41. 微かな望み

41. 微かな望み




 ハリーさんの話を聞いたオレとリリスさん。準備をして、明日の早朝に霧の谷へ出発することになった。


 それにしても運命の人か……なんかそういう人がいるのは羨ましいな。でも違った意味でリリスさんはオレの運命の人かもしれないな。まさかギルドマスターになるなんて思ってなかったし。そんなことを思っているとリリスさんが話しかけてくる。


「さて。それじゃ行きましょうか」


「え?どこに?」


「ほらエミルくん!早く行きますよ!」


 オレはリリスさんに強引に腕を掴まれ、引っ張られていく。


「ちょっと待ってリリスさん!」


「もう~。時は金なりですよ!つべこべ言わずにさっさと歩いてください!」


 リリスさんに無理やり連れていかれるオレは、そのままギルドを出ていく。そしてしばらく歩いてリリスさんは立ち止まる。


「よし到着しました」


「ここは……?」


 目の前にはこの王都でも有数な貴族のお屋敷。外観はすごく立派で、いかにもお金がかかってそうな感じだ。


「ここが目的地、ローラ=セルナード嬢のお住まいですよ」


「ここにローラ嬢が?ってなんでここに!?」


「そんなのローラ嬢に会うために決まってるじゃないですか?それ以外に何かありますか?」


 オレとリリスさんが入り口で話していると、メイド姿の女性がこちらにやって来る。


「あの何かご用でしょうか?」


「あっえっとその……」


 オレが戸惑っているとリリスさんがとんでもないことを話し始める。


「実はお嬢様が探している宝石をお持ちしました。なのでぜひお会いさせていただきたく参りました」


「あなたが宝石を!?……分かりました。では付いてきてください!」


「じゃあ後は頑張ってくださいエミルくん」


「はい!?」


 リリスさんはとても悪い顔をしている。


「いやいやいやいや。何を言ってるんですか!?」


「ローラ嬢にも話を聞く必要があるじゃないですか?ハリーさんが本当のことを言っているか分からないですし、そんなこといちいち聞かないでください。それにエミルくんはギルドマスターなんだから、この銀髪美人の部下の私が受けた依頼の面倒くらい見てくださいよ。使えないですね。」


「ちょっ!いくらなんでも酷すぎませんか?」


「大丈夫です。もし失敗したとしても私がお墓くらいは建ててあげますよ。ほら早く行かないと!私はギルドで待ってますから」


 リリスさんは笑いながらそう言うと、そのまま行ってしまう。……マジかよ。


 オレはそのまま女性に案内され、ローラ嬢の部屋へと通される。そして扉をノックすると返事が返ってくる。


「失礼します。ローラ=セルナード様にお客様がいらっしゃいました。」


「どなた?」


「どうやら例の宝石をお持ちしたとのことです」


「まぁ!」


 部屋に入るとそこには椅子に座っている1人の女性がいた。


「……それで?宝石を持ってきたのはそちらの方かしら?」


「はい。この方です」


「そう……ありがとう下がっていいわ。」


「承知いたしました。」


 そう言っていきなりローラ嬢と2人きりになる。マジでどうしたらいいんだ!宝石なんてそもそも持ってないし!有力貴族の令嬢に無礼をはたらいてオレここで死ぬのか?どうするどうする? オレがあたふたしてるとローラ嬢が口を開く。


「座ったら?立ってても疲れるだけよ」


「はい!すいません!」


 オレが慌ててソファーに腰かける。ローラ嬢も向かいの席に座り、紅茶を一口飲んでテーブルの上に手を組んで話し出す。


「ここはセキュリティがしっかりしている。変なことさえしなければ、誰も入ってこないはず。あなたは私の探している宝石を知ってるはずがない。若すぎますわ。嘘までついて、ここまで来たんですものね?一応話くらいは聞いて上げますわ。ちょうど暇していましてよ?」


 バレてる……。これは下手な言い訳しても無駄だな。仕方がない正直に話すか。


「ご挨拶遅れて申し訳ございません。オレはギルド『フェアリーテイル』のマスターをしてますエミルと申します。実はあなたの宝石の在りかを知ってる人にそれを取りに行く依頼を受けています。細かいことは守秘義務がありますのでお話できませんが」


「まぁ!本当に!?」


 ローラ嬢は驚いた表情をする。


「はい。それで事前にその人に聞いた話があっているか確認したいのですが、よろしいでしょうか?」」


「まさかこんなに簡単に見つかるなんて思いませんでしたわ……。正直諦めていた……これも運命というものかもしれませんわね!もちろんいいわよ」


「ではまず、探している宝石というのは霧の谷のドラゴンの体内にあるもので間違いありませんか?それを幼少のころローラ嬢が失くされた」


「ええ。間違いないわ!本当に……あの時のあの人が……?」


 ローラ嬢は涙を流しながら、とても嬉しそうな顔を浮かべている。ハリーさんの言っていることは正しいようだな。


「あのエミルさん。期限は明日の夕刻。……時間はあまりない。それでも……私はまだ微かな望みを持っていていいかしら?あの人ともう一度会うという願いを!」


 そう力強くオレに言うローラ嬢。オレはその姿を見て不思議と言葉が出ていた。


「……はい。オレたちギルド『フェアリーテイル』が必ず明日の夕刻までに、宝石を持ってきます。だから信じてください!あなたを必ず幸せにしますから」


「そう……ありがとう!」


 オレの言葉を聞いたローラ嬢は涙を拭うと、笑顔でオレの手を握る。その手はとても温かい。そしてローラ嬢の瞳は微かな望みを信じて真っ直ぐオレを見つめていたのだった。

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