ありふれたエレジー
星影雪吹
ありふれたエレジー
はぁ。
白い
最近、何事も上手くいかない。何事も、は言い過ぎだろうか。でも、それぐらい悪い方向に転がることが多い。今日は寝坊した上に電車も遅れて遅刻する羽目になった。そこまではまだいい。大問題ではない。じゃあ、何がいけなかったのかというと一限目が数学だったことだ。うちの数学教師は何かとつけて
そんなわけあるか、と誰かが言った。
強い伊吹おろしが頬を掠る。そこからじわじわと口や目、頭皮を凍らせ、冷気は首を通って身体全体の表皮を凍結させた。
「いいかげんにしろよ、お前。」
その声とともに浅く吸い込んだ雪の破片が、気管、肺胞、肺、心臓の順に凍てつかせた。次第に臓器も凍り、毛細血管の先端までが氷と化した。
『お前』というのは、きっと俺の事を指しているのだろう。誰がそんなこと言ってるんだ? 振り向いても誰もいない。あるのは、煤けた家々のみ。
そうか。これは、もう一人の俺だ。
「身の程をわきまえろ、被害妄想野郎。」
どうやら彼は、俺が自分が不幸だと言ったことに怒りを覚えたらしい。何故?
「これぐらいの不運、誰しもが経験する道だ。お前の悲しみなんざ、自然のサイクルの一端に過ぎない。」
彼の言葉は気持ち悪い程鋭く、冷えた俺の身体を痛々しくエグる。彼の声は事実を淡々と突きつけているように、感情が感じられなかった。
彼の言葉が正しいのなら、俺には嘆く権利さえないということになるのか?
「そうだよ。」
驚いた。そういうわけじゃないと否定されると思ったのに、ぴしゃりと肯定された。いや、俺は望んでいたんだ。権利はあると信じていたから。それを合っていると言って欲しかった。彼の言う通り、俺はとんだ被害妄想野郎だ。俺よりも不幸な人間なんて、この世界には億単位の人数がいる。そんなことわかってるのに。それでも自分は不幸だと思い込んで、誰かに慰めて貰いたいのか? そこまでして、特別扱いされたいのか?
わからない。わからない。わからない。わからない。わからない。わからない。わからない。わからない。わからない。わからない。わからない。わからない。
だんだん呼吸ができなくなってきた。嗚咽が喉の底にたまっている。出したいのに、出せない。まるで、誰かに止められているみたいだ。
もうやめよう、自分を責めるのは。自己嫌悪なんてキリがないだけだ。
俺は、黒く汚れた泥沼を歩くのだった。
ありふれたエレジー 星影雪吹 @ho-shi-yu-ki
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