第7話 魔法開発 その2

「うん、魔法はだいたいマスターできたかな〜。よし、ご飯だ」

『いいですね』

「いや聖剣は食べないじゃん」

『美味しそうなのって見てるだけで幸せじゃないですか』

「食べられないんだよ〜?悲しくならない?」

『食べたことないので』

「そっか〜。じゃあ遠慮なく」


 二胡が角笛を吹くと、フェンリルが現れた。


「二胡様、お呼びですか?」

「正午だからね」

「なるほど。五分ほどあとにお呼びください。果物を持って参ります」

「そうだね~。ん?ねえ、準備ができたらそっちで呼んでよ」

「それはできません」

「え〜。不便だね」

「ですね」


 しばらく考えたあと、二胡は呟いた。


「探知」


 新しい魔法の誕生である。


 探知魔法 マスター:真田 二胡

 発動条件:日没前。

 使用魔力:十秒で1。

 詠唱:「探知」のみ。詳しい設定は不可能。

 その他:画質は十段階。使用魔力に変化はないが、脳が耐えられるかは使用者次第。範囲も同様。


〈こんなもんかな。決定、と〉


 瞬間、視界が360℃に変わった。則ち、「探知」が発動したのである。

 範囲は半径一メートル、まるで神になったかのように、上から見渡せる。

 フェンリルが、様子の変わった二胡に困惑しているのが見える。


 だがこれでは、普段の視界と変わらない。いや、見通せる先は短い。


 意識で、範囲を広げる。難しくはない。半径二メートル、問題はない。

 十メートル、まだ大丈夫だ。

 百メートル、情報の認識で精一杯、音が聞こえない。が、まだ行ける。

 二百メートル、頭に鈍痛。問題というほどではない。

 三百メートル、激痛。耐えられなくはない。

 四百メートル、思考が溶ける。限界だ。

 三百五十メートル、ジャスト。痛みは消えた。正確には、感じない。限界は一分。上々だ。


「ストップ」


 視界が戻った。脳にダメージはない。


「うん、大丈夫そうだな。フェンリル、戻っていいぞ」

「…は」


 フェンリルが消えた。


『なんですか、今の。完全に目の焦点があってませんでしたよ』

「気にするな。あ、画質の実験するの忘れてた。次でいいか」

『あの、たまに別の言語で話すのやめてもらえます?』

「大丈夫だよ」

『いや、大丈夫じゃないんです。まあいいや。もういいや』

「うん。ねぇ聖剣、フェンリル何分後って言ってた?」

『五分後じゃないですか?』

「そっか。じゃあ四分、いや三分三十秒だな」

『訳の分からない単位を…。いや、何でもないです』


 聖剣がため息をつく。可哀想なことだ。が、すぐに立ち直る。図太さはそのままらしい。


「そういえば、魔力ってどれくらい回復するの?」

『そうですね。御主人様は早いので、三十秒に1ほどでしょうか』

「そうか。じゃあ、体力は?」

『一分に1、ですかね?』

「生命力は?」

『普通は減らないものですが…。1秒1程です』

「ふうん。ほかは減らないかな?」

『そうですね。…よっぽどのことがなければ』

「そうなんだ。気をつけよう」

『…そういうのは聞こえてるんですね』

「何か言った?」

『…もういいです』


 そんなことを続けて三分三十秒後、二胡は探知を発動させた。


「ふう〜。うん、慣れてきたな。四百メートル…はまだきついか。じゃあ画質を落として…。うん、これくらいなら行けるな。最低の一…はちょっと画質が悪いな。生き物がいるぐらいしかわからない。索敵には便利かな?おお、1キロ行けるぞ」

『だから、謎言語を使わないで…。いや、聞いてないなこれは』


 聖剣(キャラ崩壊バージョン)は要領がいいようだ。まあ今回は脳に情報が伝達されないのではなく、本当に聞こえていないが。


「うん、フェンリル探しには5、索敵が1、十は視力が低下したらお世話になろう。で、フェンリルはどこかな〜。あ、いた。終わってるね。待機中か。戻そう」


 探知を切り、笛を吹く。


『御主人様おかえりなさいませ。と、フェンリルの作業は終わってたんですね?』

「うん。って、もう来てるな」

「いま忘れてませんでしたか?こちら、美味しい果実を集めました」

「ありがとう。すごい量だな」


 ざっと百キロはあろうかという果実の山を見て、二胡が呟く。


「収納」


 例のごとく、魔法が誕生した。


 収納魔法 マスター:真田 二胡

 発動条件:魔力が五百以上。収納物が発動者の体重より重い。

 使用魔力:一分に1。

 詠唱:収納のみ。アイテムボックスはだめ。

 その他:収納魔法を使うと、重さ・かさがなくなる。また、収納魔法をかけている間は時間が経過しない。収納限界は発動者の最大魔力×㌧。


 魔法の開発にも慣れてきたようだ。


〈完成〜〉


 二胡がターゲットにした果実たちが、一気に消えた。


「な…!?」


 口をパクパクさせているフェンリルに、悟ったように聖剣が言う。


『頑張れ。…あ、聞こえないか』


 二胡は気づかなかったが、剣たちの声は持ち主以外には届かない。


「二胡様、これはなんですか?」

「気にしないで」

「いや、そんなこと言われても…」

「あ、そうだフェンリルくん」

「な、なんですか?(答えてください。いやせめて聞こえてて)」


 フェンリルの心の叫びは、声にならなかった。…なっていても、二胡の耳には入っていなかっただろうが。


「今日森から出て街に行こうと思う」

「はい。…はい?随分急ですね」

「魔法を覚えて試し打ちもしっかりやったからね〜。それに、俺がいるとここの魔獣は落ち着かないみたいだし」

「気づいておられましたか」

「そりゃ気づくさ。目があった…というか、俺に気づいた瞬間ものすごい勢いで逃げるんだもん」

「不快…でしたか?」

「別に?まあ、そういうことだから。なあ、北ってどっちだ?」

「あっちです」

「そうか。ありがとう」

「街に行くのでしたら、こちらを」


 そう言って、フェンリルが剣を取り出した。特に立派ではないが、質は良さそうだ。


「なにこれ?」

「街…ネザは冒険者の街です。治安は良い方ですが、冒険者の中には荒くれ者も多い。万が一のために、どうぞ」

「大丈夫だよ。俺、これ持ってるし」


 そう言うと、二胡は聖剣を取り出す。別に魔剣でも良かったのだが、なんとなく聖剣にした。多分、こっちのほうがすごいオーラが出ているからだろう。多分。


「これは立派な!って、どこにしまっていたんですか?」

「ここ」


 二胡が指さしたのは、ジーンズの横にあるベルトの穴だ。ベルトはつけていないので、ちょうどいいと差していた。


「よく落ちませんでしたね」

「たまたまだろ」

「…。それはそうと、珍しい服装ですね」

「ん?あ、そういえばそうだな」


 今の今まで、二胡は自分の服装を気にしていなかったようだ。


「街では目立ちますね。変えますか?」

「ああ」


 フェンリルがそばにいた魔獣に声をかけると、しばらくしてその魔獣が白い服を持ってきた。


「よし、着てみるか」


 その場にいた全員(聖剣・魔剣含む)に反対を向かせ服を収納した二胡は、早速着替えた。

 そして…。


「ワンピースじゃねえか!」


 異世界に来て初めて、二胡が怒った。


 そして、魔剣はまだフリーズしている。

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