第23話 騎士への願い

「それでも、本当にしたことを私は知っているわ。お願い、私たちを助けて」


 カンラギはぎゅっと胸元で両手を合わせて、いのるようにたのむ。

 そんな真剣しんけんなお願いを前にしても、ラスターはどこか他人事……というより虚空こくうを見上げた後に、首をかたげて聞き返す。


「何しに来たんだ? お前?」

「えっ? だから……あの……」


 カンラギはわけがわからず混乱するも、すぐに落ち着きをもどし、順序立てて話し始める。


「夜明けの騎士きしであるあなたの力を貸してもらい――」

「力を貸して貰いに? なぜ、来んだ?」

「えっ?」


 目をぱちくりさせ、どういう意味か考え……理解出来ぬまま、動きを止める。


おれに力を貸して欲しいんだよな?」


 カンラギはこくりとうなずいて答えて見せる。


「そのために、お前はここに来たって言ったよな?」


 数秒ほど考え、意味をくだき……肯定こうていとばかり首を縦にる。


「お前……俺は何しにここに来たと思ったんだ?」

「それは……」


 じっくりと考えながら、物事のあらましを手繰たぐり寄せていくが、答えに到達とうたつするよりも早く、不快な話をさせられたラスターが爆発ばくはつする。


「そもそも俺は、お前らを助けるために、わざわざここまで来たんだよな? それなのに力を貸せだ? だったらだまって見ておけよ。俺がヘソを曲げて、乗るのをやめるかもしれないだろ! よくも来れたもんだなぁ!」

「あぁ、ごめんなさい。……ふふっ」

「あぁ?」


 かすかにらす笑い声を、目敏めざとく見つけたラスターは苛立いらだちを乗せて威圧いあつする。


 ……どうしましょう。


 カンラギとて笑うつもりはなかったのだ。

 しかし、彼の行動が要所要所で、非常に幼いところを見せるせいで、ついついこたえきれなくなってしまった。


 夜明けの騎士という名前に似合わず子供っぽい行動が、どこかおかしくて――しかし、


(そもそも、夜明けの騎士なんて呼び名が付いていた時は、まぎれもなく子供か……)


 むかっとした不快感を見せながらも、カンラギの様子を疑うラスターに、これ以上謝罪を重ねるのはあまり効果的ではないだろう――笑ってしまったのだから尚更なおさら


 相手が子供であると思うなら、協力をもらう方法はまだある。


 何よりもラスターは一つ間違まちがっている――もし本当に、協力だけを求めに来たのならカンラギはここに来る必要がない。それなのに来たのは、つまりはそういう事であった。


「私達は力を貸して欲しくて、こちらに来たの」

「だから貸してやるよ」


 どこまでも不愉快ふゆかいそうにめ付けながらも、ラスターは同意を答える。

 しかし、想像以上に認めたがらないせいで、思わぬ問答もんどうを繰り広げる羽目になったが、本題はまさしくこれからなのだ。


「私はね? 力を貸して欲しいの――」


 どことなく上から目線で、不遜ふそんを装いカンラギは言う。


「貸せるの? それ……で」

「なにが、言いたい?」


 ゾッとするような殺気を出したラスターに、カンラギは言葉にまってしまう。


 身のすくむような恐怖きょうふ、それだけで人を死に至らしめる殺気。

 指一本たりとも体にれぬまま、首をけられるほどの痛みは錯覚さっかくするほどで――カンラギは恍惚こうこつとしながら受け入れる。


 そもそもさぶり混じりの挑発ちょうはつであり、むしろこの程度は想定内であった。

 なによりも、本物の夜明けの騎士足り得ると確証を感じられたことこそ、身をむしばむ痛みなど、どうでも良くなる心地よさである。


「失せろ」


 殺気の残滓ざんしきながらも、目線を外して冷たく告げる。


「あなた……死ぬ気?」


 どちらかと言えば、こんな馬鹿ばかな質問をするカンラギの方が、自らの寿命じゅみょうを縮めているようなものだが、興奮であふれ出すアドレナリンに身を委ね、強気に質問する。


「……そんなつもりはない」


 先程の強気な態度は形をひそめ、本人にもこのままでは死ぬ自覚はあるが故に、感情をかくして淡々たんたんと返す。


「あなたの実力を信じている……だからこそ、私はあなたにはコレに乗って欲しいの」


 カンラギはヘッドフォンのハウジング部分を押すと、中から板が現れる。

 そして、その三つ折りの板を開くと、そこにはどこかで見た機体が表示されていた。


「……スマホ?」


 しかし、ラスターは表示されている機体をわきに置いといて、なぜヘッドフォンの中から、スマホが出てくるのやらと不思議そうに見つめると、そんな様子にカンラギもどこかうれしそうにしていく。


「良いでしょ!」

「そう……か?」


 というより、ヘッドフォンを首にかけている理由は、スマホ入れの代わりだったりするのか? ……今は耳につけっぱなしのままであるが。


「それよりも! コレ!」

「あぁ……うん。そうだな」


 折りたたみスマホに映し出されたのは、ヴォルフコルデー――昨日の写真でみた元一番隊隊長のReXである。


「あなたにはこれに乗って欲しいの!」

「!? まだあるのか?」


 どの隊長も、この機体に乗っていなかったので、死んだ隊長とやらと一緒いっしょに天にされたとばかりにラスターは思っていた。


「えぇ、修理はしたんだけど、だれにも操りきれないのよ」

「なら、なんで直したんだよ……」

「ここが学園コロニーだから?」


 あらゆる無駄むだの言い訳を、学園コロニーだからで済ませるのもどうかと思うが……


「しかし――」

「当然、武装もちゃんとあるわよ!」


 あごをクッと上げて、ラスターの主張をさえぎると、カンラギはドヤ顔で言い切る。

 まさに至れりことごとくせり――それが、ラスター用の武装であるとするならば……


「なんか時系列おかしくね?」


 夜明けの騎士という呼び名を知っていながらの武装――であるなら用意される武器は剣であろう。


 ……なんでご時世に、剣の武器が用意できてるんだ?


 たとえ一週間前から気付いていたとしても、ビームライフルならいざ知らず、剣の用意ができるはずもない。


「……?」


 ラスターの質問を理解しきれないカンラギは、不思議そうな顔をして首を傾げる。


「ロマン?」


 首を傾けたままカンラギが答える。

 それらが意味するのは、この学園で一番の性能をほこる、自慢じまん用途ようとにしか使えないReXを指すのか、この世でろくに使い手のいない剣を用意する行為こういを指しているのかはわからないが……どちらであっても伝わる解答が返されてしまう。


「ロマンねぇ……」


 学園コロニー全体がこうなのか、スーデンイリア特有なのかはわからないが、やりたいことをやるあまり、使い手がいるかどうかを忘れる人達が多いということだけは分かった。


「もう起動するための準備は済ませているわ。あとは――あなたの手に馴染なじめばいいんだけど……」

「まぁ、大丈夫だいじょうぶなんじゃねーか?」


 整備の面や機体性能の低さに不安があっても、基本的な内装や感触に関しては多分問題ない。


 基本的には規格の統一はされている……はずであるが、やはり別コロニーのReXに乗れば、そのコロニー特有のくせや内装がされていたりするもんである。

 だが、同郷の人間が持ってきたヴォルフコルデーなら、ラスターにとっても使いやすいままであろう。


「そう、あなたがそう言うのならちょっと安心」


 嬉しそうに微笑むと、カンラギは後ろに向かって歩き出す。


 そもそもカンラギは、この交渉こうしょう――否、プレゼントがしたかっただけだと言うのに、やれ騎士じゃないだの、根拠こんきょを示せだのと、えらく……えらーく遠回りさせられており、後ろを向いた合間に、ひっそりとため息をつく。


 偶然ぐうぜんに見せかけた仕込みまでバレたりと散々であったが、なんとか目的を達成できたのは僥倖ぎょうこうと言えよう……とは言えないために漏れ出る溜息ためいきであったが、なんとかここまでたどり着いた。


「じゃあ、ついてきてくれる?」

「――了解りょうかい


 ラスターとしても、今更無意味な抵抗ていこうをすることなく、後ろについていた。

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