第7話 矢羽美咲としてテビュー

「お~い美咲、お前のオーディションが決まったぞ。これに合格すればお前は一応歌手になれる。頑張れよ」

 なんと速い。たった七ヶ月でオーディションが受けられるなんて、しかし考えて見れば当然かも知れない。ただ飯を喰わせて遊ばせて置く訳にはいかない。プロダクションは早く元手を取りたいのだろう。でないとスカウトした人の首が飛ぶ世界。どこに目を付けて拾って来たんだと、どやされるだろう。

「ハイ、ありがとう御座います」


 私は何がなんだか分からないままテレビ局主催のオーディション番組に出る事になった。なんと驚いた事に私はなんと準グランプリに輝いた。喜びも束の間、後で聞いた話だが、これは仕組まれたものだったらしい。そんな事とは知らずに当時の私は、歌が上手いから準グランプリに輝いたと喜んだものだ。最初から私は何かの賞が決定していて、それを機会に売り出し手はずになっていたらしい。大手芸能プロだから出来る裏技なのか?


 本名、矢崎美咲。身長百六十七センチ顔は面長で、目鼻は人形のようにクッキリしていた……らしい。例えば鉱山でルビーの原石を発見したとして、それがルビーなのか素人には、ただの石コロにしか見えない。しかしプロが磨きを掛け仕上げれば見事に美しく輝く、それが今の私だった。確かにスタイルも悪くないようだ。それにしても私が何故選ばれた? 理由はどうでも良い。若い女性なら誰でも一度は夢を見るスターへの道。例え私が作られた人形でも今はそれで良い。私は磨かれたフランス人形。但し感情を持たない操り人形。


 更に四ヶ月の特訓が開始され、歌手としての基礎を学びデビューに備えた。そしてついに夢にまで見た歌手デビュー。それからと言うもの私は、あっと言う間にスターダムに駆け上った。殆ど本名、矢崎美咲に近い歌手名、矢羽美咲(やはねみさき)としてデビューして、テレビ番組の出演が多くなり寝る時間もなく忙しくなり、ちょっと可愛いだけで私は、あっと言う間にアイドルになった。一年半も経たないうちに私は世間に知られるようになっていった。まだ一年半まさか本当に歌手になったとは信じられない。だからどんな忙しくても楽しかった。


つづく

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