第7話 登山

 9時半。

 一休みしてここから登りが始まる。

 やはり雪がなく土が出ている。

 異常だな。


 少し登ると雪が出てきたが、まだ所々の柔らかい雪で傾斜も緩いのでそのまま行く。


 一時間ほど歩くと雪がしっかり積もっていて登りなのでアイゼンを着けて休憩。

「サトル。雪少なそうだね」

「チャンスだと思う」

 まだミユも元気だった。


 そこからさらに一時間半ほど歩くと傾斜は緩くなって、そして平になり、小屋が見えてきた。

 12時半。

 中をのぞくと一段高くなった床にはもうテントが何張りかあって、床の上で寝るのはスペースが難しいそうな感じだった。


 山では譲り合いもあるが、早い者勝ちでもある。

 あとから来た人は外でテントだろうなと。


 なぜ小屋の中でテントを張るかというと、寒さを防ぐためだ。

 小屋と言っても一時の避難小屋といった感じに近い。

 雨風を防ぐことが出来るだけで断熱性はほぼ無い。

 より快適に寝るために混雑してない時は小屋の中でテントを張って少しでも暖かくすると言うのは良くある。

 と言うテントもそう断熱性のある物ではないのだが、冬期に使うスーノーフライ雪用外張りはある程度空気や熱を遮断して、体温でテントの中の気温が上がる。


 一休みしてさらに登る。


 調べたとこによると、尾根に上がった砂払いというところがテント適地らしい。

 そこまで行ければ明日楽だなと思っていたのだが、ミウが遅れ始めた。


 そこへ降りてくる人がいた。

「こんにちは」

「こんにちは。登れましたか?」

「ええ」

「天気良かったですよね。いいなあ」

「はい。明日はわからないですよね」

「そうなんですよね。行けるとこまで行こうと、今日は小屋泊まりですか?」

「いえ、もう降ります。」

「そうなんですか。けっこう遅くなりそうですよね」

「ええ。実は日帰りなんです」

「んっ? 何時に出たんですか?」

「三時前くらいですね。」

「へえ~。凄いですね。お疲れさまです」

「お気を付けて」

 変態だ。

 いろいろと趣味をかじっているが、どの世界でも変態はいる。

 ただ、冬は天気が安定しないので能力さえあれば天気のいいときに速やかに登るというやり方は有効な手段だ。


「今の人、3時発で日帰りで登ってきたらしい」

「私知っているかも。有名な人じゃない」

「そうなんだ」

 山のSNSで情報を配信してくれる人が居る。

 主観的に書かれている物は鵜呑みには出来ないが参考になってありがたい。

 見させてもらうだけでなく、あまり書かれていないルートを行った時などは情報を出した方がいいかなと考えてはいるのだが、手間を考えるとなかなか出来ない。


 小屋から先の登りはミウがどんどん遅れ始める。

 ミウも多くの人が1、2泊するルートを午前1時2時とかに出発して日帰りする変態ではある。

 人と違うことをして優越感を感じることが出来るのかなと。

 ただそれは夏山の話で、女性が冬のテント泊装備を持って登るのはけっこう大変なことだとこのとき気づいた。

 もっと装備を共用すれば良かったなと。


 この時点で砂払いまで登ることは諦めて、テント張るのに良い平地を探しながら登る。

 狭めで少し傾斜があるが設営できそうなところを見つけて、ミウに提案するとミウはスマホ取り出して確認する。

「もう少し上にいいところあるみたい」

 SNSの軌跡をダウンロードしてスマホのGPSで現在地とあわせてみることが出来る。


 令和だな。

 登山も便利になった物だと。

 そして確かにいいところがあった。

 平で、樹があって、風も受けない一等地だ。

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