第17話 兄の自殺

 今年も、もう年の瀬。クリスマイヴの夜だ。街を歩く人々はみんな楽しそうに見える。あるカップルが腕を組んで歩いている。思えば私は恋も知らない、それどころか悩みを打ち明けられる友人もいない。忙しくて友人を作る暇さえなかったあの頃……孤独……今年は部屋の片隅でひっそりとショートケーキを一個買ってテレビを観ている。画面には当時ライバルだったアイドル歌手が唄って踊っている。彼女は私が病で入院している間に伸し上がって来た後輩だ。まだ彼女は売り出し中で「先輩よろしくお願いします」と頭を下げた彼女。今では立場が逆転した。それどこじゃない私は先生の下宿先で、ひっそりとテレビを見て居る。この差はなんなの! 私はテレビのスイッチを切った。私はそのまま蒲団を被ってすすり泣きをした。


 時々母から心配して手紙をくれるが、私は元気と返すばかりだ。今では仕送りも出来ない、それどころか食べる物さえ苦労している始末だ。それを不憫に思ったか先生は時々ご馳走してくれる。事務所の雑用係の他、世話になったお返しも出来ない私は先生の家の掃除や身の回りの世話を買って出た。しかしお手伝いさんも居る事だし大した役にはたっていない。でも誠意は受け取って貰えたようだ。かれこれ駆けずり廻り半年の月日が過ぎて、私も先生も流石に溜息をつくばかりだ。そんな私を不憫に思ったのか数年前に、はやり始めた携帯電話をプレゼントしてくたれ。孤独な私の最高の贈り物だった。嬉しくて母や友人に電話番号を教えた。

 そんな日の夜、自室で夕食を食べている時だった。携帯電話が鳴った。珍しくは母から だった。だが母は一言も言わず、すすり泣く声がするばかり。

「母さん? どうしたの。ねぇ何があったの」

「……あのね……兄ちゃんが自殺したよ」

「え! そんな、どうして。どうしてなの!」

 またしても不幸が襲った。片足を失った兄が将来を悲観して自殺してしまった。

 私は売り込み活動を中断して急遽夕張に帰った。


つづく

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