第19話 お買い物

新宿へ来た。

チャリで来た。

珍之助と2ケツでチャリで新宿へ来た。

なぜにチャリンコで来たのか?

出がけに私のママチャリにカギをかけ忘れていたのを思いだして、チャリをガチャガチャ弄っていたら新之助がチャリンコに異常な興味を示したのだ。


試しに乗らせてみたが、これが全然ダメ。

5メートルくらい走るとすっ転ぶ。

でもどうしても乗りたいと言うので、新之助を後ろに乗せて近所を走ってみたのだが、面倒くさくなってそのまま新宿に向かってしまったのだ。


荻窪から新宿って結構距離がある。

東高円寺あたりでメチャメチャ後悔した。何で電車に乗らなかったんだ、アタシ。

でもまあしゃあない。


途中で何回か珍之助に代わったら、だんだんと長い距離も乗れるようになってきた。

中野辺りからはずっと珍之助に漕がせて、私は後ろに乗っていた。


ずっと憧れていたんだ。

彼氏の漕ぐ自転車の後ろに横座りで乗って、彼の腰に手を回して背中に頭をくっつけて・・・

珍之助だからあんまりドキドキしないけど、でも何かいい気分。



新宿西口近くの雑居ビルの前に自転車を停め、私と珍之助は新宿駅方面に向かった。

さて、どこで服を買おうか・・・

男性の服なんてもう何年も買ってない。

前の彼氏の誕生日プレゼントにシャツを買ってあげた事があったなぁ・・・あれってどこで買ったんだっけ?

たしか新宿で買ったと思うんだけど、どの店だっけ?

ああ、思い出した、新宿の駅ビルの中にある店だ。

あの服、結構高かったよな・・・


でも今回はあまり軍資金が無い。

珍之助がやたら食うので、食費がバンバン嵩んでしまっているのだ。

えーと、シャツにズボン、靴も買わなきゃなあ・・・あ、ベルトとかも要るのか。

全部で1万円以内で収めたい。って無理か・・・


山下新之助のトコに居る美咲ちゃん、結構イイ服着てたしなあ。

見栄を張っても仕方ないけど、あんまり安っぽい服装もなあ・・・



「ねえ、珍之助はどんな服が好きなの?」


「僕が好きな服を聞くですか?僕が好きな服は巫女服」


「違うよ、珍之助が着たい服だよ。男は巫女服着れないでしょうが!」


そう言えば昨日の夜、Netflixのアニメを食い入るように見てたな。たぶんそのアニメに巫女服のキャラとかが出てきたんだろう。


「僕は巫女服が着たい」


「はぁ?男が巫女服なんて着れるわけないでしょ!巫女服は却下だ。他に無いの?」


「白で・・・」


「白で?」


「襟が紺で・・・」


「紺で?」


「ワイン色のリボンの・・・」


「リボン?」


「セーラー服」


「バカ!アンタがセーラー服着てどうすんだよ!変態か!」


「サキュバスが着ていた黒いマイクロビキニが・・・」


「あーっ、もういい!もういい!お前の好みは聞かん!アタシが決めるっ!」


珍之助の手を引っ張って新宿駅ビルの中のメンズウェア階に行き、適当な店に入ってみた。

うん、ここならどれを着せてもそれなりに見えそうだ。まあ、中身は超イケメンだから、何を着せても問題無いだろう。


が、どれもこれも高い・・・

シャツだけで1万円以上する・・・


まあそうだよな、私が会社に着ていく服だってブラウスだけで1万円とかするもんね。

うーん、どうしたものか・・・

駅ビルを出て西新宿の辺りをブラブラ歩く。


「珍之助、どうしよっか?安くて見てくれのイイ服ってないかなあ・・・あれ?・・・珍之助、どこ?」


横に居たはずの珍之助が知らないうちに居なくなっている。

一体どこ行った?はぐれたらちょっとヤバいぞ。


その時、30mくらい後ろにある家電量販店にフラフラと入って行く珍之助の姿がチラっと見えた。

あいつ、どこ行く気だ?


私は急いで珍之助の後を追う。

エレベーターに乗り込む珍之助。私が追いつく間もなく、エレバーターのドアが閉まってしまった。

仕方ないので1フロアごとに珍之助を探すが、なかなか見つからない。

一体どこへ行きやがった・・・


そして5階のゲーム・ホビーフロアに行くと・・・


居た!


珍之助はガラスケースに両手をくっつけて、食い入るように何かを見つめている。

ヤツが見ていた物は・・・



エロフィギュアでした。



まるでトランペットが欲しい黒人少年のように両手と額をガラスにべったりとくっつけて、おっぱいバインバインのエロフィギュアを凝視するジャージ姿のイケメン。


シュールだ・・・


「おい!珍之助!お前何見てんだ?」


「・・・・・」


「おい!珍之助っ!」


「あ・・・この人形はインターネットで見たアニメーションの中のセーラー服の人ですから、僕は見たいですね」


「ふーん、珍之助ってさあ、そーゆーおっぱいバーン!って女の子が好きなんだ?」


「はい、アニメーションの中の人はみんなおっぱいバーン!でしょう?でもなぜちんこはおっぱいバーン!じゃないか?セーラー服着ないか?」


「う・・・お、お前までそんなコト言うのかよっ!おっぱいバーン!じゃなくて悪かったな!それに27歳のOLがセーラー服着てどうすんだよ、コスプレでもギリだぞ」


「おっぱいバーン!じゃなくてもちんこはちんこなので、僕はちんこが好きですから。オッパイとちんこを比べるか?それは非常に難しい質問なのですが。オッパイは好きです。尚且つちんこも好きでセーラー服も好きですから、ちんことオッパイは・・・」


「こら!珍之助もうヤメロ!そんな話おっきな声でちんこが好きとか話すんじゃねぇ!変に思われるだろうが!」


私はエロフィギュアに見入る珍之助の手を引いて店の外へ出た。


ったく、いつの間にあんなものに興味が湧いたんだ?

ひょっとして私が会社に行ってる間にネットで変な知識を得てしまったのか?

帰ったらブラウザの閲覧履歴確認してみよう。


どうしょっかなあ、珍之助に何着せよう。上下その他諸々で3万とかキツイし・・・


ふと見上げると黒と黄色の派手な看板が目に付いた。


『上下で揃えても5,000円!働くアナタを応援するワーキングマン!』


おお!上下で5,000円!

いいじゃんいいじゃん!

でもこの店って作業服とかの専門店だよな?

まあいい、ちょっと見て見るか。


その店は作業服や工場・土木・建築現場向け用品の専門店で、職人さんとかがよく利用する店だ。

店内に入ると丈夫そうな作業着や安全靴などが所狭しと並べられている。

看板にあった上下で5000円ってのは・・・

あ、コレだ。


って、これってまんま工場の作業服じゃん。

グレーで胸に2つポケットがあって、オシャレさのかけらも無い。機能に特化したヤツ。

その横に置いてある安全靴が1900円、ベルトが800円、厚手の靴下が500円、タンクトップが700円、全部で8900円!


よし、珍之助、お前はこれを着るのだ!

中途半端にオシャレして微妙な感じになるよりは、これくらい振り切った方がいいかもしれない。

そうだ、普段はどこかの現場でバイトしてる事にしよう!うんうん、そうしよう!


珍之助に作業着一式を試着させた。

あっという間にイケメン作業員の出来上がり。

お店のサービスで胸に刺繡を入れてくれると言うので、黄色い文字で”坂口工務店”と入れてもらった。

これで『知り合いの所でバイトさせてもらってるんですよ~』ってウソ言っても本当っぽくなるぞ。


帰りはまたチャリンコで2ケツ。

荷台に横座りして、チャリを漕ぐ珍之助の腰に捉まりながら夕暮れの青梅街道を走る。

ちょっと幸せ。




アパートに着いて、早速PCのブラウザの閲覧履歴を確認してみた。

どれどれ・・・


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頭痛がしてきた。


外見はパーフェクトなのに、中身はただの変態エロオタクじゃんか。

何でコレに興味持った?

しかもちょっとセーラー服にこだわってるし。

女性に興味を抱くのはいい。別に問題無い。

だが、だがしかし!

なぜにコレか?



「おい、珍之助!アンタってセーラー服が好きなの?」


「僕はセーラー服、好きですねえ、うひ」


何だよ、その最後の”うひ”ってのは。いくらイケメンでもちょっとキモいぞ。


「何で珍之助はセーラー服の女の子が好きなの?」


珍之助は無言で彼氏製造キットの入っていたダンボール箱の中から一枚の写真を取り出し、それを私に見せた。

その写真には、高校の制服(セーラー服)を着た私が写っていた。


「ち、珍之助、この写真どこで見つけたの?」


「お料理の本の中に入ってたのですから」


あ、そうか、何かの理由で適当に料理の本に挟んだに違いない。すっかり忘れてたよ・・・

この写真は卒業式の時に友人が撮ってくれたものだ。

屈託のない笑顔の私の写真、もう10年近くも前だ。


「珍之助さぁ、それってもう10年くらい前の写真だよ。恥ずかしいから返してよ」


「イヤだ!!!」


ビックリした。

何を言っても拒否する事なんて今まで一度も無かったのに、初めて『イヤ』と言われた。

ちょっとショックだ・・・


「何で?恥ずかしいって言ってるでしょ!返してよ!」


「イヤだイヤだ!僕が持ってるの写真。ちんこの写真。セーラー服のは好きだ」


「え!?」


「ちんこが仕事に行くは僕は部屋で居るから一人だ。お買い物も一人だ。インターネット見るも一人だ。ずっと一人だ。ちんこの写真見るは一人だけど、頭の中は二人だ。二人は一人じゃないでしょう?ちんこのセーラー服はカワイイでしょう?この写真持ってるは頭の中が二人だから、一人じゃない」


そうか・・・

ずっと一人で部屋に居て、寂しかったんだね。

ゴメンね。全然気が付かなかったよ。


「珍之助、ゴメンね、ひとりぼっちで寂しかったんだね。その写真は珍之助が持ってていいよ。でも他の人に見せちゃダメだよ。恥ずかしいから」


珍之助はちょっとホッとしたような表情を見せ、大事そうに写真を元のダンボール箱の中にしまった。


そうか、私の写真がセーラー服だったから、セーラー服が好きなのか、そうかそうか・・・

って?

セーラー服はいいが、エロフィギュアは何なんだ?

そっちの話はどうなった?


「おい、珍之助!セーラー服はいいけどさ、何でエロフィギュアが好きなのさ?」


「エロフィギュア?それは何か?」


「何か?じゃねぇよ!何とぼけてんだよ!アンタがネットで見まくってたこのエロ人形の事だよ!」


「あー、おっぱいバーンか?」


「そうだよ、おっぱいバーン!だよ」


自分で言っていて何か悲しくなってくる・・・


「神様は言いました。おっぱいバーン!は正義ですから。おっぱいバーン!はスバラシイのですから」


「神様?神様って、あのハゲ?アンタに格闘技教えたあのハゲ?」


「そう」


あのクソエロハゲ、珍之助に変な知識植えこみやがって!

このままじゃどんどん変態エロに走っちゃうじゃんか、いや、もう既にスタートしちゃってるけど。

あのハゲ、次会ったら股間にケリ入れてやる!

あ、人間は神様に触れないんだった・・・ダメか!?

くそ~~、何とかしてハゲに痛い思いをさせてやりたい。


「ちんこ」


「何よっ!」


「おっぱいバーン!のフィギュア買って」


「はぁぁぁ?アンタ何言ってんの?バッカじゃないの?そんなもん誰が買うか!この部屋にそんなモン置いてたまるか!」


ああ、完璧なイケメンが完璧なエロオタクに近づいて行く・・・

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