第14話 下山

 小屋まで降りて一休みする。

「夏道ヤバかった」

「夏道行ったの! ダメって言ったじゃん!!」

「視界が悪くて」

「まあ、無事で良かったよ。帰ってこなかったらどうすれば良いか考えてた」

「電波通じるから警察に通報してもらえれば」

「そういうことじゃないからっ!!」


 話しながらトンネルを抜けると

「こんなところ歩いたっけ」

 ミユが携帯で地図を見る。

「違う」

「あっ、そうだトンネルの脇から川に降りるんだった」

 トンネルを戻って、悪いところを登ったのを思い出した。

 慎重に降りる。

 

 川を渡り、山の下へ着くと竹竿を持った二人組が荷物を下ろして休んでいた。

 話しかけると

「俺たちはもう限界で、ここで泊まります」

「ここまで来て? 私達は降りる」

 元気そうにしゃべっているミユはだが、ここからの登り大丈夫かなと。


 登り始めてすぐに暗くなりヘッドランプを付ける。

 しかし電池が減っていて暗く、ルートを探せない。

 ザックの底の予備電池を取り出す。

 自分の水を飲みきっているミユに水をあげた。

 相当疲れているな。

 道を探しながら登る。


 以前、近所の小山で夜登山をしてみたが、知っている山なら良いが知らないところは難しいなと。

 樹林帯は道がわかりにくいところがたびたびある。

 凄く明るいヘッドランプを使えば良いのだが今回はそれは持っていない。

 道を間違えながらなんとか抜けて、頑張ってゆっくり登ったミユにハグしたい気分になった。


「ミユさん林道に出たよ」

「良かった。今までで一番疲れた。サトル、ルーファイ(道探し)と水ありがとう」

「ミユさんも頑張った。感動しました」

 少し見つめ合って、休んで、最後の林道を歩く。


 疲れている中、黙って長い林道を歩くのも嫌だったのでミユにいろいろと話を聞きながら歩くと割と時間が短く思えた。


 そして駐車場に着いたときは泣いていたと思う。

 20時だった。

 一時間遅れた。

 長かった。

 一泊登山だったが二泊した感じがした。

 携帯の電波が入り仲間達から連絡が来た。

 生還した。

 

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冬の北岳で死にかける 最時 @ryggdrasil

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