お茶目な四人

 帰宅後。

 事務所内は四人の寝床と化していた。ソファーで猫のように丸くなる京一。デスクに足を置き、座り心地のいいオフィスチェアに深々と背を預け寝る兼二。勝は同じに床で大胆に寝ており、和は勝の腹を枕にジャケットで顔を隠し寝ていた。

 カーテンから差し込む光に京一は目を覚まし、起きると思いきや洗濯バサミで盛れた光を潰す。一瞬、壁掛け時計に目を向けると昼過ぎ。何も見てねぇす、と二度寝。


 そのすぐ後――兼二のスマホか。

 爆音でスマホが鳴る。


「うるせぇーよ!! だれだぁ!!」


 勝が飛び起き、反射的に和も目を覚ます。京一も我慢するが耐えられず、テレビのリモコンを兼二に向け投げ、兼二はそれを当たる寸前ギリギリのところで受け止める。


「(寝ぼけた声で)許せ」


「ん、ならさっさと止めろ!! 糞サツ」


「煩いよ、兼二ぃ。皆、眠いんだから~」


 寝ぼけながら文句言う和と勝。変わって京一はデスクに「黙れ」と蹴り込む。数秒してやっと収まると今度は――。


「糞探偵!!」


 続けて、兼二の裏声の――。


「(とても不機嫌に)おい、記者」


 兼二の声に反応した京一の強烈な踵落としを間一髪のところで受け止める勝。おいおい、俺の目覚ましにケチつけんのか。半笑いで押し返すと床に置かれた和のスマホがのバイブ音で鳴る。面白味もななく白け、めんごね、と寝ぼけながら耳に当てた。うんうん、ナニナニ、へぇ~と相づちを打つだけで言葉はなく一分も満たないうちに終わる。


「あ~ガクちゃんが“ありがと”だって」


 その言葉に安堵したか、一斉に寝落ち。


「旦那。和の旦那」


 京一に頬を突っつかれ、和は起きるとほんのり香るシャンプーの匂い。ん、と京一に目を向けると風呂に入ったのか髪の毛が濡れており、デスクに目を向けるとYシャツの第二ボタンを開けたスラックス姿の兼二と同じく勝。


「旦那も入ってくだせぇ。自分ら入ったんで」


 寝ぼけながら頭をかき、あらそう? とふらつきながらも浴室へ。Yシャツを外に出し、ボタンを外すと小さな洗濯機に詰め込まれた三人の服に固まる。


「ちょっと、ここ俺ん家。コインランドリーじゃないっての。確かに君らのお泊まり用の服あるけどさぁ~」


 文句言いつつも年下二人の服を先に回し、和は一旦風呂へ。シャワーで頭と体を洗い、タオルを取ろうとドアを開けると勝。


「えっち」


「(笑って)は?」


「冗談。タオル取って」


 話したそうな顔に拭きながら待ってみるも会話はなく、単に暇で来たのかい、と突っ込む。いや、糞探偵がよ――と耳を傾けると白に黒いストライプのYシャツを歩く羽織り、パンイチで京一の元に行くと不満げな顔。旦那~と口を開くも兼二の声が割り込む。


「和、せめてスラックスを――(咳払いして)勝とお前のトランクスの柄は理解不能だな」


 ん、と笑い目を付けては歳にしては可愛いアニメキャラ。


「いいじゃん。独身おじさんのちょっとしたお洒落よ」


 その言葉に兼二は目を棒にする。


「この、バツ持ち」


「ひゃー止めてー」


 毒を吐く兼二の痛々しい目に、はいはい、とスラックスとジャケットを着る。ネクタイを締め、深呼吸するも「旦那、今日は仕事休みっすかね? なんなら付き合ってほしいっす」と腕を引かれる。


 事務所を出たのは十五時頃。何も食べてない、腹減った、と事務所から一般ほどにある小さな喫茶店で軽く腹を満たす。その後、珈琲を飲みながら向かったのは十分も掛からない所にあるカラオケや居酒屋のある建物。

 一階はパチンコ。二階はゲームセンターとなっており、中は学生が大半だが構わず進み、勝負ことや暇潰し程度によく遊ぶ『バスケットボール』のシュートするだけのゲームの前へ。


「はい、京ちゃん。なにして欲しいの?」


 各自財布から百円を取り出し一人一台場所を確保。


「自分が勝ったら旦那らに一回ずつパンチしていいっすか」


 突然暴力振ったあの件をまだ怒ってのか軽い報復話。それを聞いて勝が「三対一じゃ辛くね、誰か味方になってやれよ。(小声で)下手なんだから」と他人事のように言う。だれか物申すだろうと場が静かになるも手を上げることもなく、ひでぇーすね、と京一の拗ねる声に一斉に百円を入れる。

 ボールが落ちてくるや手に取る四人。スタートの合図に一斉に腕を上げ、ゴールに向け構えると軽く放った。

 和、勝、兼二はなんなく入るが一番端から聞こえるはガコンッと枠に弾かれる音。それは何回も続き、兼二と勝は顔を合わせ、和は“負けてあげた方が”と京一の点数を確認して数秒腕を止める。見かねた兼二が京一の腕を引き、場所を入れ替わると追い付くように点数を稼ぐ。頃合いを見て入れ替わる。それを何度も繰り返す。


 結果――勝、兼二、和、京一と誰一人には勝てず報復は無効となったが少し凹み、UFOキャッチャーにこれでもかと金を使う姿に和は自ら殴られ向かう。


「京ちゃん、殴っていいよ」


「いいんすか?」


「うんうん、年下には優しくし――」


「じゃあ、遠慮なく」


 と、頬に平手打ち。機械の音で書き消されるがパシンッとそれは痛々しい音だった。

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