第31話 揺ら斬り

ら――

 

距離きょり――」

 

 り!」

 

 えながらられたけんは、直線ではなく楕円だえん状に揺らいで敵を飲みむ。

 剣を振りながらレバーを操作して、手首につけた反動で敵をくす。


「ワームが……うそ!? じゅ、十三体ロスト……」


 オペレーターが目を見開きながら、レーダーから読み取った情報を告げる。


「一振りで十三体……だと……」

「十三体!?」


 その言葉に、ガレスとラスターがおどろいて反応する。


「うわぁ、マジだ。二体残ってる……」


 気付いてからすぐに、ラスターは方向転換てんかんして敵に向かって近づく。ビームを消した実体剣で敵を一体……そのまま最後の一体も機体をすべらせながら、慣性に任せてぶった斬る。


一瞬いっしゅん……」

「一振りで十五体だから――」


 シズハラの驚きに、ラスターが口をはさむ。


「今のは! 一振りで! 十五体! 二体のがしなんてない」


 驚きに満ちる管制室に、ラスターが必死の言い訳を吠え散らかす。


「全部だから! ほら、ちゃんと見てただろう? な! 剣を振った後、おれは剣を動かしてない! つまり、剣を振った状態のままだ!」


 管制室にいる全員が全員、何を言っているのか伝わらない状態。


 剣を振り終わった後というのが、どこからどこまでかを明確に定義するのは難しいが、敵に向かって振った剣がかわされたとして、その剣をさらに相手に向けて動かせば、それは二回剣を振ったと言えるだろう。


 だが、その剣を動かさずに、本人が動いて振り終わった剣に当てたならば? いや、背中のブーストを使って本体を一切動いていないのならば?


 それなら、一振りで処理したと言えるのではないだろうか? 良心次第であろうが――もっと言えば、その無駄むだな努力を、だれも理解していないので、ちゃんと見てた? とか聞かれても、よく分からないのである。


「カンラギ副会長! 約束は守ってもらえるんだろうな?」

「えっ? あっ、うん」

「……ダメか?」


 カンラギのとぼけた反応に、ラスターは自信なさそうに聞く。

 この機体に乗る条件として出した中に、自身の実力を示すことで守らせる内容がいくつかある。


 そもそも一振りで十三体討伐とうばつということ自体があり得ないといった話で、残りの二体にしても、やられたわけでなければ問題はない。

 むしろ、取りこぼしを一瞬でたおしきるのは、確実にすごいことであると、ここにいる誰もが思っているのだが……


 高すぎるプライドからされる、クソ餓鬼がきムーブに彼らは反応に困る。

 そして、いち早く正気にもどったヒヤマが話をぐ。


「確か、一切の増援ぞうえん拒否きょひだっけ?」

「あぁ、その通りだ」


 ラスターの出したヴォルフコルデーに乗る条件は、これからワームビーストと戦うに当たって自分以外のReXを一機たりとも飛ばさないことである。


「ふざけているのか!」

「おい、待て! どういうつもりだ!」

「言葉通りの意味よ?」


 交渉こうしょう者であるカンラギが動揺から立ち直り、第二生徒会メンバー二人に言う。


「増援の拒否? それはつまり――戦艦せんかん級相手に一人で戦うということか!」

「そういうことだ! さすがの俺も、剣を二、三本に見せれても、分身する方法は分からん」

「分身って、したところで一人では?」

「そういう問題ではない!」


 くだらない疑問を挟むカンラギに、シズハラはピシャリと言って退けてだまらす。


「そんな無茶は認められん! 私も出撃しゅつげきする」

「シズハラ!」


 シートベルトを外して体をかしたシズハラに、カンラギが警告をする。


「無茶だ……死ぬぞ。お前」


 納得できないガレスも、ラスターに対して抗議こうぎする。


「それがどうした? お前らは俺が帰還きかんするか、死ぬまでは出撃するな!」

「断る!」

「だと言うのなら……戦うか?」

「えっ……」


 キャンキャンと吠えていたシズハラは、のどに異物がまったかのように黙る。


邪魔じゃまをするな」


 ラスターの一言で二人が……だけでなく、オペレーターといった他の人たちも、異様なお願いに口をつぐむ。


「カンラギさんよぉ、約束通りにたのむぞ」

「わかったわ」


 そう言うと同時に、ラスターは通信を切る。


「なっ!? 通信途絶とぜつ――つながりません」

「ちっ」


 舌打ちすると同時にガレスまでも立ち上がる。


「行っちゃダメよ」

「見殺しにするつもりか?」

「どちらを?」

「は?」

「私は見殺しにする気なんてない。だから言っているの……ガレス副会長、行ってはなりません」

 

 ――もし行けば、夜明けの騎士きしの手によって殺される羽目になる。

 

「ヒーローメイカーを使わせたくないためだけに、普通ふつうここまでするか?」

「あのねぇ……」


 提案したのがカンラギだと言わんばかりの主張にあきれ顔になる。


我々われわれは協力し合って戦っているんだ! なぜ邪魔をする」


 熱り立つシズハラに、カンラギもいかりが込み上げるが、ここで一緒いっしょになってののしり合うのは時間の無駄であり、なにより目的が果たせない。


「協力ね……そうね。協力してもらうわ!」


 早々に通信を切り上がったのは、不毛な会話から逃げるためだとさとったカンラギは、うらやましく思いながら端末たんまつに指を走らせる。


 そうして、一部機能にロックをかけ、起動しているモニターを落とす。


「なにをする!」

「言ったでしょ? 協力してもらうわ!」

「どこが協力だ?」

「立派な協力よ? 相手のお願いを聞いてあげることも」


 何も共闘きょうとうだけが協力ではない。

 ラスターのお願い通り、来るなと言われたら行かないのも、協力である――のだろうか?

 本人がしたのは協力のお断りであったが、物は言いようである。


「このまま、ただ黙ってやつが死ぬのを見ていろと?」

「いや、見るのもダメよ?」


 そのために落としたモニターである。

 もし命を落としていた場合、そのことに気づけないと不便であるため、レーダーによる探知だけは認めさせたが、望遠カメラで戦闘シーンをとらえることは禁じられていた。


「ふざけ……」

「あと、黙ってでもないよ」

「なにが!」


 口を挟むヒヤマ会長に、ガレスが即座そくざく。


「どんなタイミングで帰還するかもわからないからね。申し訳ないけど、戦艦級の状態毎について、作戦を立てて欲しい」

「自分勝手なことばかり……」


 自分一人でやるから誰も手を出すな、そして姿の確認もするな。

 そんな横柄おうへい我儘わがままで神経を逆撫さかなでされ続けた上に、作戦を立てておけ――とは。

 両名とも納得がいかないが、ヒヤマ会長直々の命令ならば文句は言えない。


 それに……文句を言えない理由はもう一つある。


 すでに現状の戦力せんりょく分析ぶんせきは終わらせているが、これからもう少し時間が取れるのであれば、戻ってきた三回目の出撃隊も合わせた分析が可能になる。

 そして、戦艦級と戦闘の際に全戦力の投入ができるならば、生存率は更に上げられる。

 ナルギ等をふくめた負傷者に対するケアなど、やるべきこと、やりたいことはたくさんある。

 それでも、彼らにとって、言われた内容はムカつく事ばかりであったが。


「これ、ありがと」


 カンラギは黒いカードキーを、こっそりとヒヤマに差し出す。


「ん。君はどうするの?」


 会長権限の行使可能なカードキー――例えば、今カンラギがかけたロックであっても、これによって解除可能である。


「これから、周りの様子を見てくるわ」

了解りょうかい


 第二生徒会メンバーの後を追うように、カンラギも管制室から出た後――生徒会室へと向かうのであった。

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