7. それだけ。

7. それだけ。




「んー!気持ちいいな」


 オレはそのまま王都の街並みを歩く。視界には冒険者らしき人物も多く見られる。なのになぜギルドに誰も来ないのか。その原因を調べる必要があるな。競合調査ってやつだな。


 しばらく歩いていると、ある建物の前で立ち止まる。そこはある冒険者ギルド。中に入るとそこそこ冒険者もいて賑わっている。


 オレはそのままクエストボードを見る。依頼書の枚数はさすがにこのギルドのほうが多いが、内容は特段変わったものは見られない。


 そのまま外に出る。外観も特段おかしなところは見当たらない。ということはやはり原因は内部の方にある可能性が高いな。その後もいくつかのギルドを調査したが、どこも同じような感じだった。


「はぁ。どこもかしこも普通か……これじゃあ本当に原因がわからないぞ……」


 するとその時、通りかかった路地裏で言い争うような声が聞こえてきた。オレがふとその声の方を見ると1人の男と少女が言い争っていた。


「おいお前。もう一度言ってみろ」


「……だからこのままではこの冒険者ギルドは潰れます」


「は?何を言ってるんだお前?ここは王都の上級ギルド『ホワイトナイツ』だぞ?オレがいる限りこの冒険者ギルドは安泰だ。それにオレはギルドマスターだ。口の聞き方に気をつけろよクソガキが!」


「ふん。あなたがどんなに強くても、この冒険者ギルドは確実に衰退していきます。なぜなら……」


 少女がそこまで言うと、そのギルドマスターらしき男は少女を突飛ばし、胸ぐらを掴んだ。


「調子に乗るなよ小娘が!たかが受付嬢のクセにオレに意見しようってのか!?」


「きゃっ……」


 オレは慌てて飛び出し、男の手を掴んで離した。


「ちょっと待った!女の子相手に酷いじゃないか!」


「あぁ?誰だよテメェは?関係ない奴は引っ込んでろ!」


 そう言われるがオレは引かない。女の子に手を出すなんて最低な野郎だ。


「邪魔だ!」


 オレはその男の拳を颯爽と避け、カウンターをお見舞いする……訳でもなく、そのままボコボコにされる。


「ぐはぁ!」


「あははは!弱いなお前!弱すぎて話になんねぇよ!まぁいい。お前はクビだ」


 そう言われる少女。そしてオレはそのまま意識を失った。



 ◇◇◇



 目を覚ますと見慣れた天井が見える。どうやらベッドに寝ているようだ。


「目が覚めましたか?マスター?」


 リリスさん?そうか。オレ殴られたあと気を失ってたのか……。


「すいません。情けない姿をお見せして……」


「いえ大丈夫です。この子から話を聞きましたから。それにしてもダサいですねボコボコにされて。やっぱりエミルくんは戦闘の才能がありませんか」


 ……あれ?毒を吐かれてない?なんか思ってたのと違うんだが?オレは怪我をしていない方の頬を触りながら、その少女を見る。


 髪の長さはリリスさんくらいで茶髪のロング。瞳の色も茶色で、スタイルはリリスさんより少し良さそうだな。服装は白いブラウスに黒いベスト、下はチェック柄のスカートを履いている。そしてその顔立ちは、どこか幼さが残りつつも大人びていて、とても綺麗な人だと思った。年齢は恐らく10代後半だろう。


「あの……どうして助けてくれたの?」


「いや……どうしてと言われても……目の前で胸ぐらを掴まれてたら誰でもそうするだろ?」


「え?そ、それだけ?」


「うん。まぁ他に理由はないけど?」


「……弱いのに変な人」


 弱いのには余計だが。オレ泣くぞ?でもこの子が無事ならそれでいいか。


「それより、オレはエミル。この冒険者ギルド『フェアリーテイル』のギルドマスター。一応な」


「私はリリス=エーテルツリーです。最強で可愛いギルド受付嬢です。あなたは?」


「……私は……ジェシカ。今は……ニート。助けてくれてありがとう。それじゃ」


「待ってくれ!」


 この子は、あの上級ギルドで働いていた子だ。このギルドに、なぜ誰も来ないのか原因が分かるかもしれない。


「その……ギルド『フェアリーテイル』はまだ冒険者が1人も来てないんだ、原因が分からない。何か分からないかな?」


「エミルくん……」


 オレがそう言うとジェシカは足を止め、一瞬考える。そしてオレとリリスさんの方に振り返り言った。


「……ギルドとしては合格だと思う。綺麗な内装、クエストボード、そして受付のしやすい受付嬢さんがいる。問題はないよ。でも……それだけ。そんなギルドはこの王都にはたくさんある。むしろそれが当たり前なんだから」


 ジェシカはそのまま部屋を出て行く。「それだけ」その言葉がどれくらい致命的なのかをオレは今痛感したのだった。

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