第11話.王との会食そして…

ある晩3人で夕食をとっている時に、ストーンから突然とんでもない提案をされた。

「少年、少年もこの町に来てかなりの日がたった。どうだろう?そろそろ1度国王に会ってみないか?」

「えっ、国王?そんな簡単に会えるもの!!」

ハヤトはあまりのことに、むせながらもそう変えした。

「あら、あんたまだ言ってなかったのかい?」

「えっ、なにが?どういうことロザリオおばちゃん?」

びっくりしながらロザリアの方を振り向き、質問をするハヤト。その顔を見ながら意地悪く微笑み、さぁね~と返すロザリア。訳の分からない事が多すぎる。ストーンに質問をしてみるも、バツの悪そうな顔をしてちゃんとした答えが返ってこない。結局当日まで何も教えてもらえなかった。


初めての王宮はすごかった。ストーンの家もハヤトの家に比べたらかなり上級の部類に入るのだが、王宮はそれと比べ物にならない。白い大理石、信じられないぐらい高く幅の広い扉、そして一番気になったのが、王宮の扉を囲むように伸びている階段…上から見ると同じ道に続いてるように見えるが入り口が違うことを考えると違う道に行くのだろうか?謎は深まるばかりだ…


カチャカチャ…

食器の触れ合う音が鳴る。普段スプーンで物を食べてるハヤトからすると、このフォークとナイフというものはとても扱いづらい。悪戦苦闘しながら口に運ぶが満足に食べた気がしない。辺りを見回してみたら、ストーンは勿論ロザリアまでとても丁寧に食べている。どうやら苦戦してるのは、ハヤト1人のようだ。悪戦苦闘しながら食事を続ける中どうしても姫に目がいってしまう。この国の第1王女エリザ姫はとても綺麗だった。喋り方や立ち振る舞いそして可憐な笑顔…どれをとってもおとぎ話に出てくるお姫様のようだ。サーヤには悪いがサーヤとは月とすっぽんだ。バレないように見ていたつもりだがいつの間にか見とれていたのだろう姫と目が合い姫がクスッと笑いかけてきた。とっさに目をそらすがその一部始終をロザリアに見られていたようだ。

「あらあら、ハヤト顔真っ赤よ?どうしたの?」

意地悪な顔をしながらロザリアが話しかけてくる。

「ほんとだ少年?大丈夫か体調でも悪いのか?」

ロザリアの話を聞いてストーンが心配そうに話しかけてくる。

「大丈夫だよ。大丈夫。」

そう言いながらロザリアの方を見ると、ロゼリアは姫と楽しそうに笑っていた。

「娘はやらんぞ!」

突如、王であるネメシスが怒鳴り始めた。それにともない姫がまた始まったかと言いたげなため息をつく。

「あら、また始まったわよ。王様の親バカが…」

ロザリアがそう呟くと、辺りが笑いに包まれる。どうやらはかなり気さくな人物のようだ。

「ハヤト君と行ったかな?ナイフとフォークでの食事は食べにくいかい?」

「いや、その…初め…使うの初めてだから…」

普段は人の顔色伺わずズバズバと物を言うハヤトだか、さすがにネメシスの前となると自分の意見を出せないらしい。しどろもどろしながら返答返す。

「ねぇ、スプーンを使ったらまずいかい?どうもこのナイフとフォークはまどろっこしくて…」

ハヤトの気持ちを察したロザリアがそうネメシスに問いかける。

「そうですかロザリアさん、でしたらスプーンを持ってこさせましょう。」

ハヤトの気持ちをロザリアが代弁したのに気付いたのか、ネメシスは全員分のスプーンを配色係に持ってこさせた。

「やっぱ普段通り食べる方が美味しさをより感じられるね。どうもあたしはフォークやナイフでご飯を食べるのは苦手だよ。」

そう言いながら笑い食べるロザリアを見て、ヤレヤレとため息をつくストーン。ロザリアからもあんたもこれにしな?とハヤトにスプーンが渡される。スプーンを受け取り、どうしたものかと考えていたが、ネメシスと目が会った時に頷かれそのままスプーンで食べることにした。普段通りに食事を取る用になったからか、それとも緊張が和らいだからかは分からないが、先程と違う味の旨味がより伝わってくるようになった。

「これは…」

どことなく懐かしい味だった。ロザリアの料理が不味いわけではない、むしろロザリアの料理は今までに食べたことのないぐらい美味しい。しかし、この料理も美味しさ以外の何か深みというか、違うものがある。なんと言えばいいのだろう?強いて例えるのであれば懐かしさ、そう、懐かしさを感じる味である

「ほほう…やはり分かるか?」

「何の事?」

不思議そうにネメシスの方を見て答えるハヤト。それに対しネメシスは

「うちの城の料理長はオーダーだよ。」

「えっオーダーがいるの?」

「私は民族の違いはないと考えておる。皆同じ赤い血を持つ人間だよ。そもそも民族で価値観を判断すること自体間違っていると思っている」

そう言いながら民種による差別がどれだけ愚かなことかを熱く語り始める。

「バルサ、ギャンサー、オーダーそれが何だ?ギャンサーは、大柄で乱暴者が多い?何を言っとる?ギャンサーにだって優しくて繊細な奴もおる!!オーダーは弱虫?何を言っとる?オーダーにだって強くて勇敢なもんだっておる!!」

熱く語り始めるネメシス。その口調には先代の王たちに対する批判、否定、悲しみなどがひしひしと伝わってくる。その言葉を聞いて居るだけでたくさんの苦悩があったのだろうということがわかる。ストーンもかなり深刻な表情をしている。

「いや、そういうわけではないのだ。」

「わかってる。わかっているよ…」

ストーンの顔を見て王が表情変えストーンに謝り始める。どうやらネメシスとストーンの間にも何かしらの出来事が過去にあったらしい。一瞬場に重い空気が流れたが、

「また始まったわ。お父様の演説が」

エリザのその一言がその場の空気吹き飛ばす。

「黙りなさいエリザ!」

「だって、お父さんはどうせ次は料理の話をするのでしょ?毎回毎回同じ話で、私聞き飽きてしまいましたわ?」

笑いながら鼻でため息をつくエリザ、その言葉とともにネメシスの饒舌が復活する。

「何を言っておるオーダーの料理は素晴らしいぞ。オーダーの料理は今まで知らなかった味を与えてくれた。」

そう言いながら、今度はオーダーの料理の深さの話をし始める。今まで甘さ、辛さ、酸っぱさ、苦さの4種類の味覚を元に様々な味が出来上がるとネメシスは思っていた。そんなネメシスだが初めてオーダーの料理を食べた時衝撃が走ったらしい。何度口に運んでみるもののその違いがよくわからない。しかし、確実に何かが違う。なんと言えばいいのかうまく表現することはできないが、オーダーの料理には味に深みというか違う旨味がある。

「どうしてもその味が食べたくてな。私は王宮に帰ってから料理長にその料理を作るように命じたんだよ。だが、同じものは出来なかった。見た目もそっくりだし、味もかなり似ているのだが、なぜか深みがないんだよ。」

それ以降オーダーの料理にはまったネメシスは色々な村に行き、色々なオーダーの料理を食べたそうだ。王族が色々な村を歩き回る?そんな大それたことできるのかと思いハヤトは質問してみた。しかし、男は驚いた顔はしたものの、私から語る事ではないな?と一言いいながら笑い、教えてはくれなかった。ふと隣を見るとロザリアも笑っていて、なぜかストーン1人だけ苦虫を噛み潰したかのような渋い顔をしていた…

「それで私が王になってからオーダーを料理長に招いたのさ、民族差別にも繋がるし、何より実際にできる人間が上に立てるという証明にもなる。」

どうやらネメシスは口だけではなく、本当に民族差別に対して対応をとっているらしい。確かにこの町の人々でネメシスの悪口を言う人は1人もいない。その理由がハヤトはなんとなくわかった気がした。それぐらいネメシスは親しみやすかった。ネメシスはストーンやロザリアとも仲が良く。気づいたらハヤトも最初の緊張が無かったかのように自然に会話を楽しんでいた。その中で先程気になった階段の話を聞いてみたが、敵からの防衛のために色々考えて作られているらしいのだが、敵に攻め込まれたことがないため、ほぼ意味がないらしい。しかも、入り口入ってすぐの二手に分かれた階段は、どちらを登っても同じ場所に行くらしい…ハヤトの中で謎はより深まった…


ハヤトはロベルト達と街の片隅で話をしていた。

「マジかよ、王との食事会!!」

「いいなぁ、どんな美味いもん食ったんだ?どんなもん出てくんだ?」

みんな王宮の食事に対して興味があるらしく、羨ましそうに次々と質問を出してくる。まるで自分が有名人になったかのようで、ハヤトはとても気分が良かった。

「そうか、確かお前はストーン様に引き取られているからな…」

納得したように、ロベルトがそう呟く

「確かにそうだけど、ストーンに引き取られたからってなんの関係があるんだ?」

「ええ~…お前知らないのか!!」

不思議そうに聞き返すハヤトに対し、ロベルトの周りの仲間達はとてつもなく驚いていた。

「お前…もしかして知らないのか?」

「だから、知らないって何を知らないのさ?」

ロベルトの問に対して聞き返すハヤト。その問いに対するロベルトの答えは、ハヤトにとって衝撃を与えた。

「何って、ストーン様は王様の兄弟だよ。」

「兄弟!」

「そう、しかも王様の兄貴」

「えぇ~嘘だろぉ~!!」

ハヤトの声が街にこだました。


バァン!!

「おばぁちゃん、ロザリアおばちゃん!!」

ハヤトが勢いよくドア開けて、家に帰ってきた。

「なんだいハヤト、そんなに大声で?びっくりするじゃないか」

よほどびっくりしたのであろう驚きながら、ロザリアはそう答えた。

「ストーンが王様の兄弟って本当!?」

「あらあら、とうとう知られちゃったかい?」

ロザリアはそう言って笑みを浮かべていた。ハヤトには聞きたいことがたくさんあった。本来、家の跡継ぎというものは長男が務める者であり、次男はサポートするものという認識であったハヤトからすると、兄であるのも関わらず弟にネメシスの座を譲り、弟をサポートするストーンの気持ちがわからなかったのだ。仲が悪いのならまだ分かるが、先日の王宮の食事会を見る限り2人の仲はとても良さそうであった。だからこそより不思議であった。

「う~ん…私の口から言うのは気が引けるねぇ」

「なんで、そんなこと言わないで、ロザリアおばちゃん。どうせストーンに聞いたって教えてくれないんだから!」

そう言いながら話をせびるハヤト。

「確かにあの人は言わないだろうね…」

「でしょ?だからお願い!」

仕方ないなぁという顔でロザリアが話し始めた。

「あたしも全てを知っているわけではないよ。あの人は今街の人達に好かれてはいるが、昔はあんな感じではなかったの」

そう言いながらロザリアは昔の話をし始めた。ロザリア自身もストーンからすべてを聞いているわけではないらしく、そんなに詳しい話は聞けなかったが、どうやら昔はネメシスとストーンの仲はあまり良くなかった。より正確に言うと仲が悪かったというよりは、ストーンが一方的にネメシスを見下していたらしい。ネメシスはその当時国を放浪し、たまに帰ってきては料理長に食事を作らせ、また旅に出るの繰り返しで生真面目なストーンからしてみれば、何もしないダメな弟というイメージだった。ストーンはストーンで差別が激しく、王宮関係の人間以外の国民全て見下していた。初めて会ったときのストーンはとても高圧的な感じで、今のストーンとは全くの別人ということだ。

「えっ、あんのストーンが?」

「そうだよ、初めて会ったときのストーンはそりゃ凄かったよ。威張り散らして嫌な感じで…」

目を閉じ頷きながらそういうロザリアだが、その表情には憎しみなどなく、どこが懐かしいげだ。

「でもさ、じゃあなんでロザリアはストーンと結婚したの?」

「フフフ…それはね?」

ロゼリアを微笑みながら、また話し始めた。ロザリアの住む村に盗賊からの襲撃があった時に、ストーン達が助けに来てくれてロザリアのピンチを救ってくれたのだが、その時に受けた傷が原因でストーンは数週間倒れたらしい。それをロザリアが元気になるまで看病したと言う事だ。

「村のことを助けてくれたとはいえ、今までが今まででしょ?だから、みんな怖がっちゃって彼の世話をしなかったのよ。」

「じゃあ、なんでロザリアは看病したの?」

ロザリアは優しい笑みを浮かべながら続きを話し始めた。最初の頃のストーンの態度は酷かったらしい。上から目線で喋りながら指示をし、ロザリアのことをメイドのように扱っていた。ところが傷が癒えてくにつれ、徐々にストーンの態度は変わっていった。ストーンは、自分の立場を誰よりも知っていた。自分が後に王になることも認識していて、それゆえ、周りの者が自分に対し媚びを売るその事実に誰よりも苦しんでいた。自分は王の跡取りだからこそ価値がある。もし自分に相続権が亡くなったとしたら、皆は自分に振り向かなくなる。だからこそ、私は立派な後継者でなくてはいけない。そう思い父に気に入られる態度をとっていたらしい。実際に父の真似をし、振る舞うことにより、父は喜んでくれた。そうすることにより、自分の価値を感じられたと…

だが、心のどこかでは弟の振る舞いを目羨ましいと思う自分もいて、いっそのこと全てを投げ出して見ようと考えたこともある。だがその後のことを考えると、怖くて何もできなかったらしい。だからこそ、怪我で動けなくなるかもしれない自分を解放してくれたロザリアに対しストーンは心を開いたのだ。

「あの人は本当に少しずつ変わっていった。以前のような威圧感は無くなり、普通に話すようになったわ」

「威圧感って…どっちかっていうと、今もあると思うよ。なにより無表情だよ。ストーンは…」

「確かにそうね。でもね、昔は人を睨みつけるような目で見ていたのよ?それに比べたら仏頂面の方がまだいいでしょ?」

「確かに!」

2人して笑いあった。その後、村を出て再会した時にプロポーズされたらしい。自分が王妃になる事は許されないとロザリアは1度断ったのだが、ストーンは王位継承権を破棄してまでロザリアに再度プロポーズをし、ロザリアは結婚をしたらしい。

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