第1章

俺と義妹、どうすんの?







 ――ハッキリ、今の状況は健全とはいえないだろう。

 俺はリビングで朝食を摂りながら、隣の席に座る義妹を見てそう思った。

 先日のようなビクついた雰囲気はなくなったが、むしろ距離感概要に近くなったように感じる。それは義理とはいえ、兄妹としてどうなんだ。という話である。



「どうした涼香ちゃん。今日は一段と機嫌がいいね」

「はい、お父さん! 私、最近たのしいんです!!」

「それはそれは良かった。僕も嬉しいよ」



 親父と仲良く言葉を交わし、笑う義妹。

 義母も嬉しそうに微笑んでいるが、彼らは真実を知らないのだ。今朝だって義妹と俺が、同じベッドで眠っていたなんて聞いたら、どんな顔をされるか分かったものではない。

 だけど、涼香の笑顔が嬉しいのは俺も同じだった。

 だからこそ、以前のような健全で仲睦まじい義兄妹に戻らなければ。



「あ、義兄さん! そろそろ学校行かなきゃ!」

「そ、そうだな!」



 そう考えていると、どうやら出発の時間になったらしい。

 俺は急いでみそ汁を飲み干して、手を合わせた。




「それじゃ、行ってきます!」

「行ってきまーす」




 そして、俺たちは学校へ向けて家を出たのだった。







 その日の通学路にて。

 俺は二人きりのこの時間に、義妹と話し合おうと考えた。

 しかし、いざとなると上手いこと言葉が出てこない。どのように伝えれば、彼女に嫌な思いをさせずに元に戻れるだろうか。そうやって手を拱いていると、時間だけが淡々と過ぎていった。

 このままでは、問題は明日へ先延ばしにされるだけ。

 駄目だ。ここで、一思いに断つのだ。



「なぁ、涼――」

「おー! 今日も朝からご一緒とは、さすがですねぇ!」

「…………間宮、か」

「妹さんも、おはよー!」

「お、おはようございます……!」



 そう考えて、義妹に向き直った時だった。

 クラスメイトの間宮が、どこからか姿を現わしたのは。彼女はいつものように絡んでくると、視線を涼香の方へと投げて手を振っていた。

 義妹はそれを困ったように見て、小さく手を振り返している。



「なんで間宮がこの時間にいるんだよ。野球部の朝練はどうした?」

「今日は久々のオフだから、朝練も自主参加なんだよ」

「……あー、そうなのか」



 振り解きながら訊ねると、間宮は意に介した様子なく答えた。

 どうやら、今日は間が悪い、というやつらしい。そう思うことにして、話題を別の方向に変えようとしたら――。



「そういや、お兄さんは妹さんに何言おうとしてたのかな?」

「………………」



 まるで逃げ道を封じるようにして、間宮がそう言うのだった。

 俺は嫌な汗が頬を伝うのを感じながら、咳払いをひとつして答える。




「な、なんでもない……!」




 そして、二人よりも先に道を行く。

 涼香との話し合いは、後日に延期だ、と考えながら……。




 





 そんな義兄を見ながら、涼香は少し首を傾げる。

 いったい、彼は自分に何を言おうとしたのだろうか、と。



「なーんか、怪しいねぇ?」

「怪しい、ですか?」




 そう考えていると、口を開いたのは志保だった。

 彼女は兄妹を交互に見て、ニヤリと笑う。

 そして、





「ねぇ、涼香ちゃん。少し耳を貸してくれない?」

「え……?」





 志保は涼香に、なにかを吹き込むのだった。




 

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