8. 勧誘チャンス

8. 勧誘チャンス



 そして翌日。ギルド『フェアリーテイル』の入り口には『臨時休業』の張り紙が貼られていた。


 そう。今日はリリスさんに連れられてどこかに向かっている。正直貼り紙なんかしなくても、冒険者は来なそうだけど……とか言うとリリスさんに何されるか分からないから黙っておくことにする。


「あのリリスさん。どこに行くんですか?」


「昨日のジェシカちゃんのところですよ」


「え?」


「だって彼女は上級者ギルドの『ホワイトナイツ』で働いていたんですよね?でも昨日クビになった。こんなチャンス滅多に無いじゃないですか!」


 つまりリリスさんは彼女を雇おうとしていると?確かにリリスさんの言う通り、彼女がいれば冒険者が来るようになるかもしれない。オレやリリスさんよりギルドのことは詳しいだろうし。


「でもどこにいるか分かってるんですか?」


「はい。抜かりなく。昨日彼女の服に『魔力玉』を仕込んでおきましたから!盗賊のスキルです。遠く離れた相手の位置を知ることができます」


 いや怖っ!いつの間に!?ってか犯罪だろこれ!


「ふふふ。これも立派な戦略です。大丈夫です。バレなければ問題ありませんし、バレて何かしようとするなら殺せばいいですしね」


 リリスさんはすぐに消そうとする。怖いってマジで!


「さぁ着きました!この宿屋にジェシカちゃんがいますよ。行きましょう」


 そしてオレとリリスさんはジェシカさんの泊まっているという宿に入る。部屋にたどり着きノックをすると、中からジェシカさんが出てくる。本当にいたよ……恐るべしリリスさん……。


「え?なんであなたたちがここに?」


「立ち話はあれですから中に入りますね」


「あっちょっと!」


 リリスさんは強引に中に入る。オレもその後に続く。部屋を見ると荷造りされてあって、もうすぐ出発する感じだった。


「あのジェシカさん……」


「ああ……故郷に帰ろうと思って。私みたいな生意気なギルド受付嬢はいらないらしいから」


「そっか……」


「でもあなたたちには関係ないわよね?私はただのニートだし」


「関係ありますよ?ねぇエミルくん」


 そう言いながらリリスさんはオレの背中をバンッと叩く。ギルドマスターのオレが勧誘しろと言うことだよなこれ?


「あのさ……もし良かったらオレたちのギルドで働かないか?」


「まぁエミルくんナイスアイデア!」


 リリスさんは棒読みでわざとらしく手を叩いて喜ぶ。


「……どうしてそこまでして私なんかを?」


「それは……教えてくれないか?オレにギルドのことを」


「はい?」


 ジェシカさんは首を傾げる。それもそうだ。ギルドマスターを名乗っているやつからいきなりギルドのことを教えてくれなんて言われたら、誰だって驚くだろう。その時リリスさんが口を開く。


「あのですねジェシカちゃん。エミルくんは戦闘の才能もないですし、弱すぎて話しにならないし、男として良いところがあまりない人間なんですけど、それでも私とのギルドのことを考えて必死なんです。だから協力してください」


 めちゃくちゃ毒舌だ。酷い言われようだなオレ。でも事実なので何も言えない。


「でも……」


「お願いします!ジェシカさん!」


 オレは頭を下げる。今はジェシカさんに頼るしかないんだ。


「はぁ……分かった。いいよ。協力する。ただし条件がある」


「条件?」


「うん。私はきっとあなたに意見を出すと思うし、納得してもらえないかもしれない。でも私の言うことをちゃんと聞いてほしい。そして私がダメだと思うようなことがあった時は容赦なくクビにして」


「そんなことでいいのか?」


「うん。働く以上ギルド『フェアリーテイル』を上級者ギルドにしたいし。よろしくねギルドマスターさん?」


 こうしてオレとリリスさんのギルドに、新しい仲間が加わったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る