第5話 メルティー

白い煙の中に現れたのはあのハゲではなく、まるでアイドルが着るような水色の制服っぽいコスチュームを着た金髪の女の子だった。

あれ?この子、どこかで見た事あるような・・・・・


あ!?あんた、メルティーじゃん!メルティーってリアルに存在するんか?あんたが派遣された技術者なの?

しかしこの”リアルメルティー”、女の私が言うのもナンだが、超カワイイ。

身長は160cmくらいか?サラッサラのストレートの金髪、ちっちゃい顔に大きな目。瞳の色はブルーで唇はほんのりピンク色。肌は透き通るように白い。

そして・・・はちきれんばかりにパンパンに膨らんでいるシャツの胸。

で、でけぇ・・・


「あのー、ここってぇ、さっかぐち凛子さんのお宅ッスかぁー」


「あ、はい、そうだけど」


「あー、おねーさんがさっかぐち凛子さん?・・・ふーんそう・・・あ~あ、かったりぃなぁ~、ふぁぁ~・・・」


メルティーってこんなだっけ・・・何か想像してたのと違う・・・スマホアプリのメルティーはもっと元気でキャピキャピしてたよね。


「あの、あなた誰?」


「ああ?アタシ?おねーさんアタシの事知らねぇの?散々アプリに出てたっしょ。メルティーだよ、メルティー。知ってるっしょ?」


「あ、ああ、メルティーさんね、そっか。いやね、感じがアプリとちょっと違うかな~?とか思って」


「ああ、あれな、あれって演技だから。キャンペーン向けに設定したキャラだから。あんなハズいセリフ言ってられっかよ」


うわぁ・・・メルティー、何でそんなにやさぐれてんの?世間に対して何か不満でもあるのか?


「んでさ、何?なんかエラーだって?・・・どれどれ・・・エラーコードA103?あ~あ・・・あのさぁ、おねーさんのさぁ、ウチの担当営業って誰よ?」


「担当営業?・・・担当かどうか分からないんだけど、この機械送って来たのはこの人だけど・・・」


私はクシャクシャになったハゲの名刺をメルティーに差し出した。


「あちゃー、部長かよ!ハゲかよ!ったくあのオヤジ使えねぇなあ・・・」


メルティーはその場にドカッとあぐらをかいて座り込み、私が渡したハゲの名刺をそこら辺にポイっと投げ捨てるとカバンから携帯を取り出して弄り始めた。

メ、メルティー、アプリの中のキミと現実のキミって全然違うのね。お姉さんはたまげたよ・・・

いくら女同士だからって堂々とパンツ見える状態であぐらかいて携帯弄るのはどうかと思うぞ。


「おねーさん、コレさー、部長が送って来たEKMジェネだけどさー、アクティベートしてないんだよねー」


「アクティベート?」


「うん、アクティベートしねえとさ、動かねぇんだわコレ。本当はあのハゲがやっとくハズなんだけどさー、やってねぇんだわ。でさ、どーする?ここで今アクティベートしちゃう?」


「そうなんだ、じゃあお願いします」


「はいはいっと、・・・あーめんどくせぇ・・・ったくあと10分で退社時間だったのによ・・・」


メルティーはブツブツ文句を言いながら持って来た大きなカバンからノートパソコンとUSBケーブルを取り出してEKMジェネレーターに繋ぎ、何やら作業をし始めた。

一応、そこらへんのスキルは持っているようだ。


「あ、何これ?え?マジー?キャハハハハ!」


ノートパソコンの画面を見ながらメルティーがいきなり笑い出した。


「何?どうしたの?」


「キャハハハハハ!ヤベー!ちょーヤベー!おもしろ過ぎて腹がよじれそうだわ!・・・今さ、念のためにおねーさんが設定した彼氏データのバックアップ取ったんだけどさぁ、おねーさんの彼氏の名前”珍之助”なの?で、彼氏はおねーさんのコト”珍子”って呼ぶの?キャハハハハハ!んでもって身長138cm?ちっちぇー!超小せぇ!子供かよ!ウケるー!ちょーウケるー!」


「そ、それはちょっと入力ミスしちゃって・・・」


「珍子っだって!ちんこ!ちんこ!キャハハハハー!」


「あのさ、そのデータって、もう一度設定し直す事ってできないの?」


「できねぇよー。もうROMに書き込んじゃってるからねぇ。どうしてもって言うんだったら会社に持って帰って技術部のヤツらに初期化してもらわないとだねー」


「じゃあそうしてもらえるかな?」


「いいけどさ、カネかかるよ」


「いくらくらい?」


「ん-、よくわかんねぇけどさ、たぶん3百万くらいでできるんじゃねえの?知らんけど」


「そのままでお願いします」


「はいはーい、わかっりましたぁ。んじゃあ今からアクティベートするから服脱いで」


「え?」


「さっさと服脱いで」


メルティーはそう言うと立ち上がって自分も服を脱ぎ始めた。

何の躊躇いもなく、シャツやスカートをばんばん脱いでいくメルティー。

いくら女同士だと言ってもさっき会ったばかりだぞ。キミには羞恥心と言うモノが無いのか?

スッポンポンになったメルティーはEKMジェネレーターの前にしゃがみ込んでカバンから取り出した道具を使って何やらガチャガチャとやっている。

そして私の方を横目で睨みながらこう言った。


「あのさぁ、アクティベートすんの?しねぇの?どっちなの?しねぇんだったらアタシ帰るから。さっきから部長からLINEがバンバン来ててさ、もう新歓始まってっから早く帰ってこいってうるせぇんだよねー」


メルティー、なんか怖いよ・・・

私は仕方なく服を脱ぎ始めた。

Tシャツ、ジャージ・・・すべて脱いで素っ裸になった。女同士とは言え、すげーハズカシイ。


「じゃ、アクティベートすっから、こっち来て」


そう言いながら私の前に立ったスッポンポンのメルティーは・・・・・超絶に美しい!!

アイドルのような顔に推定Gカップの胸、コーラの瓶みたいにくびれたウェスト、キュッと引き締まったヒップから伸びたすらりと長くて細い脚・・・

あまりの美しさのメルティーの裸体に、私はポ~ッと見とれてしまった。


「ほら、なにボーっとしてんの!そんなとこに突っ立ってないでこっち来て!」


メルティーがいきなり私の手を引っ張って身体を引き寄せ、私を抱きしめた。

ちょちょちょちょっと、何すんの!?

・・・・・・・ああ・・・メルティーの身体、ちょっとひんやりしててイイ匂いがする・・・私の真っ平な胸に感じるメルティーのバインバインのおっぱいの感触・・・

私はGLとか、そんな趣味は一切無いのだが、これはちょっとヤバイ・・・ああ、メルティー、お姉さんはアンタにドキドキしちゃってるよ・・・これって何?


「じゃあアクティベートすっから。ちょっとビリビリするかもしんねぇけどガマンしてよね、行くよ!3,2,1、おりゃ!」


メルティーがノートパソコンのキーを押すと、私の身体にピリピリとした軽い痛みが走った。

メルティーはEKMジェネレーターに接続されたケーブルの端を握りながら私の身体を強く抱きしめている。私の身体と密着している部分にはうっすら汗が滲んでいた。何か、エロい。


「はーい、終わりましたー、お疲れーッス」


メルティーはあっさりと私を放り出すと、そそくさと服を着て帰り支度を始める。

裸のままボーっと立ち尽くす私。

まだメルティーの肌の感触が私の中に消えないで残っており、私はその余韻に浸っていた。

ひょっとして、もしこのアクティベートってやつをあのハゲが忘れてなかったら、私はコレをあのハゲとやることになっていたのか?

よかったー!メルティー、アンタでよかった~!大好きだよ、メルティー!


「じゃあアタシ、帰るから。あ、それからさ、設定した彼氏データってこれからのやり方次第でいくらでも変えられっから、心配しなくても大丈夫だから。あとさ、おねーさんのスマホとEKMジェネはもうUSBとかで繋げなくていいよ。アタシがブルートゥースで繋がるようにしといたから。ほんじゃね、バイバイ」


「あっ、ちょっと待っ・・・」


--- ボンッ!---


爆発音と白煙。

目の前に居たメルティーは消えていた。もっと聞きたい事がいっぱいあったのに・・・

でもメルティー、可愛かったなあ・・・言葉遣いは最悪だけど。

でも何でメルティーと裸で抱き合わなきゃならなかったの?

そう言う仕組みか?よく分かんないな・・・


スマホのアプリ画面は『彼氏データ送信完了しました。下のボタンを押してください』と表示されている。

表示の通りにボタンを押すと、新しい画面に切り替わった。


<やったね!彼氏データの転送大成功!ここからは実際に彼氏を製造していくよ!ドキドキ!>


アプリ画面には、左上に『1日目』の表示。そして中央には何やらグラフが表示されている。グラフの下には『進化度』『成長度』『知能』『体力』『メンタル』『自我』『言語』などとラベルされたボタンが数多く並んでおり、そのボタンを押すと中央のグラフも変化する。

が、まだ何もしていないので、グラフは空のままだ。


<それじゃあいよいよ彼氏を製造しちゃうよ!まずはキット付属の『第一時培養皿』と『培養シート』、『ブースターゼリーA』、『ゼリー塗布ナイフ』、『彼氏の素』、『彼氏の素用ピンセット』、『触媒粉末(青)』、それから『あなたの髪の毛』と『めんつゆ小さじ1杯』を用意してね!>


メルティー、『あなたの髪の毛』は分かるけど、『めんつゆ小さじ1杯』って何だよ。彼氏に味付けするのか?


<『めんつゆ』は無くても大丈夫だよ!でもね、メルティーは『めんつゆ』を入れる方が好みだなあ!コクが出るよねっ!それから『あなたの髪の毛』はワキ毛でも脛毛でも、何なら下の毛でもオッケーだよ!好きな場所の毛を選んでね。え?なになに?『私は下の毛を入れる』って?んもぅ・・・エッチ・・・メルティーちょっと恥ずかしいゾ!>


「・・・・・」


私は段ボール箱の中をごそごそ探し、言われたモノをテーブルの上に並べた。めんつゆは無いから無視。


<用意は出来たかな?それではまず『培養シート』の保護フィルムを剥がして『第一時培養皿』に貼り付けてね。くれぐれもフィルムを剥がした後の培養シートには触れないように気を付けて!培養シートを貼ったら、そこに『ブースターゼリーA』を『ゼリー塗布ナイフ』を使って薄く塗布してね>


言われた通りに培養シートを皿に貼り、そこにブースターゼリーAとやらを塗る。何だか理科の実験をやっているみたいだ。ちょっと懐かしい感覚・・・


<次に『彼氏の素』をセットするよ!保護ケースを開けて『彼氏の素』を『彼氏の素用ピンセット』を使って取り出し、『培養シート』の真ん中の窪みにセットしてね>


『彼氏の素』とやらは指輪ケースほどの大きさの透明なプラスチックのケースに入っていた。ケースの真ん中には非常に小さい、米粒ほどの赤いモノが固定されている。これが『彼氏の素』らしい。

私はケースを開け、『彼氏の素用ピンセット』を使ってそーっとその赤い粒を取り出そう・・・と思ったが、この『彼氏の素』とやらの表面がツルツルしていて非常に掴みにくい。

ピンセットを使って何とかケースから取り出したが、目の前まで持ち上げた時にピンッ!と弾いて『彼氏の素』はどこかに飛んで行ってしまった。


「あわわわわ・・・どうしよう・・・」


絨毯の上やテーブルの上を探すが見つからない。が、飲みかけの酎ハイの中に浮いている赤い粒が・・・・


「うわーっ、こんなとこに飛び込んでやがった!」


ピンセットで酎ハイの中に浮いている『彼氏の素』を取り出し、『培養シート』の窪みに置いたが・・・洗った方が良かったか?いや、もうシートに置いちゃったしな。酒癖の悪い彼氏が出来ちゃったらどうしよう・・・


<『彼氏の素』をセットした培養皿をEKMジェネレーターの上部にある金属面の上に置き、あなたの毛をその中に入れてから『触媒粉末(青)』を入れてね!>


EKMジェネレーターの上にある赤銅色の金属面の上に培養皿を置き、頭のてっぺん辺りの毛を1本抜いて培養皿に入れる。そして『触媒粉末(青)』とやらをパラパラと振りかけた。

あ、待てよ、ひょっとして『下の毛』の方がいいの?『下の毛』を入れたら床上手な彼氏が出来たりするかも・・・って、アタシ何考えてんだ!


<ここまでの作業はちゃんと終わったかな?これからあなたの毛の細胞分子と彼氏の元をEKMジェネレーターで融合させるよ!下のボタンを押して融合スタート!>


アプリ画面に現れた『融合』とラベルされたボタンを押す・・・するとEKMジェネレーターのディスプレイ表示は『Fusing now...』になり、EKMジェネレーターからウィーンという低い音が響き始めた。

上部の培養皿の中にある触媒粉末と髪の毛が見る見るうちに溶け、次はモコモコと泡のように盛り上がって彼氏の素を完全に包み込んだ。

うわー、スゲーな、本当に理科の実験みたいだ。でもこんな物が彼氏に成長するのか?

スマホのアプリ画面には『融合終了まであと20分』の文字。


あーあ・・・いつの間にかあのハゲに乗せられて、気が付いたらこんな事を始めてしまった。

こんな胡散臭い事やっちゃっていいのだろうか?

終わるまでまだ20分あるし、シャワーでも浴びるか・・・あ、そう言えば私、まだ服着てなかった!


タンスの中から新しいバスタオルを取り出してユニットバスへ。

シャワーを浴びて出てきた時にはすでに融合は終わっており、スマホアプリの画面には『融合終了』の文字が。


<融合が終わったよ、お疲れさま!今日の作業はここまでだよ!次の作業は72時間後だよ。培養皿を保護ケースに入れて直射日光を避け、風通しの良い場所で保管してください>


直射日光を避け、風通しの良い場所で保管?漬物か!?

私は段ボール箱の中にあった『培養皿保護ケース』の中に培養皿を入れ、キッチンの冷蔵庫の横の隙間に置いた。

と、その時、スマホからピコン!とLINEのメッセージ着信音が・・・

誰だろう?優子かな?と思ってスマホを見ると、なんとメルティーからメッセージが!

あの子、さっき私のスマホに勝手に友達登録しやがったな!でも・・・ちょっと嬉しい。


『おねーさん、ちゃんと融合できた?分からないことがあったら私にLINEで聞いてもいいよー! ただいま新人歓迎会中!酔っ払いオヤジうぜー!』


メルティー、あんた結構いい子じゃん!さっきはあんな態度だったのに。ったく、ツンデレだなぁ!


今日は徹夜でゲームをしようと思ってたのに・・・色んな事があって疲れたよ・・・

私はベッドに倒れこむとすぐに眠りに落ちていった。

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