第二十話 休憩室の2人そして、

「あれっ、ごめんっ。わたし寝てた?」


「いいよいいよ」


「午後は休憩室で、暗記しながら過ごしたから大丈夫、だよ」


「今、何時かなっ?」


「17時だよ」


「大変っ、ごめんなさいっ」


 有紗が僕の膝から飛び起きる。


「うわっ、わたし平くんの膝の上で寝てたのっ?」


 慌てて立ち上がり、何度も大きく頭を下げた。


「ごめん、ごめんねっ。なんで起こしてくれないのっ」


「昨日、一睡もしてないようだっから、彼氏としては見守ってあげようと。寝顔も可愛かったし」


「わっ、わたし。平くんにずっと見られてたのっ」


 有紗は顔を真っ赤にして俯いた。


「もうっ、起こしてくれていいんだからねっ」


「駄目だよ。その前にちゃんと寝ないと」


「ごめんなさいっ。起こさないでくれて正直助かったよっ。今度からはちゃんと寝るからねっ」


 僕たちは自習室に戻り鞄を取ってくる。階段を降りて、図書館の扉を開けて外に出た。


「あれ、お前たち……!?」


 目の前には本を借りにきたのだろう。太一がいた。状況を理解したのか有紗を思い切り睨んだ。


「有紗、どう言うことだ? なんでお前と太一が一緒に図書館にいるんだ」


「わたしが誰といようと太一には関係ない」


「関係ないわけないだろ! それでか俺の誘いを全部断っていたのは……」


「言ったよね。わたしたち、太一が示した成績より上だったら、別れてくれるって」


「別れるとは言ってないだろ!」


「じゃあ、何。あれは嘘だったの?」


「その話は取ってからだろ! まだ、取ってもいないのに、なぜふたり一緒にいるんだよ」


「成績を上げてもらうためだよ。わたしが教えたらダメとは聞いてないっ」


「じゃあ、母さんに言っていいんだな」


「なぜ、そんなこと言うのっ」


「お前は俺の許嫁だ。誰にも渡す気はない」

 

 怒りに身を任せる太一を放っておくことは良いことではない。このまま有紗に話させることは悪い結果をもたらすことになる。


「あの、ちょっといいですか」


 僕は太一の方に近づいた。


「なんだよっ、目立たないモブの分際で、なに俺の女取ってるんだよ」


「取ってないし、それより太一くん。全く有紗の気持ちに寄り添ってないよね」


「はあっ、なぜ俺が女のご機嫌取らなけりゃ、なんねえんだよ。それよかさ、有紗ってお前何様のつもりだ」


「そんなのだから、彼女はあなたの心に寄り添おうとは思わないんじゃないですか」


 僕は隣に立つ有紗を見た。有紗は僕の手をギュッと握る。有紗の顔を見ると悔しそうに唇を噛み締めている。


「有紗の条件に俺は文句は言ってない。もし取れたら考えてやる。それまで、お前は俺のものなんだよ」


 太一は有紗の肩を無理やり抱いて自分の方に近づけた。


「最低っ!」


「うるせえよ。お前も爺さんのこと逆らえないんだろ。大人しくしてりゃ、いいんだよ」


「太一くんさ。君がどんなにカッコ良くたって、頭が良くたってさ。有紗さんは絶対に君を好きにならない。たとえ結婚できたとしてもね!」


「はあっ? ふざけんなよ。女一人守れないモブ男が……」


「やってみるかい?」


「平くんやめてっ」


 僕は有紗の耳元に顔を近づけて、小声で有紗だけに届くように……。


「大丈夫だよ、僕に考えがあるんだ」


「えっ?」


「お前さ、無茶苦茶うぜえんだよ。ほら、殴ってみろよ。何もできねえくせによ」


 それだけ言うと太一は僕に殴りかかってきた。頬を殴られる。口から血が出た。お腹を殴られる。吐きそうになった。足を蹴られる。僕は崩れ落ちた。


「見ろよ。こいつ、何も抵抗できずに殴られてばかりじゃねえか。分かったら俺の女に手を出すな」


「太一やめて、お願いだから……平が死んじゃうよっ。わたし、もういいから」


「はははっ、代わりに女に助けられてやんの。逆じゃねえかよ」


「有紗、大丈夫。有紗はそんなやつの言いなりになる必要なんてない」


 僕は走り寄ってきた有紗の肩に手をついて立ち上がる。


「まだ立てたのかよ、それじゃ最後の行くぞっ」


 太一は僕に殴りかかろうとした。


「馬鹿なのは君のほうだよ。周り見てよ。こんだけ人集めて、どっちが被害者か分かるよね。今警察呼んだらどうなるのかな?」


「平、ふざけるな。モブの分際で俺に楯突くつもりか」


「今の状況見て言うんだね。僕が警察に被害届を出せば、君は少年院送りになるか、少なくとも経歴に傷はつくだろうね。分かってないのは君の方だ」


 太一は今の状況が分かったのだろう。周りの大人たちが口々に話している。警察に電話をかけられても全く不思議ではない。


「お前、警察に言ったらな。俺もお前たちのこと言うからな。絶対だぞ!」


 太一はそれだけ言うと慌てて逃げて行った。ふざけてるのはお前の方だよ。有紗の気持ちに寄り添う気もないのにさ。


 僕はそのまま崩れ落ちた。


「平くんっ、バカだよっ。こんな血が出るまで」


「良かった、なんとか助けられた」


「ありがとう。ごめん、ごめんねっ」


 人間やばい時は冷静になるものだ。ここまで痣を作ってどう言い訳しようか。少年院送りにするのは構わないが、それでは優しい有紗を悲しませることになる。転んだと言うことにでもすればいいか。


 僕は有紗の腕の中で意識を失っていくのを感じた。おっとその前に……。


「有紗、警察が来たら図書館の階段の上から転げ落ちたと言ってくれ」


「なんで、平はそんなに優しいのっ」


「そこが好きになったんでしょ」


 薄れていく記憶の中に有紗の声が聞こえる。


「平、ありがとう。ずっと一緒にいようねっ」


 ピンチを切り抜けられて良かった、それを最後に意識がぷつりと途切れた。



―――――


有紗を守れたのかな


少し優位に立てるかも知れませんね


読んでいただきありがとうございます。


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