第21話.過信

リュートの傷が完全に完治するまでには数ヶ月の月日がかかったもののリュート自身は上機嫌であった。無理もない、初めて自分の力で絶対的絶望を切り抜けただけではなく。あの件以降、リュートのファンの女性が膨大に増えたのだ。ひっきりなしにお見舞いに訪れる女性たちを見て若いリュートが自惚れてしまうのも仕方ないことではある。


「しかし、お前はあの件から一気有名人になったな?」

次々と訪れるリュートのファンの女性を見ながらロベルトが呟く

「えっそうかなぁ、なんか今までと変わらない気がするけど?」

ロベルトの問いにそう言いながらも、リュートはどこか自慢気にそう返した。

「ふぅ…まぁいいが、とりあえず早く傷を治せ。剣は触れなくなればなるほど、腕が鈍るぞ」

「そんな事言われなくてもわかってるよ」

リュートの答えにあきれながらロベルトはそう伝える。傷が完治してからのリュートは変わった。以前はあんなにも熱心だった剣術の修行も手を抜きサボるようになっていた。本来であればその怠慢な態度に対し、助言をする者がいるはずなのだが、なまじ腕があるだけに、ロベルト以外の騎士団はリュートの過信に気づくことがなかった。


「ハウルさん、ちょっといいですか?」

「おぉ、どうしたロベルト珍しい?」

「いや、ちょっと相談があるのですが、私の力ではどうしていいかわからず…」

「リュートのことか?」

「はい」

「う~ん…確かにここ最近のあいつは調子に乗ってるところはあるかもしれないが、あれだけの事したのであれば当たり前のことではないか?」

「そうかもしれません。そうかもしれませんが、自分はあいつはこんな所で収まる器ではないと思っています。」

「と言うと?」

「はい、正直私はあいつに特攻騎士団長の団長になってもらいたいと思っています。そして、私と肩を並べて騎士団を守れる男になってもらいたいと…」

「お前と肩を並べるか…」

「はい、その私が唯一認めてる男がこんなとこで堕落するのは見てられません。」

「そうか…ではストーン様に相談してみてはどうだ?」

「ストーン様にですか?」

「あぁ、ストーン様は彼の上司であり、親だ。お前の心配してることを伝えるのにはうってつけないとだと思うぞ」

「確かにそうですね…分かりました。1度ストーン様に相談してみようと思います」


リュートの事をハウルに相談した後、ハウルの助言通りロベルトはストーンにも相談してみることにした。


トントントントン

「はい」

「ストーン様、お忙しい所申し訳ございません。ロベルトです」

丁寧にお辞儀しながら、騎士団長ルームに入るロベルト

「ロベルトが私のところに来るのは珍しいな?」

「実はリュートの事について相談がありまして…」

「リュートの事だと?」

「はい、最近のリュートの態度のことに関してご相談があります」

「リュートの態度か…」

「ストーン様ならお気づきだと思いますが、最近のリュートは少し過信しすぎていると思います。あれだけの事があったので、過信するのは仕方ないと思うのですが、私はリュートにはもっと大きい人間になってほしいのです」

「大きい人間?」

「はい、私は守備隊の隊長を目指しておりますし、リュートも特攻隊の隊長になる器を持っていると思っています。なんでこんなとこで過信してもらいたくないのです。」

ロベルトは自分の思いをストーンに話した。

「それにもし今回と同じような事が起きた時にリュートは同じように先走るでしょう。しかし、今回は私が間に合ったから良かったものの、次回同じ事があった時に同じ結果になるとは分かりません」

「う~む…」

「だからこそ、日々の鍛錬は必要だと思うのです。その鍛錬があってこそ屈強を乗り越えられるものだと思っています。」

「そうだな、ロベルトの言う通りだ…よし、わかった。ここは私に任せてもらおう」

「ありがとうございます。ストーン樣」

ロベルトの話を聞き動き出すストーン。ストーン自身もリュートの過信については気づいてはいたのだが、あれだけの活躍をした事を親としても嬉しいのもあり、甘く見ていた所をロベルトに見抜かれ、このままではいけないと思ったのも事実だ。


ある日の午後、秘密のトレーニングをしていた丘で待ち構えているリュート。どうやらストーンに呼び出されたらしい。

「リュート、待たせたな?」

「なんだい、父さんこんなとこにわざわざ呼び出して?」

「いや、大したことはない。こないだのお前の活躍、本当によくやったと思っているよ」

「やだなぁ~父さん。でも、お父さんにそう言われるととても嬉しいよ」

滅多に褒めないストーンに褒められ、リュートは本当に嬉しそうであった。

「私が昔、お前に言った言葉を覚えているか?」

「なんの言葉だい?」

「身の丈に合わぬことをした場合早めに命をなくすことになるぞ…だ」

「また懐かしいことを…」

「お前の今回の功績は素晴らしい。しかし、命令違反をした上での功績ということだ。」

「……」

「勘違いはするな、今更そんな事を責めるつもりはない。だが、今後同じことがあった時に同じようなことがないように、お前の今の実力がどの程度かを自分自身で分かった方がいいかと思ってな…」

「どういう事?」

「構えろ、リュート…」

そういったストーンの声はとても冷たい。その声に押されながらもリュートは構える。

「リュート…死ねなよ!」


ドォンッ!!


ストーンの振り下ろした剣を双剣で受け止めるリュートだが、あまりの勢いに吹き飛ばされてしまう。

「グァハッ…」

「よし、よく耐えた…」

「いや…全然耐えてないから…」

「そんな事はない。私の攻撃を受けて、まだ動けるお前は大したものだ」

「何言ってんだよ。父さん、殺されるかと思ったよ…」

「ははっ何言ってんだお前?かわいい息子を殺すわけないだろ?もしそんなことになったら、ロゼリアに俺が殺されてしまう。その辺はちゃんと手加減したさ」

「手加減?今の攻撃で父さんは手加減していたのかい?って剣が!!」

ストーンの問いに驚くリュートだがもっと驚くものを目にすることになる。

「剣にヒビが…」

「ヒビぐらい当たり前だ。私が本気で剣を振ったらそのぐらいの剣なら真っ二つだ。」

「えっ、剣を真っ二つにできるの」

「私はあんまり器用ではない。だから私は触れたものを全てを切り裂くのだ」

「まさに豪剣だね…」

「あぁ、だからこその豪剣だ。この国には私より力の強いものや剣術が上の者も数多くいるだろう。しかし、私はこの国の盾だ。私の敗北はこの国の敗北を表わす。だからこそ、私の剣は当たったもの全てを斬る」

「それはそうと、父さん…」

「なんだ、リュート?」

「俺の双剣、どうしてくれるんだよ…これじゃ鍛錬しようにもできないじゃないか…」

「う~ん…私が昔使ってた剣でよければあるが」

「えっ、父さんが昔使ってた剣?」

「あるにはあるのだが…」

「なんだよ、もったいぶって?」

「お前にその剣が扱えるかがな…」

「あっ、なんだよ。その言い方?それじゃあ俺ではその剣使えないっていうのかい?父さんが子供の頃使ってた剣なんだろ?」

「うむ…」

「なんだよ。その言い方ふざけんなよ。その剣使ってみせるよ。その剣くれよ」


ストーンの言い方にカチンときたリュートは、その剣を使うと言い張り、ストーンからその剣を譲り受けた。しかし、リュートはその剣を受け取って激しく後悔した。ストーン曰く、長剣を使いこなすために作られたその剣は、普通の剣より丈夫なのだが、その分とても重かった…



「昨日さ父さんと稽古したんだけど」

「何、ストーン様と?」

何気なく先日の出来事をロベルトに話すリュート。その話を聞いた時、ロベルトはとても嬉しそうであった。

「あぁ、その時に父さんの剣を受けたんだけど、父さんの剣圧の勢いが強すぎて、うけた俺の剣がヒビが入って使い物にならなくなったんだよ。」

「えっ、剣にヒビが入る?」

「うん。それで父さんから新しい剣をもらったんだけど、それがすごい重くて使いづらいんだよね。」

「重いってどんな剣なんだよ?」

「いや、なんかさ、父さんが昔使ってた剣らしいんだけど…」

「ちょっと待ってくれ、ストーン様が昔使ってた剣?」

「えっうん…」

「ちょ、見せてくれ」

「いや、これなんだけどさ、重くて使いづらいんだよ」

 ロベルトに催促されその剣を見せるリュート。ロベルトはその件を受け取りまじまじと見つめながら剣を振り始める。

「確かにこの剣重いなぁ?見た目的には俺の剣より少し小さいぐらいなのに、俺の剣の数倍重いぞ?」

「だろ?使いづらくて困ってんだよ。」

ロベルトはその剣を振りながら考え事をしている。その顔を見ながら、リュートはロベルトも使いづらいと思っているんだろうな?っと思っていたがロベルトの答えは意外なものだった。

「なぁリュートもしよかったら俺のこの剣と、お前のその剣交換しないか?」

ロベルトの剣はかなり高級なものである。本来であればすぐに飛びつきたい話ではあるがロベルトのあまりの勢いに、だんだん自分の剣が高価なものに見えてき始めたリュート。

「いや…でもさ…」

「なんだよ、お前さっきまで使いづらいって言ってたろ?だからな!」

「いや、ダメだって…」

そう言って、リュートはその場を逃げ出した。リュートがストーンから剣を譲り受けたことを聞いた騎士団メンバーが次々とリュートに剣の交換を依頼してきたが、その頃にはリュートの考えは180度変わっていた。

「なぁリュートと頼むよ。考え直してくれよ?」

「だからダメだって」

「でも、お前その剣触れないんだろ?じゃあ、持ってたって意味ないじゃないか?」

「違うよ、あくまで今はだ。こんな剣すぐ触れるようになってやる」

リュートは気づけば訓練に力を入れるようになっていた。堕落した面影は全くなくなり、むしろ以前より精を出しているほどだ。そのせいもあって、最初は重くて振れなかった件も少しずつだが、振れるようになってきて数ヶ月経った頃には以前ほどではないにしろ、普通の戦闘であれば問題ないぐらいこなせるようになっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る