第九話 才能

 瑠璃達は城付近から離れ、円形に広がる王都の隅の方に立地している訓練所にやってきた。

 昔スイレンとその妹、アイリスが通っていた場所らしく、此処で戦闘能力や神気を研ぎ澄ませていったらしい。

 ただ、瑠璃も同じ様に強くなれるのかは分からない。努力も勿論だが、彼らには少なからず才能があったのだろう。

 ――しかしその才能すら、努力で埋まればいいだけの話だ。

 訓練所の中は高校の体育館と同じ程の広さだった。奥にある体育準備室の様な部屋の中には、恐らく訓練で使用するであろう木材で作られた等身大の人形や木刀、数は少ないものの拳銃まで所蔵されていた。

 スイレンはその中から人形を運び出した。


「――とりあえず、この人形を普通に殴ってくれ」

「わ、分かった」


 目の前に置かれた木材の人形。

 瑠璃は下手くそなファイティングポーズを執り、右から殴りやすい右頬を狙いに定めた。

 それから、瑠璃は軽いストレートを決めた。

 殴られた勢いで人形が倒れる。

 それをスイレンが立て直し、続けて口を開いた。


「まぁまぁかな。次は、握った拳に気の様なものを乗せって殴ってみてくれ」

「気って一体どうやって……」


 すると横からようす様子を見ていた、瑠璃の初一目惚れを奪った可憐な女性、アイリスが困っている瑠璃に対し助言をした。


「最初は、この拳になんかこう……気持ちとか思いを込めて、打ってみたらいいと思うよ。それに馴れてきたら、多分神気を纏ってパンチ出来る様になると思う!」

「気持ちとか思いを込めればいいんですかぁ! やってみまぁすっ!」


 敬語で気持ち悪い喋り方をした瑠璃は、目の前にある人形に向き直した。それから深呼吸をし、心を落ち着かせ――れない。

 瑠璃の頭の中はもう、アイリスのことでいっぱいになっていた。ならいっそのこと、それを拳に乗せよう。

 さっきと同じ様にファイティングポーズを採った瑠璃は、右手で強く握った拳に、アイリスへの想いを込める。

 拳に、“何か”が纏わりつくのを感じる。恐らく、これが神気なのだろう。

 その神気と思われるものが拳にしっかりと溜まった直後、瑠璃は人形の右頬を殴打する。

 ――打撃を人形が食らった瞬間、その頭部は破裂音と共に粉々に砕け散った。そして人形本体は、左の方へと吹き飛んでいった。


「――! まさか、二回目で……」


 スイレンが目を見開く。

 神気を制御するには、かなりの訓練が必要となってくる。スイレンもアイリスも、早くて三ヶ月はかかっただろう。

 それを瑠璃は、僅か二回の殴打と言う超短時間での制御を果たした。


「瑠璃――君は一体……」

「ん? 多分これ#偶々__たまたま__#だよ。けど、今ので大体のコツは掴んだ気がする。――ア、アイリス……さん。教えてくれて、ありがとうございました!」

「す、凄いね瑠璃君。たったの二回で神気を拳に纏えるなんて!」


 アイリスが驚いた口調で言う。

 瑠璃はアイリスに褒められ、顔を真っ赤に染めた。

 ――驚いた表情も、可愛い。

 瑠璃はアイリスがいるだけで、無限の力を出せる――そんな気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

神様になったこの世界で @oimodayo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ