森、亡命、紫の炎

 門を超えた僕と紫炎は森の中を進む。

「ねぇ、ノーズウェルに着いたら一緒に戦ってくれる? 」

 紫炎が聞く。

「僕は、誰にも手は貸さない」

「えぇ~、こんなに頼んでるのに!!」

 紫炎がしょんぼりする。

「三日頼まれても断ってやる」

「三日で堕ちるの!? なら、毎日勧誘しに行くね」

「二日で引っ越してやる」

 そこから暫く歩いたところで、まわりに人が居ないことを確認して着替えなおした。

 スカート中でズボンを履き、

 そして、クリノリンというスカートをドーム状にするワイヤーを苦労して袋に詰めた。

「え~似合ってて可愛かったのに……」

 紫炎が残念そうにしている。

「いつまでもあんな格好していられないよ」

「でも、あの門番との会話で怖がっている様子は本当に可愛かったよ」

 紫炎は涎を流しながら僕の事を見た。

「次にそれ言ったら帰るぞ……」

「ごめんごめん!! でも、実は私もヒヤヒヤしてたんだ」

「どうして? 」

「貴族の令嬢と言えば香水を付けるのが主流なんだけど、付けわすちゃってさ。 あの門番が鼻が効かないか、お嬢様に会ったことがないかわからないが、助かったよ」

 紫炎はホッと息を吐き、白い煙を出す。

「何処か抜けたところがあるんですね」

 僕は紫炎の方を向く。

 気に入ったのか、まだ男装をしていた。

「これは、抜けてるんじゃなくて、強者だけの特権、油断って言うの」

 紫炎は誇らしげに言う。

「強者だけの特権なら、ヒヤヒ」「ちょっと待った……」

 紫炎が僕の口をふさいだ。

「何か聞こえないか?」

 紫炎と僕が耳を澄ますと「ジーーーーーーーーー」と小さな音が聞こえた。

「何の音だろうか……? 」

 僕と紫炎が疑問に思っている間にも「ジーーーーーーーー」と言う音が少しづつ近づいてくるのがわかる。

「ジジジジーーーーーーーーーーージーーーーーーーーーーーー」

 その音を出す物がピタリと止まり、僕と紫炎の足元で「ジーーーーーー」と音を鳴らし続ける。

 僕と紫音は息を飲んだ。

 自分の心臓の音が次第に大きくなり自分の耳元にまで届くのがわかる。

 ゆっくりと、その物の正体を見た。


 ダイナマイトだ!!


「ジー」と音をたてて。

 一刻、一刻と僕と紫炎の命を消す為のカウントダウンを始めている。

「早く伏せなきゃ」

 僕は紫炎に言う。

 しかし、紫炎は動じなかった。

「伏せる? なんで私が、こんな物の為に地面に頭を擦りつけなきゃいけないんだ? 」

 紫炎はタキシードの内ポケットから、短い杖を取り出した。

 紫炎は杖を足元にあるダイナマイトに向ける。

「ダイナマイトに火気厳禁? いや、違う!!」

「おい、何をする気だ!!」

「燃え上れ!!」

 杖の先から紫色の炎が飛び出す。

「正気か!?」

 僕が叫んだ瞬間、紫の炎はドーム状にダイナマイトを囲んだ。

 すると導火線の音がやんだ。

「導火線に火が付いてるのが問題なら。 その周りを火で囲めばいい。 酸素が足りなくなって窒息する」

 紫炎が杖を振ると炎が消えた。

「私も転生者でね…… 魔物たちと戦った」

 紫炎は杖の先を回転させる。

「これ私の魔道具。 今朝会った男と能力が若干被っているのはアイデンティティが失われそうで嫌だが…… 紫色の炎を出す能力だ」

「自己紹介している所悪いが、今はそれどころじゃない」

「もう、少しはノってくれてもいいじゃない」

 紫炎が少し拗ねた後、僕と背中を合わせる。

「何者かが導火線に火が付いたダイナマイトを僕たちの足元に、何らかの方法で運んだ」

「つまり、亡命中のマコト君と私を消そうという魂胆ね」

「そういう事になるな……」

 僕はヒントがないか、ダイナマイトを見る。

「どうやら、敵は僕たちを視認できない場所にいるかもしれない」

「どういう事?」

「導火線の長さだ、こちらが見えて距離が分かるなら、こんなに導火線を長くする必要はない」

「なるほどね……」

「問題は、こちらをどうやって追跡してい……」

「あれを見て!!」

 紫炎の声で振り向く。

「なんじゃありゃああああああああああああ」

 思わず叫んでしまった。

 大量のナイフが持ち手部分に車輪を付けて、こちらに向かってくる。

 車輪から聞こえる小さい「ブルルルンブルルルン」という音はだんだんと大きくなって来た。

「OK」

 紫炎がそう言い、近くにある巨木の端っこに杖を向けた。

「燃え上れ!!」

 そう言い、巨木の端っこを一気に焼く。

「間に合ってくれ」

 紫炎は両手で杖を持ち、眉間にしわを寄せる。

 そんな事をしている間にも「ブルルルゥウウウン!!」という音と共に見えるナイフの姿がだんだんと大きくなる。

「良し!!」

 紫炎が叫ぶと巨木が焼き切れたのか倒れた。

「トントントントントン」と巨木の向こう側でナイフが刺さる音がした。

「やったか?」

 安心するのも束の間、後方から遅れてやってきたナイフがジャンプして巨木を乗り越えた。

「さっきの量じゃ辛いけど、この量なら!!」

 そう言い紫炎はナイフに杖を向けて炎をぶつける。

 ナイフは溶けて、そのまま下に落下した。

「このまま落ち着いている暇はなさそうだな」

 僕は紫炎に言う。

「そうね、きっと相手は二手、三手と用意しているはず」

「そうだ、それも一方的に。 だから、本体を倒す必要がある」

 僕と紫炎はまわりを再度確認する。

「誰も、いないのか……」

「どうする? このまま逃げてノーズウェルに入国する? 」

 紫炎が提案した。

「いいや、ここで倒そう」

「そうこなくっちゃ!!」

 敵がノーズウェルまで追跡してきたら…… 関係ない人が巻き込まれる。

 けが人が出たら、なんだか気分が悪い。

 ヒントがないかと耳を澄ますと、巨木の方から「ブルルルルン!!」と車輪の音が聞こえた。

「バックして木から抜けようとしている」

 紫炎が驚いた様子を見せ、ナイフに杖を向けた。

「待て」

 僕は紫炎に杖を降ろさせ、一本のナイフに指を向けた。

「一本だけ極端に抜けそうだ、これで確かめたいことがある」

「危険じゃないの? 」

「その時は燃やせばいい」

 僕は他のナイフがしっかりと刺さり、短時間では抜けないことを確認する。

 そして、荷物から自分のシャツを丸めて巨木の向こうに投げ、離れて見守った。

 数十秒が立つ頃、ナイフは木から抜けた瞬間に、何度も何度もシャツを刺し始めた。

 そして、シャツがズタズタになった所でナイフは満足そうに、帰っていく。

「紫炎、逃がさないで!!」

「わかった!!」

 紫炎は帰ろうとするナイフを溶かした。

「なるほど、こうなっているのか」

 僕は叫ぶ。

「どうなってるの?」

「よし、この方法を使おう」

 僕は不思議そうに見てくる紫炎に向かって言った。

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