第29話 夜明けの騎士―出撃

「ハッチオープン――行ける?」

「あぁ、問題ない」


 管制室に入るカンラギと通信を行いながら、ラスターは機体の設備チェック――トラブルシューティングを走らせる。

 項目こうもくが全て緑で表示されるパネルを見ながら、ラスターは再度宇宙に出る。


「……よろしくたのむね」

了解りょうかいした。コードネーム――夜明けの騎士きし出撃しゅつげきする」


 戦艦せんかん級が近づき――そして、三回目の掃討そうとう作戦のおかげで、静かになった宇宙へと飛び立つ。


「おいおい、武器はどうするんだ?」


 ヘッジハームを装備せず、けんとやらの武器もないまま宇宙に出たヴォルフコルデーをガレスが不思議そうに聞く。


「準備はちゃんとしてるわよ。そして――事前に言った座標に向かってもらえるかしら?」

「了解」


 通信機しのラスターは、返事をすると特に方向変換へんかんすることなく――打ち合わせ通りの場所へ機体を動かし続ける。


「さてと――」


 備え付きの電話を取り、ショートカット番号を入力する。


「お願いした準備はできているかしら?」

「あぁ、スカイミュールへの接続は一応したが……マジで使う気か?」

「マジよ。おおマジ」


 ニヤリと笑っていうカンラギに、電話越しの相手はため息をつきながら、出撃の設定を行う。


「準備できたぞ」

「ありがと、発進!」

「発射じゃね?」


 そういうと、無人の飛行型運搬うんぱん機――スカイミュールが飛び立つ。


「何だあれは……」

「どこが剣なんだ?」


 第二生徒会の会長と副会長は、飛んでいったスカイミュールを見ながら疑問をらす。


 五またにわかれた20mはあるロングバレルに、短い持ち手。

 明らかにじゅうとしての形を持った武器がスカイミュールによって運ばれていくのを見て二人は疑問に持つ。


 特に口をはさまないだけで、ヒヤマもおどろいてはいるのだが、そこはたがいの信頼度の差である。


「ワーム接近中、距離きょり9キロ、数50です」

「フルーレさん、聞こえる?」

「あ? あぁ……おれのことか?」


 カンラギに、名前? を呼ばれたラスターは困惑こんわくしながら聞き返す。


「夜明けの騎士って呼んで欲しかった?」

「いや……えっと、それはないが、なぜ?」


 ラスターの疑問に、管制室に入るメンバー全員――ではなく、カンラギ以外が首をかしげる。


「フルーレ=ブレガン。あなたの名前じゃないの?」

「えぇ、いやまぁ……そうなの?」


 そんな場にそぐわない――くだらない話をしながら、運ばれてきた銃を受け取り、それからスカイミュールは帰還きかんしていく。


「お前、本物の夜明けの騎士ではないのか!?」


 やっとこさ疑問に持ったシズハラが立ち上がって文句を言う。


「もしかして、その名前ってリトルナイトの主人公のことか?」


 リトルナイト――夜明けの騎士を元にした創作物であり、改変がひど嘘八百うそはっぴゃく出鱈目でたらめが並べ立てられているクソくだらつまらない物語。

 その主人公の名前がラスター=ブレイズでないのは知っている。

 

 だが――

 

(名前あったのか……)


 あまりにもにくらしくて、目をらし続けてた上に、異名の方がよく呼ばれるため、本名を知る機会はなかった――あっても知らずにすんでいた。


「やっぱ、あの話には嘘があったんだなぁ……」


 どこか遠い目でガレスも続く。

 信じてない! 信じられない! と言う割には、本当であってほしいと願う部分も持ち合わせていたのである。


「えっと……次の座標データ送るね」

「了解」


 銃を手にしたラスターは、そのままコロニー上部へと飛んでいき、管制室のメンバー全員に聞く。


「お前ら……リトルナイトって作品あるよなぁ?」


 両生徒会の会長、副会長、そしてオペレーター四人の計八名がここにいた。

 なお、ナルギ=シェーンは副会長代理ともあつかわれるが、一応れっきとした副会長として扱われている。

 そんな、めんどくさい立ち位置にいる彼女は、三回目の出撃時、機体損壊そんかいともなう事故で休養中――命に別状はないとのことであった。


「ったく、あんな内容信じるんじゃねーぞ! あれに書いてあることはほとんど嘘だ! 覚えておけ!」

「なっ!?」「やっぱり」


 シズハラが驚き、ガレスが頭を抱えながらも納得をする。

 こんな主張をする時点でリトルナイト足り得ないのは確定してしまった。


 優しく、素直で、可愛らしく、真面目で、礼儀れいぎ正しく――そして夜明けを行い、大人顔負けのReXの操縦技術を持ち、命懸いのちがけでひめを守り、どんな苦境でもあきらめない心を持つetc……


 願望と妄想もうそうまれすぎた、美化びか劣化れっかの盛り合わせセットである作品に、ラスターは心底うんざりしている。


「夜明けのくだりもどうせ嘘だろ? 夜明けを行ったことだけ信じてろ。あと呼び方はフルート=ブレ……なんちゃらでもいい」


 フルーレ=ブレガンという呼び名を覚える気もないラスターは許容する。


 ――夜明けの騎士と呼ばれ続けるのはずかしいし、本名は間違まちがっても知られたくない。


「距離5キロになったら教えてくれ」

「は、はいフルート様。現在距離7キロです」

「……そうか」


 早すぎる情報に苦笑しながら、ラスターは目標地点であるコロニー上部へと飛んでいき、最初にシズハラが狙撃そげき場所として陣取じんどっていた位置に着く。


「ここか?」

「そこよ」

「なにするつもりなんだい?」


 ラスターと話すカンラギに、ヒヤマ会長が質問する。


「ふっ、それはね――」

 

 ガコン――ウィーン

 

 カンラギが得意顔で語ろうとすると、管制室のドアにだれかがタックルする音がひびき、そしてドアが開く。


「いてて。あれ、あれ使うって本当ですか!」


 白衣をまとう背の低い男が部屋に興奮しながらやってきて、回らない口を必死に動かしながら、カンラギに問いただす。


「まさか、ほんと、本当にですか? 本当に使ってくれるんですか?」


 目をかがやかせながらやってきた研究員は、驚きのあまり本当かどうかを連呼し続ける。


「もちろん、といっても、今やってくる敵の露払つゆはらいに使うだけだけどね。せっかく、あれを使いこなせる人間がいるなら……ぜひ使わせてみたいじゃない?」


 研究者としての性を容赦ようしゃなく優先しながら、カンラギはニッコリとうれしそうにしながら答える。


「それで、これを差し込めばいいんだな」

「は、はい!」


 ラスターの質問に、研究員は条件反射でうなずく。


 スカイミュールによって運ばれてきた銃――もとい、ブラックホールランチャー。


 コロニーで使われている技術、重力発生装置の応用で、遠方に重力生成力場を無理矢理発生させる装置である。

 遠い場所で発生する重力は安定性というもが欠けているので、未だ商用としては使い物にならない。しかし、ワームビースト相手だと、発生する重力に巻き込んでたおせる出力さえあれば、不安定であろうと問題ない。


 とはいえ、他の問題は数多くあり、その一つに消費電力の大きさが挙げられる。

 普通ふつうに撃ったのならば、乗っている機体――ヴォルフコルデーはろくな活動もできぬまま機能停止する。


 つまり――


「だから、ここで陣取っていたのか……」


 通信機に声が入らないようにしながら、ラスターはぼやく。


 今立っている場所の足元には、コロニーから電気供給が可能な、黄色い円状の差し込み口がある――早い話がコンセントタップとも言えよう。


 そして、シズハラがこの場所で狙撃していたのは給電のため。


 一発で仕留めるために、それなりの高威力いりょくほこるビームを飛ばしていた。


 つまるところ、めちゃくちゃ電気を食うわけだが、結局交代際まで居座れた理由は、ここから充電じゅうでんしていたからである――もちろん、うでがいいから残れたのは言うまでもないが。


「距離5キロ!」

「了解!」


 オペレーターの通知に、ラスターは返事をすると、ブラックホールランチャーの背面からプラグを引っ張り、地面に差す。


「フルーレさん! 標準を合わせたら教えてくださいね」

「了解――ターゲット、ロックオン完了」


 カンラギの要請ようせいに、ラスターは素早く応える。


「補足説明は――彼に任せるね」

「よ、よろしくお願いします!」

「誰?」


 いきなり現れた知らない人――先ほどやってきた研究員が誰か聞く。


「グラガム=アルセイくん――ブラックホールランチャーを作った人よ」

「ブラックホールランチャー!?」


 ラスターが質問するより早く、ガレスがさけぶ。


「そんなものがあったのか……」


 そのとなりでシズハラも、カンラギが率いる研究メンバーの作品に驚く。


「えっと……まず標準を――」

「合わせたぞ」

「は、はい。じゃあ次は固定を――」

「了解」


 コロニーの上にReXを固定すると、クソ長バレルの先を左手で支える。

 宇宙空間上であっても、コロニーで発生している重力の影響えいきょうを少なからず受けるためであった。


 そうしていると、土台にしているコロニー自体から棒が出てきて、バレルにくっついて固定されてしまう。


「なんだこれ?」

「あっえっと、すみません。これは中で発生する重力子場を遠隔えんかく処理に――」

「はいはい、今はピンチ……ではないけど解説はあとね」


 なぜ固定するのか、長い説明が始まりそうなタイミングでカンラギが止めにかかる。


「ちょっとぐらいならいいけど、派手に動きながら撃つと、それ自壊するのよ」


 中で発生する重力力場の位置ずれによって、うんたらくんたら――と話しても理解できない内容は割愛される。


「距離4キロ!」


 だんだん近づいてくるワームビーストに興奮気味にオペレーターが言う。


「えっと、準備してください。射程は約3キロで、」

「了解。チャージ開始」


 トリガーを一度引くと、中のバレルに光が灯り、給電が始まる。

 ブラックホールランチャーの発射準備が進んでいくと、ガレスがあることに気づく。


「ブラックホールの影響ってこっちにないのか?」

「もちろんあるわよ!」


 それが最大の欠点――であるが、今回は二人の視点は違う。

 カンラギは戦場の話で――ガレスはコロニー内の話である。


「じゃあ……物が引っ張られたりとかするんじゃ?」

「……あっ!? フルーレくん! 発射禁止!」

「おぉー」


 あわてながらでも、ちゃんとフルーレくんって呼べることに感心しながら、ラスターは発射ボタンから指を離す。


「えっと、あの……距離3キロ!」

「しゃーねぇ。このままむか?」


 オペレーターのおびえる声にラスターが提案する。

 このまま射撃を止めて、ワームビーストの五十体ぐらい処理するぐらい他愛もない。


「いえ、大丈夫だいじょうぶよ」


 カンラギはそう言って、マイクを手に取り、校内放送で呼びかける。


「各員、衝撃しょうげきに備え! 近くのシートベルトを着用しなさい」

「どうする?」


 乗員への警告は聞いたが、すぐに行動に移しても、一秒や二秒でできることではない。


 そして、すでにブラックホールランチャーの発射は秒読み――今からでも辞めることはできるが、コロニーとて無限にエネルギーがあるわけでもなければ、再発射には、たとえ発射をしていなくても、インターバルを取らなければならなかった。


「大丈夫です! 重力波の影響はすぐには出ません。そのころには……多分……」

「そう、問題ないわ」


 管制室の窓越しに、カンラギは様子を見る。

 慌てふためいた様子ではあるが、それで怪我けがする間抜まぬけもいなければ、ボケッとしているトロいやつもいない。順調に準備は進んでいる。


「もうすぐ距離2キロ!」

「了解――」


 ラスターはばした指を再度曲げて、トリガーにかける。

 すでに発射準備はできており――あとは重力遠隔発生装置が、オーバーロードを起こす前に使用するか、止めるかのどちらかである。

 そして――


「撃て!」


 カンラギの号令に合わせて、ラスターは引き金を引いた。

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