数を完売し、一部の評者から幻のゲームと揶揄された。しかし、ベータ版のテストゲーマーには優先的に販売された為、俺は簡単に正規発売バージョンを購入する事が出来た。


 …但し、ゲーム仕様の年齢制限項目を「女子原始人と熱烈巣籠もりが可能だからか?」等といった邪推した連中やあこぎな転売勢の仕業だと噂に聞く。しかし、本当に欲しがっているゲーマーにこそ届いて欲しいもんだ。




 有給休暇申請を勝ち取った俺は、晴れて発売バージョンと向き合った。


 ベータ版テスト盤から半年後の販売だが、【原始人・ザ・オンライン】のプレイ内容に変わりは無い。原始人として生きる、たったそれだけの事だ。


 しかし、オンラインとわざわざ銘打ってあるだけに、他のプレイヤーと何らかの絡みがある筈だ。でも、最初は裸からスタートって設定は今回も同じらしいが、そこはチュートリアルとして処理していくとか。まあ、始めてみりゃ判るか。



慣れた動作でダイレクトポートを首に張り、端末の作動ボタンを押す。たったそれだけで現実世界から俺はデジタルの門を抜け、ゲームの世界へと実を委ねられる…但し、戸締まりとタイマーだけは必ず心掛けておかなきゃならないが。





 …うん、裸だ。判ってたから動揺しないけど、いきなり原始人スタートって言っても、いきなり大人が全裸で生まれる訳なかろうに。そんな所は相変わらずなんだなぁ。


 でも、逆に裸スタートに慣れ過ぎるのもどうかと思うが。とにかく、今はチュートリアルを終わらせるとするか。





 

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