冬花の違った一面

 それから数日後、深雪は午後の授業がなく、いつもより早めに帰宅した。


「ただいまー。……あれ?誰もいないのかな?」


 スリッパに履き替えてリビングに向かう。そーっとリビングの戸を開けると冬花の姿が目に入った。


「あ、冬花さんただい……」


 カタカタカタカタ。


 深雪が声をかけようとすると、冬花は一心不乱にキーボードを叩いていた。葡萄酒色ぶどうしゅいろのメガネを掛けて、長い茶髪をポニーテールにしている。普段とは違う姿に見惚れていると、こちらに気付いたのか顔を上げた。


「あら?え!今何時!?」

「えーと……13時前です」

「ごめんね!気づかなくて、おかえりなさい。今日は早かったのね」

「はい。今日は午前授業だったので」


 深雪は鞄を置くと制服を脱いで、ハンガーにかける。


「冬花さんは何を?」

「ああ、これ?ちょっとお仕事をね。もう終わるから待っててね」

「どうぞゆっくり続けてください」


 深雪は冷蔵庫からアイスを取り出して冬花の向かいに座った。


「ありがと、じゃあお言葉に甘えて」


 冬花は再びパソコンに向き直った。


 カタカタカタカタ。


(なんだかいつもと雰囲気が違うなぁ)


 真剣な表情の冬花を見て深雪は思う。


(なんかカッコイイかも……)


 深雪は冬花の顔をじっと見つめる。


「ん?なぁに?お姉ちゃんのことが気になっちゃう?」

「べ、別にそういうわけでは……」


 深雪は慌てて視線を外す。


(危ない危ない。危うく見惚れるところだった)


「ふふっ、冗談よ」

「もう……やめてくださいよ」


 プクーッと頬を膨らませて抗議する。


「ふふっ、可愛い」

「むぅ……」


 深雪は不満げに唇を尖らせた。


「よしっ、終わった!」

「お疲れ様です」


 冬花は椅子から立ち上がると、大きく伸びをする。


「ふぅ〜、肩凝ったぁ」

「どれくらいやってたんですか?」

「3時間ぐらいかなぁ」

「そんなに……大変ですね」

「そうでもないわよ。好きなことだから」


 冬花は肩を回しながら深雪の隣に腰掛ける。


「と・こ・ろ・で」


 冬花が体を密着させてくる。


「な、なんですか?」

「お姉ちゃんのメガネ姿はどう?」

「ど、どうと言われても……その、似合ってますよ」

「ほんと?あー!いいこと考えた!」


 冬花は立ち上がって自室に向かった。数分後、戻ってきた冬花はスーツ姿で赤いフレームの眼鏡を掛けていた。


「冬花さん、それは?」

「今日はふぶちゃんの一日家庭教師になってあげる!」

「家庭教師?それはいいんですけど、その……短くないですか?」


 深雪は自分のスカートを掴むと、冬花のスカートと比較する。


「そうねぇ。何年か前に着てたけど、サイズ合わなくなっちゃって」

「そうなんですか」

「まあ、でも大丈夫よね」


 冬花はニヤリと笑うと、二人は深雪の部屋に入る。冬花はベッドに座り、深雪は机の前の椅子に座る。


「さて、ふぶちゃんは何が苦手なのかしら?」

「国語です」

「なるほどぉ。じゃあまずは国語の宿題から始めましょうか」

「はい」


 深雪は教科書を開く。


「じゃあ、ふぶちゃんが文章を読んでくれる?」

「わかりました」


 深雪はゆっくりと文章を読み始めた。文章を読みながらチラッと冬花の方を見る。足を組み、手を組んで、その上に顎を乗せている。柔らかそうな太ももに目が行ってしまう。


(うーん……やっぱり短い気がする。それになんか……すごくえっち)


 深雪はなるべく意識しないように朗読を続ける。


「えーっと、『あるところに』……チラッ」

「こぉら。ちゃんと集中しなさい」

「す、すいません」


 深雪は慌てて視線を戻す。


「『一人の女の子がいました。その子は……」


 目を泳がせながら読み進めていると、冬花は組んでいた足を組み換えた。


「……」

「ほらほら。集中して」

「は、はい……」


 深雪はできるだけ冬花の脚を見ないように朗読を続けた。すると今度はワイシャツのボタンを外し始めた。


(うわっ、ちょっと!見えてる!)


 深雪は慌てて視線を逸らす。


「どうしたの?続き読んでくれないの?」

「えーと、えーと……コホン。『彼女はある日、とある女性と出会い……」


 深雪は少し大袈裟に咳払いをして、再び朗読を始める。しかし冬花の手は止まらない。


「……」

「ふふっ、ふぶちゃんったら、どこに集中してるのかな?」


 冬花は悪戯っぽい笑みを浮かべると、深雪の耳元で囁く。


「エッチ♡」

「えええっちなのは冬花さんの方でしょ!というか、わざとですよね!?」

「でも困ったわね。これじゃぁお勉強にならなさそうだわ」


 冬花は腕を組んで考える。


「一回スッキリする?」

「す、すっきり?」

「えい!」


 冬花は深雪の顔を胸の谷間に押し付けてきた。


「むぐぅ!?」

「これなら集中できるでしょ?」

「むむぅ!?(できません!)」


 深雪はジタバタと暴れるが、冬花はしっかりと抱き締めて離さない。


「ほーら、落ち着いて」


 そのままベッドに倒れ込んで太ももで挟み込むようにホールドされた。


「ぷはぁ!」


 深雪は息継ぎのために顔を上げると、目の前には妖艶な微笑みがあった。


「苦しくない?それとももうちょっとキツキツの方がいい?」


 冬花はさらに強く抱きしめる。


「むぅ……」


 深雪は観念したのか、抵抗をやめた。


「あら?もう諦めちゃうの?もっと頑張ってもいいのよ」

「……」


 深雪は軽く睨むが、全く効果はないようだ。冬花は優しく頭を撫でる。


「むふぅ……」

「ふふっ、可愛い」


 冬花は深雪の頬にキスをした。


「いい子いい子。お鼻もちっちゃい」


 冬花は深雪の頬を両手で挟んでムニムニと揉んだ。


「ひゃめへくらはい!」

「可愛い〜」


 結局冬花は満足するまで深雪を弄り続けたのであった。

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