官能小説家神屋敷隆平

欠け月

第1話 神屋敷隆平vs女編集者

登場人物

  女性編集者

  官能小説家:神屋敷隆平


(編集者)

「外科医、億万長者、海賊、吸血鬼、狼男。

これが今、女性向けの官能小説で人気の題材トップ5なんです。

こういったワードをあちこちに、楔を刺すように散りばめてですね、続編を書いて

いただきたいんです。デビュー作の増刷も決まったことですし、この勢いを止めず

突っ走りましょう!先生なら、絶対いけます。

それにですね、先生のお顔をちょっと電子書籍の紹介ページにアップしたら、反響が物凄いんですよ。

こんなイケメンが官能小説を書いていると思うと、腰がとろける、目が孕む、尊いすけべ神が宿っているって、大評判。

バズってますよ!女性の秘めたる願望を開花させ、子宮をとらえて離さないんです。

先月号のアーンアンでの想像妊娠の相手ランキングNO.1です。

この結果は、抱かれたい男NO.1よりも濃厚で純度高いランキングです。

先生のお名前の、神屋敷龍平をもじって、神助平でハッシュタグが乱れ飛んでます。

久々にこの業界が盛り上がって、大型新人発掘の成功に我が社も先生に、大いに期待しているんですよ」


(先生:官能小説家神屋敷隆平)

「あの・・・・実は僕、その、こういうの苦手なんです」


(編集者)

「わかります。急に人気者になると、逆に尻込みして怖くなる気持ち。

先生のような謙虚な方は特に、そう言ったお気持ちになられると思いますよ」


先生

「いえ、そうじゃなく。官能小説が苦手なんです。最初に書いた小説が、

たまたま官能小説で、それが、たまたま当たってしまって、次に取り掛かろうと頑張ってみてはいるんですが、どうしても書けないんです。何も頭に浮かばないんです。理由は、わかってるんですけど・・・」


編集者

「どんな、巨匠もそうです。誰でも、プレッシャーに押し潰されそうになって、スランプに陥るんです。

先生は、それが二作目で来てしまったというだけなんですわ。スランプの先取りです。いい兆候ですよ。先延ばしにするよりはよっぽどましです。

借金だって、前倒しで払ったほうが後が気が楽ですよ。骨折も若いうちに折っておいた方が、治りが早いんですから。

年を取ってから折ると、心が複雑骨折しますから立ち直れないんです。喧嘩だって、先に殴られた方が、正当防衛が成立しますからね。逆に優位な立場に立てます」


先生

「・・・あらぬ方向に誘導させられそうですが。  

そうじゃなくて、僕は知らないんです。 その、えーと、女性を、知らないんです」


編集者 「ええ。・・・え?」


先生

「まだ一度も、女性に触れた経験がないんです。好きになってもその先に進めないんです。 僕は、その、いわゆる、ヴァージンなんです。あの物語は、あちこちから拾ってきた情報を元に、全て想像だけで組み立た、実体験のない薄っぺらい官能なんです。張りぼてなんです。だから、ファンの皆様に申し訳なくて」


編集者

「先生。寧ろ私は、先生を一層尊敬し信頼いたしました。想像だけであれだけのリアルな変態さんを登場させ、心情を表現出来るなんて、天才です。いや、寧ろ知らないからこそ、書けたのかもしれません。どうでしょう、先生。

このまま童貞を極めて頂いて、バーチャル官能の大家になってみませんか。

戦争の話を書くのに、戦争体験がない人間は書けないなんて道理はありません。大体、歴史物を書いている作家は全員、かき集めた情報に想像を積み上げて書いた嘘っぱちですし、ましてや、SFや異世界召喚ものなんて誰も経験がない話ですよ!

皆んな、未経験を嘘で固めて、本当らしく書いた出鱈目小説なんです!

作家なんて職業は、言ってしまえば、嘘つきの詐欺師が作り話を適当に書いて、信者からお金を集める仕事ですから。

いわば、私たちはそう言った似非宗教の元締めの役割を担ってると言っていいかもしれません。

ヴァージンだろうが、包茎学部の早漏だろうが、一切気にする必要はありません!」


先生

「いや、早漏とは言ってないです。それに、法経学部でもないし。とにかく、僕は官能は書きたくないんです。

元々は、純文学を目指していたんですが、純文じゃ、芽が出そうもないからと、当時の担当さんから、官能を書いてみたらどうかと勧められたんです。

渋々書いたものが、変に売れたが為に、毎日が辛いんです」


編集者

「あら嫌だ、先生ったら、ぽっと出のアイドルみたいなこと仰って。

わかりました。そこまでおっしゃるのでしたら、純文に変更しましょう。

それで、億万長者の外科医が、ひょんなことから、海賊の首領になり、そこで美人のヴァンパイアに血を吸われて、なぜか狼男に変身するという、

奇想天外なストーリーで芥川賞をサクッとパクッと狙っちゃいましょう。どうせなら、広い年齢層をターゲットに、新たなファン開拓をして、

先生の魅力を見せつけてやりましょうよ。

そこでご提案なんですが、主人公の富豪の医者の口癖を、おらぁ、ワクワクすんぞーでお願いします。悟空ファンをごっそり頂いちゃいましょう!ね、センセ!」


先生(すっかり、諦めたように肩を落とし)

「はぁ〜(吐息)せめて、お前はもう死んでいる、にして下さい」


編集者「医者なのに?」






音声配信アプリspoonキャストにて、上記の物語を音声化しております。

お時間の或る時にでも、文章と比べてお楽しみください。(多少、脚本と違っている場合があります)

https://www.spooncast.net/jp/cast/4799538

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