尋問の達人

「そういえば紫炎」

「どうしたのマコトちゃん」

 僕は帰りの馬車の中で紫炎に話しかける。

「戦が終わり、医務室が資材を持て余していたので、たくさんの体温計を安く買い取った」

「何? 医者でも始めるの? ナース服着る? 」

 紫炎が目をキラキラとさせる。

「いや、その体温計は砕いてしまった」

「え? 」

「体温計の中には水銀が入っている。 その中に試験管を入れて逆さまにして上まで持ってくると、水銀の重さで試験管の上部に『真空』が出来る」

「マコトちゃん、何言ってるの?」

 紫炎は表情をこわばらせる。

「いいか、紫炎。 僕が言いたいのは君の能力は『紫の炎を出す』だけじゃないって言いたいんだ」

 紫炎が息をのみ込む。

「ここに真空状態にした試験管がある。 密封状態だが、その中にむけて能力を発動させることはできるか? 」

「や、やってみる」

 紫炎が杖を取り出して、能力を発動させた。

「ベチョ、ポトン」っと音と共に液体の金属と黒い塊が試験管の中に現れる。

「何これ?」

 紫炎が不穏そうな顔をした

「黒い物体はおそらく炭素、金属の方は銀白色......ルビジウムだ。 紫色の炎色反応を起こす」

「って、事は私の能力は『ルビジウムを操る能力』って事」

「いや、『紫の炎を出す能力』の中に『ルビジウム』が含まれていて、僕がそれを見抜いたって事だと思う。 真空では燃えないところを見ると酸素は外部から供給しているな」

「ほほぅ」

「ほほうって君の魔道具だ、自覚はないのか? 」

「ない!!」

「威張るな!!」

 馬車は王宮へと歩みを進める……



 六日間かけて王宮に戻った。

 付き添いの兵士が気圧を操る転生者と人を笑わせる魔道具を持った少年を王宮の地下牢にぶち込む。

 何故か、ディータルと言う政治家も一緒に牢屋に入っていた。


「ただいま帰ってきました」

 僕、紫炎、サム、アトラクの四人で女王に挨拶をする。

 女王の耳にイヤリングがないところをみると、魔道具はもう閉まってしまったらしい。

 僕たちは女王に色々な話をした。

 セプラテラが口減らしの為に、使えない民を徴兵して、わざと玉砕させたこと。

 転生者との戦い。

 終わった後の宴の様子。

「女王様の方は問題はありませんでしたか? 」

 サムが聞く。

「暗殺されかけました」

「え?」

 僕たちは驚く。

「そんなに騒がないでください。 私も転生者ですから大丈夫です」

 王女は片手をこちらに向け、落ち着くようになだめる。

 その後、女王からも色々と話をされた。

 ディーダルと言う政治家が敵と内通していた事。

 《偉大なる詐欺師》と言う転生者の話。

 そして……

「私は、人を信じなかったのが原因で死んで、この世界に転生しました。 なので、この世界では人を信じたい。 私の目的は全ての人が信頼し合える世界を作る事です」

 という女王の意思。

 初めて聞いた。

 僕は、人を信じたがゆえに死んでしまった。

 だから、人を信用したくないと考える僕とは、真逆の思考をした人物だ。

 綺麗すぎるからこそ、胡散臭いと疑いたくなる。

 でも、逆に応援したくもなる。

「普段、魔道具を身に着けないのも関係あるのでしょうか? 」

 僕は女王に聞く。

「はい、私は人を信じるためにこの魔道具を選びました。 しかし、この魔道具を一方的に使う事は相手に失礼だと思い、自粛しているのです」

 女王と僕は目をしっかりと合わせる。

 糸目だが、吸い込まれそうな不思議な眼差しをしている。


 僕は過去の話は終え、これからの話を始めようとした。

「では、女王様、話題を代えますが。 今回の戦いでセプラテラはかなりの悪政がある事が判明しましたが、どうしましょうか? 」

「私に聞く前から、心は決まっているのでしょう」

「はい、チェンヴィラムとの戦が終わり次第、セプラテラを滅ぼしたいと考えております」

 アトラク、サム、紫炎の目がカッと見開き、僕の顔を見る。

「私も同じ意見です。 ティーダルを尋問した際に、やたらと徴兵していた理由を教えていただきました。 あの様な国に民を任せたくはありません」

 女王の糸目が開眼した。

「戦の準備をしましょう」

 予想よりも、あっさりと許可が降り、僕は驚いた。

「ありがとうございます。 まずは情報が欲しい、捕虜二人の尋問から着手します」

「尋問なら私がやった方が早いです」

 僕の提案に対して女王が椅子から立ち上がる。

 驚いた僕はアトラクの方を見た。

「尋問なら女王陛下に任せた方が良い」

 アトラクがハッキリと言う。

 普段なら『女王陛下に手を煩わせるな』と怒られそうだが、魔道具が関係しているのだろうか……



 それから、30分ほどして女王が面会室から帰ってきた。

「尋問が終わりました」

「早い早い早い」

「安い安い安い、うまいうまいうまい」

 女王の態度に僕が驚き、紫炎が茶々を入れる。

 アトラクとサムは当然だという顔をし、魔道具であるイヤリングを宝石箱に戻す。

「やはり普段、身に着けないんですね」

「はい、フェアではありませんから」

 女王はゆっくりと宝石箱に鍵をかけた。

「では、得た情報をお話ししましょう」

 僕たちは女王の方に目を向ける。

「今のセプラテラに残る転生者は合計、二人。 一人目の能力は

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