第33話:うちじゃライブはできない

 車が止まったので降車する。

 一応3人とも狐の面はしているが(なんでまた狐の面なんだろう)改良型隠蔽魔術で姿は隠してある。前回みたいにお互いの位置が分からないなんて間抜けは無しだぜ。


 両国国技館は相撲の開催場所として有名なんだけど(みたことはない)相撲をやってないときは歌ったり踊ったりのライブをやったりしていて、いつかビッグになる事が目標のマサヒロと一緒に全国ライブツアー計画を練ったときに調べたことがあった場所だ。

 駅前の雰囲気は青梅線の駅みたいな感じで、もうちょっと西にある秋葉原とかに比べると都会感は少ない。俺も目が肥えたもんだぜ。でも地域全体が大きな道路と雑居ビルが続いてて、そういうところは西東京地区と比べると都会っぽさがあるようにも思う。

 国技館は駅の真ん前にある。だけど目的地はその隣の博物館だ。霊脈の反応がそこを示すし、出入口に魔術の警戒陣が敷いてある事からも今回の件の犯人がまだそこに居る事を知らせてくれている。


「メイジ。バレずに突入したい。何か方法はあるか」

「出入口から入らなければいいんじゃない? あの陣出入口だけ塞いでるみたいだし」


 外から見てわかるだけでも少なくとも3F以上の窓にそういった警戒陣は見当たらない。出入口だけ塞ぐ理由もよく分からないけど、維持しようとすると大変だからなんだろうか。

 上から入るんだったら階段作るけど。え、その術で壁に穴をあければいい? た、たしかに。


「でもいいの? そんなことして」

「問題ない。後で話は通すからやってくれ」


 了解。

 とりあえず警戒陣の無い場所の壁を抜こう。砂にでもしておけば後で戻せるか。

 サ、ク、モラ、ソ。


「よし。アンジェラ、先頭を頼む」

「了解。接敵の場合は?」

「捕縛は考えなくていい。制圧を第一にしろ」

「俺は?」

「基本は援護だな。直接的には俺とアンジェラがやる。何か感知したらすぐに言え」

「了解。あと反応は建物の地下だよ」

「地下なら倉庫として広いスペースがある。恐らく何も管理されていないそこを利用しているのだろう。行くぞ」


 魔術による警戒網は入り口だけだった。でも本当にそれだけだろうか?

 いよいよ地下倉庫の扉に手をかけた瞬間、扉の内側から巨大な式力が膨れ上がった。


「アンジェラさん!」

「問題ない」


 アンジェラさんが先制して扉を吹き飛ばし、内から放たれた巨大な熱量を力場で固めた盾で押し返す。力場、という対象は念動力において最も操作が難しいものの一つであり、最も汎用性が高い操作対象だ。そりゃもうなんでも出来る。

 アンジェラさんはかつて俺に対して空気を圧縮した弾丸を使っていたが、あれは一応侵入者である俺の身を気遣った攻撃で、アンジェラさんほどの出力を持つ念動力で全力の力場をぶつけられると跡形も残らず消し飛ぶことになる。ちなみにアンジェラさんはそんな出力の攻撃を模擬戦でいつも俺に向けて使っていた。防げるから良いって言ったの俺なんだけど。おかげで上達したとご満悦だった。


「むっ」


 そういう出力の力場だからこそ驚いた。なんと相手の攻撃が力場を貫通しかけている。

 村木さんが素早く対応する。水と氷の術式。力場の貫通とほぼ同時に放たれたそれが、力場の干渉で減衰した熱量を相殺して大量の蒸気を発生させた。

 レ、ワ。

 視界が悪いので風で切り払う。

 がらんとした空間の中央にスカイツリーの地下祭壇で見たものと似た機械が毒々しい色の魔力を帯びて鎮座していた。

 その前に男が二人。外国人っぽい顔立ちだ。


「"貴様か。アンジェラ。その小賢しい術はどちらの魔術師の仕業だ?"」

「……ジョナサン・モスト捕縛の作戦以来ね」

「"なんだ? この国の言葉で話しかけてくるとは、随分染まったようだなアンジェラ"」


 たぶんアンジェラさんがそれとなく俺たちに伝えてくれたんだと思うけど、ちょっとビックリすることに、彼らは俺たちの姿を捉えているようだった。まじか。やっぱ選択対象にだけ見れるようにするとかやったせいで隠蔽自体が甘くなってるのかな。

 ジョナサンさんの件以来ということはこの人たちが直接的に桐原さんを攫おうとしていた人たちってことか。プライド高そうな顔してる。

 村木さんを伺う。そうだよね、見られているとはいえ解除する理由も特にないよね。村木さんが術の準備に入るのを察したのか、アンジェラさんが会話を繋いだ。


「"エドワード。ジーニ。馬鹿な真似を。投降しなさい"」

「"するわけが無かろう。何故ならばなアンジェラ。今の俺は、俺たちは、本国で最強の名を欲しいがままにしている貴様よりも強いのだ"」

「"お前のその目が気に入らなかった。まるで全てのものに価値がないとでも言いたげな、その目がな。だが、今ならば少しは気持ちが分かるぞ。なるほど確かに、超越するとどうでもよくなるな。この世の全てが。お前の事さえもな!"」

「"その割には随分と吠える"」

「"なんだと、貴様状況がわか――"」


 何をしゃべってるのか分からないけど、男の言葉を村木さんの極炎が遮った。ありとあらゆる可燃物を燃やし尽くす炎によって男たち二人が立っていた空間とその奥の機械が飲み込まれる。村木さん凄いな、ちゃんと殺すつもりだ。

 焼失された大気を補填しようと地上から気圧がかかり、入り口側から強い風が吹き込んでくる。そして炎の幕が開けると、男たちは無傷のまま余裕の笑みを浮かべていた。村木さんの表情が厳しいものに変わる。

 人ならまだ分かる。機械も無傷なのは解せなかった。


「"ククク、そのような攻撃は通じんよ"」

「"一度やってみたかったのだ。攻撃を受けて効かない事を誇示するっていうのをな"」


 村木さんは戦いが上手い人だけど、出力はそこまで高くない。となると、今の攻撃が通用しなかったのなら相手に傷を負わせるのはもう無理だろう。

 なら、俺の出番かな。大体わかった。村木さん、コエダさまに連絡を。あと、足元を固めておいて。


「"なんだ小さい男。お前がやるのか?"」


 俺が前に出ると、じーに? って呼ばれていた男の方がなんか言った。金髪だから金髪って呼ぼう。もう一人の方は黒髪だ。

 言葉の意味は分からないけど、たぶん小さいとかそんなよーな事を言ってきたんだろう。スモールくらいは分かるんだぜ。今は小さいけどそのうちお前たちみたいにでっかくなるし。コイツは許さん、ちょっと怪我させてもいいだろ。


「アンジェラさん。黒髪の方をお願い。暫く出力が高いから気を付けて」


 頷く気配。よし、あっちは任せよ。

 二人の魔力は不自然だ。霊脈に細工して自分の中に取り入れてるのは見れば分かるんだけど、外から取り込んだ魔力なんて普通は自分の中の魔力と混ざりあわない。水と油みたいに。それがどういうことだか分からないけど、その油を単純にそのまま自分の物のように扱えているように見える。

 霊脈の威力で攻撃が撃てればそりゃ強い。アンジェラさんの力場の盾が破壊されるのも分かる話だ。逆に言うとそこまでしないと割れないアンジェラさんの力場が何なのって話でもあるんだけど……。

 扱えてるということは、恐らく補正がかかっている。

 彼らは本当なら水鉄砲で、それ相応のタンクしか持っていなかった。

 それが水量をダムみたいに無尽蔵にしたせいで、水の放出に耐えるために霊脈の側が勝手に本来備わってないはずの機能を補填したんだ。

 身体が勝手に消防車にされているようなものだ。そして今の彼らはホースの先端。元となる水を止めれば対策の手段はいくらでも思いつく。

 のだけど、逆に言うとその水(霊脈から流れる力)を止めないとどうにもならない訳で、それがなかなか難しそうだ。

 まあやるんだけどね。気合入れるぞ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る