40. 運命の導き

40. 運命の導き




 そしてリリスさんと男性はギルドの奥の席に着き、オレはお茶を出し話を聞くことにする。


「どうぞ」


「ありがとう」


 オレがその男性をよく見ると、結構高そうな服を身に付けている。もしかしてどこかの貴族か?そんなことを考えながら紅茶を一口飲むとリリスさんが話し始める。


「それでお兄さん。そこまでして霧の谷の依頼を受けたい理由はなんですか?まさかとは思いますが自殺志願者ではないですよね?それなら私がサクッとやってあげますよ?」


 いやリリスさん。さすがにそれは無いだろ。いくら何でも死ぬために依頼をするなんてありえない……はずなんだけどな。もしかして本当にありえる?


「いや違う。本当はその依頼も受けるつもりはないんだ。実は霧の谷にはドラゴンが住み着いていてな。そのドラゴンの体内にあるものがあるんだ。それをどうしても取りに行きたくて……」


「あるもの?」


「ああ。それはどんな魔法でも決して、その輝きを失うことのない宝石なんだ。」


 そんなすごい物がなんでドラゴンの体内に?オレがそんなことを考えていると、そのままその男性は話を続ける。


「……私は幼い頃、名も知らない貴族令嬢と霧の谷に遊びに行った時に偶然ドラゴンに襲われてしまったのだ。その時に、彼女が持っていたものがその宝石。私はずっと後悔していた。でも私は運命に導かれ再び出会った」


「運命の導き?」


「ああ。彼女はローラ=セルナード。この王都でも有名な有力貴族の令嬢だったんだ。彼女は昔と変わらず美しいまま、私の前に再び現れた。そう……彼女は私を探していたのだ」


 探していた?どういうことだ?なら会いに行けばいいんじゃないか?


「彼女曰く『私の大切な宝石を持ってきた者と結婚する』と父上に言ったらしい。それが叶うなら結婚してもいいとも。しかし彼女の父親は期限までにその者が現れなかったら、自分の決めた者と結婚しろ。という条件を出したんだ。そしてその期限は明日の夕刻。」


「つまりお兄さんはそのローラ嬢と結婚しようとその霧の谷のドラゴンを討伐したいわけですね。」


「ああ。だが話をしようと、有力貴族の彼女の住む屋敷に行っても門前払いされる始末……彼女は私にとっても運命の人なのだ」


「なるほど。話は分かりました。ただ1つ聞きたいことがあります。なぜこの『フェアリーテイル』に依頼しようと思ったんですか?もっと有名なところはたくさんあったと思いますけど?」


 そう聞くと男性は少し暗い表情になり話す。


「最初は他のギルドにも頼んでみた。だが誰も引き受けてくれなかった。私は自分の力でなんとかしようと思ったが、力及ばずここまで来てしまった。それでも諦めきれなかったのと、初級冒険者大歓迎のギルドの噂を聞いて、もしかしたらと可能性を感じたんだ。どうか!お願いしたい!」


 そう言って再び頭を下げる男性。どうやら本気のようだ。そんな様子を見てリリスさんは少し考えたあと口を開く。


「う~ん。まぁいいでしょう。あとこの依頼の報酬はそのまま私が貰います。ドラゴン討伐ついでに軽くこなしましょうか」


「本当か!?」


「ただし条件があります」


「条件?」


「はい。依頼遂行中はお兄さんの覚悟を見せてください。それが条件です」


 リリスさんがそう言って微笑む。


「もちろんだ!よろしく頼む!」


「あ。そう言えばお兄さんお名前は?」


「そうだった。すまない申し遅れた。私はハリー=バーミリオンだ」


 というかドラゴン討伐って軽く言ってるけどリリスさん大丈夫なのか?……まぁリリスさんにできないことはないんだろうけど。こうしてオレたちはドラゴンの体内にあるとされる宝石を探すため、霧の谷に向かうことになった。

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