第十七話 真相

「わたしもちょっと覚悟してきた。少しくらいなら突っ込んだこと、話すよ」


 いつもなら、椅子に座る有紗は僕のベッドに座っている。その事実だけでも、僕は有紗の女性の部分を意識してしまう。


「冬月さんが言いたくないならいいよ」


 僕は有紗から、意識的に視線を外した。


「でも、気になってるよね。付き合ってるなんて言ったものだから、わたし、そのことだけでも訂正しておきたいっ」


「付き合ってないの?」


 有紗の声だけでは何を考えているのか分からなかったので、有紗の瞳に目を合わせた。


「正確には付き合ってる。でも、それは恐らく平が考えてるような関係じゃないっ」


「冬月さんは好きじゃないってこと?」


「わたしにとって太一くんは、気になる存在でさえないんだよっ」


「じゃあ、なぜ!」


「ここだけの話だよ。もし、人に聞かれるとわたしの立場が悪くなる」


「うん、絶対言わない」


「約束、だよ」


 有紗は小指を伸ばして僕の小指に絡める。


「指切りげんまん、嘘ついたら……」


 ゆっくり僕の顔を見上げて、じっと見つめる。


「あなたの前から去るからねっ」


 その感情のない冷たい言葉に僕の心臓がえぐられたような強い痛みを感じた。


「大丈夫、絶対約束守るよ」


「分かった。わたし、その言葉信じるよ」


 有紗は僕の方を向いて、手招きする。手招きする方を見てドキッとした。


 普段はあまり気にならないが、ベッドに深く腰をかけると赤と緑のチェックのスカートから太ももが見えた。もう少し屈めば白いものが見えそうだ。


 僕は思わず目を逸らしてしまう。


「あっ、ごめん」


 有紗は僕の視線に気がついたのか、ベッドの端に浅く腰掛けスカートを整えた。


「もう少し近くでお話し、しよっ」


 僕は思わず緊張してしまう。女の子、しかもベッドの上にいるのは有紗だ。


「いや、僕も一応男だから……」


「うん、知ってる。平は普通の健全な男の子だよっ。だからこそ、近づいて話がしたい」


 僕は思わずゴクリと唾を飲み込んだ。有紗が何をしようとしてるのか分からないが、僕との関係を前進させないと話せない。そう言ってるような気がした。


「分かった」


 僕は少し距離を置いてベッドに腰掛ける。心臓が痛いほどに鼓動していた。有紗の方を見ると有紗も恥ずかしそうにこちらを見ている。


「手を握ってくれる?」


「えっ、いいの?」


「うん、そうしてくれたら、勇気が出るから……」


 僕は有紗の手の平を上から包み込むように握った。心が満たされてくる。


「平の手、暖かい。わたし、勇気出るよ」


 有紗が僕の側に近づき、上目遣いに視線を合わせ、ハッキリとした口調で言った。


「わたしね。太一の”許嫁”なの」


「えっ?」


 一瞬、有紗が言ってることが分からなかったので、思わず聞き返ししまう。


「だから、許嫁”なの。知ったのはラブレターが入った日。太一から、そのことを聞いた」


「それは本当のことなの?」

 

 ”許嫁”


 漫画やアニメで聞いたことがある。そんな制度が今の日本に残っていることさえ知らなかった。


「わたしだってね。お母さんを問い詰めたよ。その時に初めて聞かされた。これは、わたしのお爺さんと太一のお爺さんが決めた話なの」


「お爺さん?」


 孫娘の大切な将来の相手を祖父の一存で決めていいものだろうか。


「わたしのお屋敷はね。祖父の時代に築き上げたものなの。わたし達家族は祖父の決断に逆らえない」


「そんな、ことってあるのか? じゃあさ、有紗は太一と結婚して……その関係を持っても平気なの?」


「平には、そう見えるのかな?」


 有紗の浮かない表情を見れば、太一との関係を望んでないことはハッキリしている。


「いや、思わない」


「だから、わたしは賭けに出たの」


「賭け?」


「そう、でもね。うーん……」


 有紗はそこで話すのをやめて、こちらを見る。有紗は深呼吸をして、もう一度、僕の方を向き直った。


「その話を聞く前に、平の気持ち教えてくれないかなっ」


「冬月さん、僕の気持ちって?」


「冬月さんじゃなくて、有紗って呼んで欲しい。わたしだけが突っ走っているかもしれない。だから、今は平の気持ちが知りたい」


 有紗が何を言おうとしているのか、流石に鈍感な僕でも分かる。有紗は目を瞑り、声を絞り出そうとしてるように見えた。


「わたしは、平が好きっ!」


 思いがけないことだった。有紗ほどの可愛い娘が僕みたいな男の子を好きになるわけないと思っていた。


 有紗の表情を見ていれば、そうとしか考えられないことだってあった。ただ、好きになった理由が、分からなかった。僕は太一のようにカッコよくも、頭が良いわけでもない。


「なぜ、僕のことをふゆつ……いや、有紗が好きになってくれたの? 僕なんて何の取り柄もないし……」


「ふふふっ、気づいてなかったんだ。前にね、女の子が風船取れなくて困ってる時に、取ってあげたことがあったでしょ」


「えっ……」


 あれは中学三年のことだ。嘘、そんな前から有紗は僕のことを見ていたのか?


「その日から、わたしはあなたのことを目で追うようになった。たくさん知ったよ。平くんの優しさ……わたしはイケメンやスポーツ、勉強ができる人より、わたしを幸せにしてくれる人がいい。これだけじゃダメかな?」


 有紗は僕の答えを待っている。自分の気持ちを曝け出して。


「ありがとう。僕のことそんな前から見ていてくれてたなんて。僕は優しさなんて意味がないと思ってた」


「そんなことないよ。その優しさにわたしは心を奪われたんだから」


 今まで損な性格だと思ってた。でも、そうじゃなかったんだ。そのことを今、気づかされた。


「だから突然声をかけたんじゃないんだ。わたしだってね。勇気いったんだからね」


 隣に座る有紗は手を裏返して握り返した。僕の指に自分の指を一本づつ入れていく。これは恋人繋ぎだ。


「だからね。平の気持ち教えて欲しい。わたしみたいな女の娘、どうかなっ?」


 上目遣いで見る有紗はとても可愛く、たまらなく愛おしかった。僕は有紗の手を強く握る。有紗にここまで言わせたのだ、覚悟を決めろ。僕は真剣な表情をした。


「初めて見た時から、僕も有紗のことが好き。有紗が僕の初恋の人だったんだ」


 大きく息を吐き出す有紗。顔が紅潮して真っ赤だ。僕も顔がかなり熱かった。きっと有紗と同じく真っ赤になっているのだろう。


「良かった……じゃあ、計画通りに行けるね」


 目の前の有紗は嬉しそうに微笑んだ。



――――――



平くん、両想いで良かったね


それにしても許嫁、お爺さんに反発してうまくいくものなのでしょうか?


今の時代でも許嫁制度は残っています。


ただ、契約ではなく、約束事のようです。


お爺さんがどんな気持ちで言ったのかで説得できる可能性はありますが


さてどうなるでしょう?


読んでいただきありがとうございます。


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