第30話 どす黒い感情
「凛子ちゃん、その・・・彼氏製造キット?とか、神様とか、それに山下新之助さんの事とか、凛子ちゃんの言ってる事がよくわからないよ。だって、粘土で人を作るとか・・・凛子ちゃん、もしかして私を慰めようとしてそんな漫画みたいな話をしてくれてるの?」
「い、いやいや、本当に、ホントのホントにこの話って事実なんだって!困ったな、どう説明すれば信じてもらえるのかな・・・」
優子が信じないのも無理はない。
こんな話、いきなり聞かされて信じろって言う方がおかしい。もし私が誰かからこんな話をされたら「はあ?Netflixの観過ぎじゃないですかぁ?」なんてバカにするだろう。
まあいい、今はまだ優子が信じなくても。
それよりも相沢亮太がなぜあのキーホルダーの事を知っているのか、なぜ私を殺そうとしたのかを突き止めるのが先決だ。
『♪~♪~♪♪~♪♪~』
ふいにテーブルの上に置いてあった優子のスマホに着信があった。
画面には”相沢亮太”と表示されている。
「凛子ちゃん、相沢さんからだ!どうしよう・・・私、何て言えば・・・」
「優子、大丈夫だから落ち着いて。私も話の内容を聞きたいからスピーカーにして話してもらえる?例の件は私がカップを洗っちゃったとか何とか言って誤魔化せばいいよ。それから今私が優子と一緒に居る事や、さっき私が話した事は絶対に言わないでね」
「うん、分かった」
優子は恐る恐るスマホを手に取った。
「はい、岡田です」
「あー、優子?お前さ、ちゃんと坂口凛子にクスリ飲ませたのかよ?」
「え、えっと、それがね、凛子ちゃんが使ってるカップに薬を入れておいたんだけど、使う前に洗われちゃって・・・」
「はぁ?何だよそれ?マジかよ?あの高濃度フェンタニルって手に入れるのにすげぇ苦労したんだぞ!」
「う、うん・・・ごめんなさい」
「やっぱりな、おかしいと思ったよ。さっき柿本エージェンシーに営業するフリして行ってみたんだけどよ、別に何の騒ぎにもなってねぇから変だと思ったんだよ、・・・ったくよう、ホント、お前って使えねぇヤツだよな」
「・・・・・」
「おい、何とか言えよ!あ、ひょっとしてワザとあのクスリ捨てたんじゃねぇだろうな?そんな事してみろ、子供の投薬は速攻で中止して病院からも叩き出してやるからな!」
「うん、分かってる・・・次はちゃんとやるから」
「あのクスリがまた届くまでに一ヶ月くらい時間が掛かるからよ、それまでに確実に坂口凛子に飲ませる方法を考えとけよ!次も失敗したらどうなるか分かってんだろうな?」
「うん・・・」
驚いた。
相沢とは私もタマに仕事の関係で話す事があるが、今の電話の口調はまるで別人じゃないか。
それに、優子の弱みに付け込んでこんな事をさせるなんて許せない!
頭に来た。本当に頭に来た!
生まれてから未だ経験したことが無い、どす黒いドロドロしたようなモノが胸のあたりに広がる感覚。
これが”本当の怒り”ってヤツか?
首筋を汗が伝って流れ、シャツの襟元がベタベタしている。
肩が震える。腕が震える。頭の中がカーっと熱くなる。
ダメだダメだ、この感情に流されたら、このままの感情で突っ走ったらヤバイ気がする。
落ち着け、落ち着け私。
「り、凛子ちゃん、大丈夫?顔色が悪いよ」
「う、うん・・・・・相沢の電話を聞いて頭に来て、我を忘れそうになっちゃったよ・・・あれがあいつの本性なんだね。優子の弱みに付け込んでこんな事・・・」
優子をこんな目に遭わせて、しかも私も殺されそうになった・・・
相沢はなぜこんな事をするのか?
考えても答えが出ないなら、直接本人に問いただすしかない。
どうしたらいいか今はさっぱりわからないけれど、とにかく相沢の口から理由を聞き出す他に事の真相を知る術はなさそうだ。
「優子、私決めた。相沢から直接話を聞くよ」
「えっ!?どうやって?だってそんなこと聞いても相沢さんは絶対に話さないと思うよ。それに凛子ちゃんを殺そうとしてるんだよ、会ったりしちゃダメだよ!」
「うん、分かってる。ちょっと手段を考えてみるからさ、優子は心配しないで。危ない事はしないから、ね」
「うん・・・でも本当に大丈夫?」
「正直言ってどうしたらいいかまだ全然わかんないけどさ・・・」
相沢亮太。
年齢は確か優子と同じ28歳。
外面は背が高くて礼儀正しいイケメン。
相沢製薬の御曹司で、現在は社会勉強の為に桃栗出版で営業をしているが、将来は父の後を継いで相沢製薬の次期社長になると言われている。
私が相沢亮太について知っているのはこれくらい。こんな情報、ウチの会社の女子社員なら誰でも知っている。
「ねえ優子、相沢ってさ、女癖どう?」
「え?女癖?それは・・・ハッキリ言って超悪いよ。あの顔で人当たりがいいし、あの相沢製薬の御曹司だからね、女の子も誘われたら断らないみたいなんだよね・・・私と二人で居る時も平気で女の人に電話して誘ったりするんだよね・・・」
「マジで?ほんっと、クズだな。でもさ、優子は相沢の事はもう好きじゃないんでしょ?だったら何であいつと会ってるの?」
「それはね・・・あの・・・どうしようかな・・・うん、凛子ちゃんにだけは話すよ。あのね、相沢さんって性欲がものすごく強いみたいなんだ。だからね、だから私は相沢さんの性欲を満たすためにね・・・二日に一回は必ず相沢さんに会いに行かなきゃならないの・・・会ってね、病院のトイレとか車の中とかね、あとどこかの雑居ビルの階段とかでセックスして・・・彼ってそう言う変な所ですると興奮するみたいで・・・。それでね『お前はヤルだけの女だから、俺の性欲処理機だから』って、もし拒否したら子供の投薬を止めるって・・・あたし、イヤだけど、ツラいけど・・・もう何回も死のうって思ったけど、私が居なくなっちゃったら明生が、あの子の命も無くなっちゃうんだなあって・・・でもさ、私って風俗の仕事でそう言うの慣れてるし、今まで経験してきた事に比べれば大した事ないからね、ま、まあいいか~って、あ、あははは」
無理やり作り笑いをする優子の目から大粒の涙がポロポロこぼれた。
「優子・・・」
私は思わず優子を抱きしめた。
そして私も一緒に泣いた。
何で優子がこんな目に遭わなきゃならないんだ。
病気の子供を抱え、その命を繋ぐために必死で生きてるだけじゃないか。
許さない。
相沢亮太だけは、絶対に許さない。
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