第五話 瑠璃の神気量

 暫く泣いて、もう涙が出なくなる。

 スイレンはそれを見るとコーヒーを一口飲み、改めて話し始めた。


「――瑠璃。君は、神気について何か知っていることはあるか?」

「う~ん……『魂決所』にいた神様から聞いたんだけど、神気を使って擬似的な肉体を造ってるって。それ以外は何も聞いてない……かな」

「そうか……実は、神気には他にも色々使い道があるんだ。例えば――神気を力に変える……とか」


 ――神気を力に変換する。

 つまり、神気を多量に持っている神は、恐ろしい程強いと言うことになる。

 シラーからも、スイレンからも、瑠璃の神気量は物凄く多いと聞かされた。

 要するに、瑠璃も圧倒的な力を手に入れることができる可能性がある。


「俺の神気量って、普通の神様より多いんでしょ? じゃあ、俺もスイレンみたいに強くなれるってこと?」

「瑠璃の神気量なら――俺以上に強くなれる」


 ――『王権強奪団』団長のシラーの殴打を軽く止めることの出来るスイレンの力。

 それを越える力が、瑠璃の中にはあった。


「ただ、その神気をちゃんとした力に変えられるかは、また別問題だけどな」

「た、確かに……」


 それでも、瑠璃の神気を全て力に変えることが出来たのなら、その戦力は軍隊そのものになり得るだろう。

 ならば、それこそがシラーが瑠璃を誘拐した動機だろう。


「――つまり、その尋常じゃない神気量を狙い、シラーは瑠璃を入団させ、『王権強奪団』最高戦力者にさせようとしていたんだ」

「そういうことか……って、最高戦力者になれる位俺って神気あんの!?」

「あぁ。恐らく、現天界トップクラスの神気量だ。だからこそ、それを悪用しようとする奴らに襲われないよう、俺が保護しなければならない」


 この途徹も無い神気量から成る力を悪に染めたら、天界が滅びる可能性もある。

 そうならない為に、スイレンは瑠璃を保護しているのだ。

 そして万が一、瑠璃自身でその力を悪用する時があれば――スイレンは瑠璃を殺すだろう。


「まぁ、俺が瑠璃の側にいる限り、襲われることはないよ」

「――俺、スイレンの力になりたいんだ」

「――はい?」


 突如言われたことに対し、スイレンは動揺した。

 力になりたいとは、どういうことだろう。

 スイレンは頭を回転させた。

 ――それでも、意図が理解できない。

 そんな中瑠璃は、自分の気持ちを明らかにした。


「俺、色々救われたんだ。シラーから助けてもらったのもそうだし。――だから、今度は俺がスイレンの力になりたい。協力したいんだ」

「は、はぁ……」

「だから俺、スイレンの職に就くよ」

「――いや待て、それは絶対だめだ」

「な、なんでだめなんだよ」


 焦りを見せていたスイレンの雰囲気が急に変わり、瑠璃は一驚した。

 それからスイレンは哀愁漂う表情をし、カフェの外を見ながらゆっくりと口を開いた。


「俺は、『神政』……政府が直接管理している部隊、『ローリエ』に所属しているんだ」

「『ローリエ』……?」


 確か、先刻騎士と会話をしていたスイレンが口にしていた言葉だ。

 瑠璃自身、その時は余りその言葉について深く考えてはいなかった。


「『ローリエ』は騎士団と違い、神気量が極めて多い神のみが所属できる。その為、単純に数が少なく、少数精鋭の様な感じになっているんだ」

「それじゃあ、俺もそれに――」


 そう言い掛けた瑠璃に対し、スイレンは遮る様に言葉を発した。


「――『ローリエ』は、地獄だ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る