第4話 玄関のドアの鍵が壊れて不審者が入ってくる夢

 夢、と書いたが、これはある意味現実、というか幼少期の実体験に基づいていているので、ある意味現実の再現に近い。

 しかも現実に起こっていたことを今振り返ってみると、夢よりずいぶん性質が悪かったと思う。

 幼いころの自分語りになるが、当時、実家の経済状況は厳しく、私たち一家は公営のアパートに住んでいた。

 昭和の公営アパートだから、壁も薄く、防犯についても意識が低いものであった。

 玄関のドアの鍵は一応は機能していたが、それが大変に粗末な鍵で、ちょっと知恵の回り、かつ鍵の構造を知っている者ならば(それこそ中学生以上ならば)わずかなツールで開けられる代物だった。

「こんな簡単な鍵、すぐ開けられちゃうじゃん。真世ちゃん怖くないの?」

 私に初めてできた友達(のちの親友は)そう言って、特別な時以外、夕方以降は絶対に私の家には滞在しなかった。その子に言われるまで鍵を開けられて、直接的に怖い思いをしたことはなかったものの(とはいえ、開けられそうになった……つまり、未遂のことはあった)その子の言葉で、自宅の住環境が良くない、もっとはっきりした言葉をつかえば「やばい」のだと、実感した。


 そんな背景をもつ私が繰り返し見る夢は、現れる登場人物は少し変わるものの、その背景は変わらず、厚かましい者……例えば遊びたくない子どものそれであったり、ストーカーじみた男であったり、刃物をもって奇声をあげる女だったりする。

 彼ら、彼女らは玄関のドアを押し入って、私がいる(夢の中ではたいてい、家族は留守にしていて、私一人か、居ても頼りない幼い弟一人だけ、という設定が多い)屋内に入ってこようとする。

「開けて、開けて?」

 と甘ったるい声や、悲痛な声、しゃがれた声で懇願する。そして、それでもドアを開けないと、その声は次第に怒号になっていく。

「開けろ! 開けろ!」

 どんどんどん! と大きな音を鳴らしてドアを叩く不審者。

 私はドアの内側でなけなしの体重を、背中越しにそのドアに傾けながら心の中で願っている。

(お願い、鍵が壊れていることに気が付かないで……!)

 と。


 だが、願いむなしく、夢の中で、不審者たちはみなそろって私が一生懸命閉じようとしている扉の鍵が機能していないことに気づいてしまう。


「なあんだ。すぐに開くじゃないか」


 にたっと笑った不審者に押し入られ、尻もちをついて、私は部屋の窓まであとずさる。


 その足を不審者に掴まれて目を覚ます時もあれば、

 自ら、窓の外に身を投げ出して目を覚ます時もある。

 なぜか窓のそばに落ちていた鋏を握りしめ、不審者の腿に突き立てて、その意外と抵抗のない柔らかな肉の感触に目を覚ます時もある。


 一番怖いのは、幼い私が、自宅の鍵を開けられそうになったことは覚えていても、

 それをどう解決したか(電話を使うなどどうにかして大人を呼んだのか、相手があきらめるのを待ったのか、それともほかの手段を用いたのか)

 ほとんど覚えていないことなのだけれど。

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ゆめにっきー夢日記ー 福倉 真世 @mayoi_cat

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