第5話 肩もみ

「ダメよ」とアリナさんは、まったく嫌じゃなさそうに言った。 

 アリナさんのお腹に回されていた、ショウの手の片ほうが、おっぱいに伸ばされた。手は、下乳を遠慮なくむんずとつかんだ。つかまれたとこは、指の侵入によって長く形を変えた。


 続いて、もう片ほうの手も、おっぱいに侵入する。両の手が、興奮に支配されたように、半分くらい、乳を押しつぶしたり、やさしく揉んだりしている。


 息を呑む。こ、このまま、二人はどこまでゆくのだろうか。むかついてくる。あの女は、僕のなんだ。どうにかしないと。


「ダメだったら」アリナさんの手が、ショウの手を引きはがした。彼女は

振り返って、ショウと正対した。

「どうしてさ」ショウは再び、アリナさんの首筋にキスする。


 アリナさんは一歩、ショウから離れた。「だって、あの子が居るじゃない。今日は無理よ」

「どうしてあんな奴、拾ってきたりなんかしたんだよ」

「そんなこと言わないの。ほら、帰った帰った」


 廊下を小走り、角に隠れる。こっそり見る。二、三分経ってショウが部屋から出てきた。向こうに歩いて行く。彼がこちらへ顧みた。危ない。ばれてないよな。ショウが部屋へ入ったのを確認し、安心する。不気味な男である。仮に単なる高校の同級生として出会ったとしても、彼とは仲良くなれる気がしない。


 ちょうど僕が、廊下へ戻ったところで、アリナさんが部屋から出てきて、僕に気付いて手招きした。その表情は、まるで子供にお菓子でも配ろうとしているかのようだ。まさか、僕が一部始終のほとんどを盗み見ていたとは思いもしないのだろうな。純粋な子供と勘違いしているのかも。ところがどっこい、中身はただの、童貞の女好きである。つまり、クソガキってことさ。


 アリナさんは僕を部屋に入れる際「すまないね。今度からはショウが訪ねて来たら、黙って出て行って欲しい」と言った。

「わかりました」と僕は、如何にも知らなかった風に答える。


 二度と、あの男にこの女の身体は触れさせない。僕の女にしなければ。僕だけの、専用の。


 アリナさんは、ベッドに腰かけてサイド・テールをほどいた。その仕草に、僕は彼女の日常を感じた。他人には見せない日常。ショウは、これ以上の光景を、彼女に触れながら仔細に観察しただろう。


 黒のヘアゴムが、少々乱暴な動作で、テーブルの上に投げられた。転がりそうで転がらず、予定どおりといった風に、テーブルの真ん中に着地した。

「おいで」アリナさんが、肩の甲冑を外し始めた。

 慌てて、そばに寄る。


「これも、テーブルの上に置いててくれ。はー、疲れた」僕の小さな腕に、脱ぎたての甲冑が乗せられる。アリナさんは、男らしく股をひろげて座っている。そこから伸びる太ももが、なんともつやつやしている。


 左腕の甲冑が、抱えきれず落ちた。どうにかすくうように抱えて、いったん椅子の上に置いてから、テーブル上に置きなおす。


「んーっ」

 溜息とくつろぎのあいだのようなアリナさんの声が聞こえて、振り返ると、腕を頭上で組んで、伸びをしている。伸びしているから、胸が突き出されている。たにまのつくる薄い影が、感触を思い出させる。腋もつるつるだ。彼女が髪を手でとかしだして、そこがくぼんだ。


「お、お疲れのようですね」と僕は言った。

「まあね。今日は結構剣を振り回したんだ」アリナさんは肩に触れて、触れた方の肩を重そうに回した。


 それだけが原因なのだろうかと僕は肩より確実に重いおっぱいを盗み見て思った。


「マッサージし、しましょうか?」無意識に口をついて出る。

「お、頼んでもいいかい」とアリナさんは疲れた目を心持開いた。

「良いんですか!?」良いんですか!?

「なんだいそりゃ。あんたの方から提案してくれたんだろう」

「そ、そうでした。マッサージ、させていただきます」

「おう」


 目にも止まらぬ速さで、ベッドに飛び乗り、彼女のすぐ背後に回る。自分の呼吸の、浅くなっているのがわかる。金の髪、白い背中。髪は、さっきまで一ところにまとめられていたから、その跡がある。全てが背中に流れているから、このままでは肩の感触を存分に楽しめない。


「後ろ髪を、前に流してもよろしいでしょうか?」

「ああ、良いぞ」アリナさんはちょっと顔をこちらに向けた。まぶたの先の長い睫毛が覗く。


 髪を、挟むようにして両手を入れ込む。指の裏が、背中に触れる。磨いたようにすべすべだ。そんなことを意識していないかのように、髪をまとめて肩から前に流した。髪の描く線から、濃淡をわけて首が見えるようになった。うなじも観察したいけれど、今は我慢。


「それじゃあ、マ、マッサージ始めますね」いよいよだ。

「凝ってるから、力込めてくれよ」

「はい」


 それぞれの肩真ん中あたりを、指の腹を食い込ませるようにする。力を緩めて、また指を入れる。確かに凝っている。硬い。鍛えられているからというのも当然あるだろうが。

 

 でも、あまり気持ちよくなさそうだな。もうちょい、内側を揉んでみよう。

「ああっ。そこ」アリナさんは首を斜めうしろにもたげた。

 彼女の髪が、僕の手の甲に重なってくすぐったい。


 突然、スキル習得の文字が脳裏に浮かぶ。スキル名は、”弱点解析”だそうだ。



 


 


 

 


 

 


 


 




 


 








 

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