第7話 お金を稼ぐ男

ゴブリン集落の掃討作戦から半月経ち、サラとガルは無事に〈E級〉に昇格した。


サラとガルは〈D級〉に向けてコツコツポイントを稼ぐ為に薬草類の採集と、罠を仕掛けて小型や中型の魔物を狩っている。


もう、森程度なら無茶さえしなければ安定して狩りが出来る程に成った弟子の成長を喜びながら、師匠の俺は…


少し大人げない方法でお金を稼いでいる。


草刈り用の大鎌で草原の草を手当たり次第に刈り取り、全てアイテムボックスにしまうと、勝手に〈薬草〉〈上薬草〉〈毒消し草〉等にまとめられていく。


街道の草刈り業務を請け負い、ついでに薬草類も手に入る、一石二鳥の仕事をしている。


実は、スキルショップで魔法の1つでも買ってやろうと考えているのだ。


風呂付きの宿屋に泊まり、弟子がいる冒険者にしては、アイテムボックスと異世界言語スキルという、あまりパッとしない能力しかない為に、ここらでドカンと魔法を撃てる冒険者に成ろうと思い付いたからだ。


炎魔法とか派手なヤツを身に付けるのも良いが、最悪、生活魔法の〈クリーン〉を身に付けダンジョンに潜り自力でスキルスクロールを手に入れるのも冒険者っぽくて良いかもしれない。


夢は膨らむが、初級の炎魔法の〈ファイアアロー〉だけでも大金貨一枚と小金貨二枚だ、約百二十万円、軽自動車ぐらいの出費で炎の矢が撃てるのは、高いか安いか悩ましい所ではあるが、折角撃てる世界に来たのだから撃ってみたいのが人情だ。


まぁ、最悪、生活魔法の〈クリーン〉なら小金貨三枚、約三十万円ぐらいで手に入るので、オークの集落の掃討作戦でも有れば余裕で何かしらの魔法が買えるはずだが、ボロい仕事がゴロゴロ有るわけもない…


かといって〈B級〉に成るのはヤッパリ気が引ける。


という訳で、草刈り業務で1日大銀貨一枚と小銀貨五枚、日当一万五千円のアルバイトをしながら薬草類も臨時収入にして、お金を貯めている訳だ。


草刈りの後に森の罠を巡って魔物も狩れば何とか成るだろう。


草を刈りながらボーッと考えていると、そう言えば冒険者ギルドの職員が、〈貴族様が社交のシーズンで珍しい食材を欲しがっているらしい〉と言っていたな…


サラとガルと一緒に森に行って高級食材のキノコを狩るのも良いかもしれないな、アイテムボックスに入れたら正確な名前は解るから間違って毒キノコを必死に集める事もないだろうし、ガルが居れば匂いの強いキノコなら一発だろう…。


数日キャンプで森で採集と狩りでも良いかもしれない。


まぁ、今日で草刈り依頼も最後だし次の依頼を決めないと駄目だな…


たぶんこの草刈りも社交のシーズンの一環だろうから社交パーティーの食材で一儲けしてやるか!


一仕事終えて、サラとガルと冒険者ギルドで合流してから市場で軽く買い物を済ませて宿屋に帰ると、何か宿屋が騒がしい


晩の仕込みは済んでいる時間だろうが、オヤジさんが食堂で来客と何かしている。


「だから、弟子とかは取ってないし、急にパーティーで使える料理と言われても、俺がパーティーの料理を知らないから向くも向かないも解らないから!」


とオヤジさんが困り顔で誰かと話している


「そこを何とかお願いします。

ご領主様の屋敷の料理長としてパーティーの料理を作って来ましたが、今年のお嬢様のご婚約発表の料理は今まで通りでは駄目なのです。


先方は五男とはいえ公爵家の方、パーティーに来られる方々は、ご領主様より格上の方々です。


新たな料理を次々と作り出す料理人は王国の中でもご主人だけ…


どうか、私にお知恵を授けて頂けないでしょうか?!」


とオヤジさんに負けないくらいの強面オヤジが頭を下げていた。


眺めている俺を見つけたオヤジさんが、


「どうしよう、ユウ?」


と、俺に助けを求めてきた。


「えっ、俺?」


と聞く俺に、


「いやいや、むしろこれは宿屋の親父の俺じゃなく、直接ユウに行く話だろうよ。」


とオヤジさんが俺に丸投げしてくる。


料理長さんはポカンと俺達の会話を聞いていた。


「料理長さんよ、新しい料理はこっちの遠くから流れてきた冒険者のユウが俺に教えてくれたモンだ。


何か新しい料理を教えて欲しいんなら俺じゃなくてユウに頼んでくれや。」


と言ってオヤジさんは、キッチンに消えて行った。



…あっ、逃げやがった。



食堂に残されたのは俺と、料理長さんのみ、サラとガルすらも部屋に行ってしまった。


逃げる口実も見当たらないので、渋々料理長さんに話かける。


「えーっと、ご領主様の所の料理長さんですか?」


と俺が聞けば、


「はい…」とだけ答える。


まぁ、確かにいきなり十八歳の冒険者が料理を教えるって言っても信じられないわな、


「で、どんな料理を作りたいの?」


と料理長に聞けば、


「以前こちらで頂いたカツというサクサクとした肉料理と、なにかご婦人方が喜ぶ物を御指南頂ければと…」


料理長さんが答える


「カツは教えてあげれるけど、ご婦人が喜ぶって、甘い物かな?


…料理長さん、〈プリン〉って知ってる?」


と俺が聞けば、料理長さんがフルフルと首を振った。


ならば何とか成るかもしれない…



「じゃあ、明日俺が教えてあげるから迎えに来て下さい。


もうすぐ夕御飯で込み合うから、ここじゃ教えられないし…」


と俺が提案すると、

料理長は半信半疑のまま渋々帰って行った。


キッチンの奥からオヤジさんが、


「ユウ、すまねぇ!」


と頭を下げたので、


「晩飯にサービスしてくれよ、オヤジさん。」


と冗談まじりで言っておいたが、その日の晩飯の量が物凄い事に成っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る