第6話 初雪

  地図を見ると鷲住山を降りて、そこにある水力発電所の橋で川を渡るようだ。

 林道を外れ鷲住山に入る。

 そして下る。

 

 しばらく歩くと雪が出てきた。

「ようやく」|

 ようやく出てきた雪だが雪と言うより、雪が解けて凍った氷だ。

 雪が少ないとこういうことがある。

 チェーンスパイクを靴に着ける。


 鉄爪のアイゼンもあるが、傾斜の緩いところで所々出てくる氷を交わすくらいならアイゼンより軽いし歩きやすい。

 しかし所々急な坂で凍っているところはチェーンでは心配で、慎重に降りる。

 夏場なら何でもない坂でも、この凍った坂で転ければ続行不能な怪我を負う可能性はまあまあある。


 重量を抑えるため僕はこれまであまりチェーンスパイクを持たなかったが、今回は出番があるだろうと持ってきた。

 ただ、使いどころは長い林道で凍っているところがあるんじゃないかと思っていたのだが、こんなに雪がないとは。


 使い慣れておらず、チェーンを信用しきれない僕は慎重に降りていくが、ミユはすたすた降りていく。

「サトル大丈夫?」

「使い慣れてないので」

 ミユは再び心配とあきれで、ため息をついたように見えた。

「すみませんねえ~。くそっ」

 と心の中で思った。


 山を下りて川に着き、幅1mもなさそうな細い吊り橋を渡る。

 山を下りるのに1時間半。

 帰りはこれを登るんだなと。

「はあ~。嫌だな~」

 元気なときならまだしも最後にこれかと

 

 橋を渡って対岸の林道へ上がる。

 これがまた登りにくくて悪い。

 帰りにここ降りるのやだなと。

 細かいことと言えばそうなのだが、ホント来てみないとわからない。


 それから30分、隧道すいどうと呼ばれる古いトンネル。

 当然真っ暗でライトを点けて行く。

 話し声が響く。

 トンネルをを二つ抜けてあるき沢橋バス停。

 北岳登山口に着く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る