第5話 美咲、夕張から東京へ

 母も迷った。確かに騙すつもりなら七百万もの大金を出す訳がない。更に月謝もタダだと言う。もし万が一、成功すれば歌手の夢を叶う。母も渋々納得してくれた。こうして私の新しい人生が決まった。とにかく先は闇だが目の前の七百万に目が眩んだと言われてもいい、その金がないと私達は路頭に迷うことなる。

 「それとご家族が大変な時に大事な娘さんをお預かりするのは心苦しいですが。そこでこれは契約金と別に我々の気持ちです。支度金にでもして下さい」

プロダクションの人は帰り際に支度金として五十万円を置いて行った。相手の本気度が分かった。いや誠意と受け止めるべきか。これが駄目押しとなった。母は娘を宜しくお願いしますと頭を下げた。


 卒業式当日、私はクラスメートに囲まれて芸能界入りを祝福された。嬉しさが半分と怖さが半分入り混じっていた。十八年間住み慣れた故郷、寂れて行く夕張市を出る。でも自然は美しい街ではあるが今では夕張炭鉱は総てが閉鎖され人口も仕事も更に減り、将来が見込めない廃墟の街と化していた。聞けば夕張の行政は破綻状態にあるという。

 そして一番恐れていた市民病院の閉鎖の話が浮上している。夕張市民は怪我も病気も出来ないのか、これでは本当に夕張はいずれ廃墟の街と化して行く。そんな所に兄や母を置いて私は出て行こうとしている。生まれ育った街が壊れて行く。もし、もしも私がスターに成れれば街の為に何か役立ちかも知れないと、早くも大スターになった夢を抱いていた。


つづく

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